本人の声をもとに、誰もが暮らしやすい環境づくりを JDWGの藤田和子代表理事の期待
認知症に関する初の法律「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」の成立を受けて、「日本認知症本人ワーキンググループ」の藤田和子代表理事が、この基本法で重要だと考えることや期待することについて語りました。詳報します。
日本認知症本人ワーキンググループ代表理事の藤田和子です。私は45歳の時、アルツハイマー病と診断されました。今年で16年になります。
認知症になってからも、良い環境があれば希望と尊厳を持って暮らし続けられることを、私たち本人は体験を通じて確信しており、日本認知症本人ワーキンググループ(JDWG)では、2014 年の結成以来、よりよい社会を築く基本法に関心を寄せ、活動を展開してきました。
※日本認知症本人ワーキンググループについては、こちらをご参照ください。
今回成立した基本法により、私たち認知症の本人が、いつでも、どこでも、認知症とともに希望と尊厳を持って暮らせる社会を実現する法的根拠が整備されたことになると評価します。
今回成立した基本法では、次のことが特に重要と考えています。
●1点目
法律の名称と目的に、単に「認知症基本法」ではなく、『共生社会の実現を推進する』という文言が入ったことです。
このことにより、この基本法が、認知症対策の法律ではなく、「現に認知症とともに生きる本人、そしてこれから認知症になるかもしれない人、まさに国民一人ひとりがともによりよく生きる」ための法律、となったと思います。
「相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する活力ある社会の実現」を達成目的とすることが明示され、この目的をきれいごとにせず、着実に普及・推進していくことが重要だと思います。
今回の法の名称は、少々長いですが、名は体を表します。国民全体に基本法の目的が
「認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるよう」、「共生社会の実現を推進すること」であることをしっかりと知っていただくために、この名称を忠実に使っていきたいと思います。
●2点目
基本理念の冒頭に、認知症の人の基本的人権を掲げたことです。
認知症の人が、若くても超高齢でも、軽度でも重度でも、また、自宅で暮らしていても施設や病院で暮らしていても、どのような状態でも、「基本的人権を持っていること」ことが法として明示されたことは、非常に重要です。
基本的人権は国民としてあたりまえのはずですが、認知症になると、基本的人権が蔑 ろにされた状況で暮らし続けなければならない現状があります。どれほど多くの人が、
今この時も、不安や悔しさ、孤独の中で無念な時を過ごしていることか。そして、本人のみでなく、社会にとっても大きな不安と不利益を生んでいます。
私たち本人の人権が守られる社会になれば、本人が自信を取り戻して、いきいきと暮らせるのではないでしょうか。そして、家族も、多くの関係者も、もっと前向きに、ともに暮らすことを考えられるようになるのではないでしょうか。
超高齢社会となり、誰もが認知症になりえます。基本法で、基本的人権、そして本人の意思表明や社会参画が明記されたことに基づき、全ての施策や研究等において、また地域でも施設や病院でも、本人の声をもとに誰もが暮らしやすい環境づくりが本格的に進むことを、切に期待しています。
●3点目
目的や基本理念を絵に描いた餅にしないために、政府および自治体が、認知症の人及び家族等の意見を聴きながら計画的に推進することが明記された点です。
私たち本人がどこで暮らしているかで、尊厳と希望を持って暮らせるか、暮らしの実際に大きな差が生じてしまっている現状を、この基本法に基づき着実に打開していっていただきたいと強く期待しています。
この基本法の成立に至るまで、私たち本人が何度も声をあげ、国会議員の方々が声を聴き続け、繰り返し協議を行いながら、法文に具体的に反映して下さいました。
こうしたプロセスこそ非常に重要であり、今後は、基本法の形式的な推進ではな く、各自治体等で本人が声を伝えやすく、協議する環境を整備しながら、本人とともに施策や実務を推進していくことを、強く期待します。
最後に、私たちは、2018 年に「認知症とともに生きる希望宣言」を発表しております。
※「認知症とともに生きる希望宣言」については、こちらをご参照ください。
これは、私たち認知症とともに暮らす本人一人ひとりが、体験と思いを言葉にし、それらを寄せ合い、重ね合わせる中で、生まれたものです。
基本法の成立をうけて、さまざまな人たちがこれから動きはじめると思いますが、私たち本人も希望宣言のとおり、これまでの常識の殻を破りながら前をむいて、ともに取り組んでいきます。
なお、本日の、基本法成立をうけて、JDWG の本人を中心に声を集めた「基本法の今後の展開への期待と希望」を今後発表する予定です。
※2023年6月14日に厚生労働省で行われた記者会見でのスピーチです。