せめて住み慣れた家で暮らしたい…切なる願いを叶えてくれるヘルパーさん
《介護福祉士でイラストレーターの、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
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「山田さん」
遠くで誰かが、私を呼ぶ声がする。
けれど、知ったこっちゃない。
体を動かせなくなってから、私はひとりの世界にこもった。
このまま目を閉じて、うつろっていたいの。
なのに、なんだか首の周りが気持ちいい。
ふんわり、ぽかぽか。
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「おはようございます。山田さん」
首にあてられた温タオルに、意識が浮上して、
目が開いてしまった。
ああ、また来たのね。
訪問介護ヘルパーさん。
「顔を拭きましょうか?」
私がほほ笑み返すと、
ヘルパーさんは熱いタオルで、
右目、左目、口周りと、丁寧に清めていく。
——朝が来たのね。
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「さあ、起きましょうか?」
ヘルパーさんは私を抱えて、車椅子に座らせた。
ああ、私の家だ。
私の町の匂いだ。
座るだけで、生きる意欲が湧くなんて、
この歳になるまで、知らなかった。
今日も私はこの家で、
いつもの暮らしを続けている。
病に倒れたり、心身に障害を抱えたり、または高齢となって、
人の手を借りないと、暮らし続けられない状態になったとき。
それでも人は「住み慣れた家で、暮らし続けたい」と願うものです。
他のことはあきらめてもせめて、という、
私たちの多くがいつか抱くだろう、
切なる思いがそこにあります。
そしてその思いをかなえられるかどうかは、
訪問介護ヘルパーにかかっている、といっても過言ではありません。
体が動かなくなろうと、
認知症がどんなに進もうと、
私たちの日常は、絶え間なく続きます。
顔さえ自分で洗えなくなっても、です。
残酷なことだと感じるでしょうか?
でも、訪問介護ヘルパーに手を貸してもらえれば、
自分らしい暮らしが続けられる可能性が、存分にある。
それを知っているのと、知らないのとでは、
人生そのものの質や選択が、大きく変わってくるでしょう。
とはいえ、その重要さがなかなか世に知られておらず、
訪問介護ヘルパーは、担い手の少なさから
「絶滅危惧種」とさえ例えられます。
それでも、訪問介護ヘルパーは今日も各地で、奮闘しています。
目の前の人の、そのかけがえのない暮らしを支えるために。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
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