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認知症基本法が成立 希望を持って暮らせる共生社会の実現を目指す 

「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」の成立を受けて記者会見をする「日本認知症本人ワーキンググループ」代表理事の藤田和子さん(左)と、「認知症の人と家族の会」代表理事の鎌田松代さん=東京・霞が関

認知症に関する初の法律「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が14日、参院本会議で全会一致で可決、成立しました。認知症の人が尊厳を保ち、希望を持って暮らし続けられる共生社会の実現を目指し、国や地方自治体は認知症に関する総合的な施策を計画的に取り組んでいくことが定められています。国民は認知症の人に関する正しい理解を深め、共生社会の実現に寄与するよう努めることが責務とされました。同法は、公布から1年以内に施行されることになっています。

この日、「認知症関係当事者・支援者連絡会議」(「認知症の人と家族の会」など計4団体で構成)と「日本認知症本人ワーキンググループ」は東京・霞が関の厚生労働省で記者会見を開き、同法への期待や思いを語りました。
同法の成立について、「認知症の人と家族の会」代表理事の鎌田松代さんは「これで認知症について新たな展開ができると思った」、「日本認知症本人ワーキンググループ」代表理事の藤田和子さんは「とても感慨深かった。これまでたくさんの(認知症)本人の方々と一緒に様々な提案をしてきた成果の一つだと思い、うれしかった」と喜びを語りました。

同法では、認知症施策の基本理念として、全ての認知症の人が自らの意思によって日常生活や社会生活を営めるようにすること▷国民が、認知症や認知症の人に関する正しい知識や理解を深めることができるようにすること▷認知症の人が意見を表明したり、活動に参画したりする機会を確保すること▷認知症の人だけでなく、その家族らへの支援も適切に行われること――など7項目を明記しています。

※「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」については、こちらの記事も参照

認知症対策ではなく、国民全体の法に

同法の内容で評価する点の一つとして、鎌田さんは、認知症の人が「社会の一員として尊重される」と位置づけられたことを挙げました。長年、認知症の人や家族は「認知症の人は何も分からない人」「認知症になったらおしまい」という認知症への偏見や差別に悲しい思いをしてきたとし、同法の理念が具現化されていくことで近い将来、「認知症の人」ではなく「ひとりの人」としてかかわることが当たり前の社会や地域になるようにと期待を寄せました。
藤田さんは、法律の名称が単に「認知症基本法」ではなく、「共生社会の実現を推進する」という文言が入ったことが重要だとしました。この文言は、法律の目的にも記され、同法が認知症対策の法ではなく、「誰もが認知症になっても自分らしく暮らせる」ことを目指す、国民全体の法になったと指摘しました。「この目的をきれいごとにせず、着実に普及・推進していくことが重要」と話しました。

計画策定の際には、認知症の人や家族の意見を聴いて

ただ、認知症と診断された後、なかなか適切な支援を受けられずに「空白の期間」というものが生じ、その後の人生に悩み、苦しむ認知症の人や家族がまだまだ多いのが現状です。認知症の診断後に働き続けることの困難さや、働きながら介護をする人の増加といった課題もあります。
こうした様々な課題を解決し、共生社会を実現していくために、政府は首相を本部長とする推進本部を設置し、認知症の人や家族らの意見を聴いた上で基本計画を策定することが同法には定められています。
一方で、都道府県と市町村には推進計画を作成する“努力義務”が課されるにとどまりました。
この点について、鎌田さんは、法案作りの過程では、努力義務を義務に書き換えることを提案したことを明らかにした上で、「努力義務のままの方が地域の状況にあった中身のある計画を策定させることができる」という見解もあったとしました。今後は、すでに良い取り組みをしている自治体について積極的に情報発信をするなどしながら、住民や認知症の人の声で「自治体を動かしていきたい」と話しました。認知症の人や家族が、最初から最後まで関わり、一緒に創り上げていく。「“どこか”ではなく私の住む街が“認知症にやさしいまち”になって欲しい」と鎌田さん。
藤田さんも「基本法の形式的な推進ではなく、各自治体等で本人が声を伝えやすく、協議する環境を整備しながら、本人とともに施策や実務を推進していくことを強く期待します」と話しました。

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