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もっと知ろう認知症基本法 その1

下坂厚さん撮影
撮影:下坂厚

2024年1月1日、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」(認知症基本法)が施行されました。この法律では、「国民の責務」(みんなの責任)として、共生社会の実現を推し進めるために必要な認知症に関係する正しい知識や認知症の人に関係する正しい理解を深めるとともに、共生社会の実現に力を尽くすよう努力する責任があることが定められました。すでに認知症のある人とともに歩んでいる人も、「まだ、認知症ってよく分からないな」と感じている人も、まずは、認知症基本法を読んでみませんか。
9月は同法で定められた「認知症月間」9月21日は「認知症の日」です。

「法律」と聞いただけで、難しいと思ってしまう人も多いことでしょう。
そんな人のために、福祉ジャーナリストの町永俊雄さんが、認知症基本法の条文を日常の言葉で記した「わかりやすい版」を作成してくださいました。
その文章に、若年性認知症当事者で京都府認知症応援大使の下坂厚さんが撮影した写真を添えて、全四章の認知症基本法を1章ずつ、ご紹介します。
その1は、「目指すこと」「認知症を考えるときのいちばん基本的で大切な考え方」などが記された第一章です。

※認知症基本法ができた背景などを詳しく知りたい方は、特集「共生社会の実現を推進!認知症基本法」をご参照ください。

共生社会の実現を推進するための認知症基本法
(認知症基本法:わかりやすい版)

第一章 総則(全体に関わる決まりごと)

第一条 目的(目指すこと)

この法律は、認知症の人が尊厳(自分が自分らしくいるために大切にしている考え方や生き方)を保ちながら希望を持って暮らすために、認知症についての決まりごとをつくったり考えたりするときの基本理念(私たちや社会がこうあるべきだという一番大切な考え方)を決めて、国や都道府県、市町村の責任を明らかにします。
また、認知症に関係する法律や制度を作ることをバラバラではなく順序よく進めていき、そのことで、認知症の人だけではなくみんな誰もが自分の得意なことやできることで活躍し、認知症の人が他の人々と互いに力を合わせ支え合いながら、ともに暮らすことができる安心で活力に満ちた社会(これを、「共生社会」とします)を実現することを目指します。

第二条

この法律で「認知症」とは、アルツハイマー病やその他の神経や脳の血管の病気によって、ふだんの暮らしで、理解や判断、あるいは記憶や言葉などが以前より思い通りにならなくなった状態(認知機能の低下)をいいます。

第三条 基本理念(認知症を考えるときのいちばん基本的で大切な考え方)

認知症施策(認知症に関係する法律や制度)は、認知症の人が尊厳と希望を持って暮らすことができるように、次の項目に書いたことを基本理念として行なわなければなりません。

 すべての認知症の人が、基本的人権(人が生まれながらに持っていて、誰からも奪われない権利)を持っている個人として、その人自身の意思によって自分の暮らしをおくることができるようにしなければなりません。

 みんな誰もが、共生社会の実現のために必要な認知症の正しい知識と認知症の人についての正しい理解を深めることができるようにしなければなりません。

 認知症の人にとって自分の暮らしにさまたげになることを取り除くことで、自分の住む町で安心して自立(自分で選び決めた生き方ができること)した生活ができるようにするだけではなく、認知症の人が自分の意見を述べることや、社会のどんな分野にも参加し積極的に関わることで、自分の得意なことやできることに取り組むことができ、社会で活躍できるようにしなければなりません。

 認知症の人のどうしたいか、どうするつもりかといった考えを十分に尊重しながら、適切で良い保健医療サービス(健康でいられることや病院に行ったり医者に診てもらうこと)や福祉サービス(必要な時に助けてもらうこと)が、いつでもどんな時でも提供されなければなりません。

 認知症の人に対する支援だけでなく、その家族やその他認知症の人の暮らしに深く関わっている人(以下「家族など」とします)に対する支援も適切に行い、認知症の人や家族などが、自分たちが住んでいる街で安心して日常の暮らしができるようにしなければなりません。

 認知症に関係する専門的な研究だけでなく、異なる分野の研究も合わせて共生社会の実現の力となる研究をおし進めます。
認知症や軽度の認知機能の障害の予防や診断、治療、リハビリテーション、介護の方法などの研究を進めます。
認知症の人の社会参加はどうあったらいいのか、また、認知症の人が他の人々と支え合いながら共生することができる社会環境(暮らしの状態や街の住みやすさ、居場所や人々との交流はあるか、などの環境)をつくり利用できるような研究をすすめます。
こうした認知症に関わる研究を進める中で、科学的な知識にもとづいた研究などで分かったことやできることなどは、誰もが広く知ることができ、自分の生きることや暮らしのより良い力となるようにしなければなりません。

 教育、地域づくり、雇用、保健、医療、福祉その他の関係する分野が互いに関係し合った取り組みを行わなければなりません。

第四条 国の責務(国の責任)

国は、前に示した第三条の基本理念にしたがって、認知症施策(認知症に関係する法律や制度)をどの分野とも関わり合いながら計画的につくり、実際に行う責任があります。

第五条 地方公共団体の責務(都道府県市町村の責任)

都道府県と市町村は、国と役割を分けあいながら担当し、その都道府県市町村の地域の状況に合わせて認知症施策を各分野が互いに関係しあって計画的につくり、実際に行う責任を持ちます。

第六条 保健医療サービスまたは福祉サービスを提供する者の責務

保健医療サービスまたは福祉サービスを提供する人々は、国や都道府県市町村が行う認知症施策に協力するとともに、適切で良い保健医療サービスまたは福祉サービスを提供するように努力する責任があります。

第七条 日常生活及び社会生活を営む基盤となるサービスを提供する事業者の責務(認知症の人が働いたり住んでいる街や会社で、生活を送る上で欠かせないサービスを提供することを仕事としている人々の責任)

電車やバスなどの公共交通事業者、銀行などの金融機関、スーパーや商店などの小売業者その他の、認知症の人が日常生活や社会生活を送る上で欠かせないサービスを提供する会社など事業者は、国などの認知症の取り組みに協力するとともに、サービスを提供する場合、認知症の人に対しては、事業に支障ない限り必要な合理的配慮(認知症の人が何か困ったり、やりづらいことがあれば、その人の立場になって必要とすることをできるようにすること)をする責任があります。

撮影:下坂厚
撮影:下坂厚

第八条 国民の責務(みんなの責任)

国民は、共生社会の実現を推し進めるために必要な認知症に関係する正しい知識や認知症の人に関係する正しい理解を深めるとともに、共生社会の実現に力を尽くすよう努力する責任があります。

第九条 認知症の日および認知症月間

みんな誰もが広く認知症についての関心と理解を深めるために、認知症の日と認知症月間を決めることにします。

 認知症の日は9月21日とします。認知症月間は9月1日から9月30日までとします。

 国や都道府県市町村は、認知症の日や認知症月間の期間中にはその目的や意味にふさわしい行事が行われるよう呼びかけなどをしなければなりません。

第十条 法制上の措置など(法律について行うこと)

政府は、認知症施策を行うために、必要な法律を新しくつくったり、いまある法律を変えたり、お金を用意しなければなりません。

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