デイでは一人で食事できる母 なぜ自宅だとできない?【お悩み相談室】
構成/中寺暁子
認知症介護指導者の中島健さんが、認知症の様々な悩みに答えます。
Q.認知症の母(87歳)は認知症対応型のデイサービスに通っています。デイサービスではスムーズに一人で食事ができているようですが、自宅ではやたらと時間がかかったり、途中でやめてしまったりすることがよくあります。なぜ自宅ではうまくいかないのでしょうか(60代・女性)
A.自宅でのお母さんがうまくいっていないというよりも、デイサービスにいるときに一人で食事ができていることがすごいことなのだと思います。食事をするという行為には、お箸やフォークなどを使って食べ物を取る、それを口まで運ぶ、咀嚼(そしゃく)する、飲み込むなど、多くの作業が詰め込まれています。87歳で認知症がある方がこれらの作業を一人でスムーズに繰り返すのは、難しいことです。
デイサービスでは、認知症の人でもスムーズに食事ができるように、様々な工夫を取り入れ、環境を整えています。食事前には、手を洗ったり、食器を並べるなど一緒に準備をしたりして、これから食事が始まるという雰囲気づくりをしていきます。食事中は周囲に自分と同じように食事をしている利用者の方たちがいて、スタッフは「これ、おいしいみたいですよ」など、こまめに話しかけて食事を促します。こうした環境の中にいるからこそ、お母さんは一人でもスムーズに食事ができるのだと思います。
こうした環境を自宅で整えるのは難しいことです。デイサービスでは、本来の能力以上に頑張っているかもしれないので、家族としては「家にいるときくらいはゆっくりどうぞ」という気持ちで、お母さんがご自身のペースで食べるのを見守ってほしいと思います。なかなか片付けられずイライラしてしまうかもしれませんが、そのイライラはお母さんに伝わり、BPSD(行動・心理症状)を悪化させることにつながりかねません。
気になるのが、食事を途中でやめることもあるという点です。何かしらの原因が隠れているかもしれないので、デイサービスでは食事を途中でやめることが全くないのかどうかなど、スタッフに聞いてみるといいでしょう。認知症の症状が悪化して、食べ物を認識できなくなっていることなども考えられます。また、もともと周りの空気を察するタイプの方であれば、家族の表情やちょっとした言い方から「早く食事を終えてほしい」という気持ちを酌み取って、食事を途中でやめるということもあるかもしれません。
自宅でもゆっくりであれば食べられること、途中までは食べられることはすごいことです。お母さんに対する見方を少し変えてみると、気持ちがラクになるのではないでしょうか。
【まとめ】認知症の母がデイサービスではスムーズに一人で食事ができるのに、自宅ではやたらと時間がかかったり、途中でやめてしまったりするときには?
- デイサービスは認知症の人でも一人でスムーズに食事ができるように、様々な工夫を取り入れている場。デイサービスでスムーズに食事ができていることがすごいことだと考える
- 自宅ではゆっくりでもいいので、自分のペースで食べてもらう
- 食事を途中でやめてしまう場合は原因があるかもしれないので、デイサービスのスタッフに相談する
≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました。≫