介護補助人材で活躍するアクティブシニアを効果的に集める2つのポイント 年齢・性別・学歴・資格の有無は関連なし
取材・岩崎賢一
介護や保育の人手不足が社会課題となっている中、介護施設や保育施設で60歳以上の「元気な高齢者(アクティブシニア)」を介護補助や保育補助として雇用し、専門的業務以外の周辺業務を担ってもらう取り組みが各地で進んでいます。これらの仕事へ就労意向を持つ人たちの特性を調べたところ、日ごろから生涯学習活動に参加している人ほど介護補助への就労意向を持っていることが分かりました。一方、保育補助は主観的健康感が高い人ほど就労意向を持っている傾向が見られました。調査分析を担当した東京都健康長寿医療センター研究所の相良友哉研究員は「どのような特性をもったアクティブシニアにアプローチすると効果的にリクルートできるか考えるうえで、この研究結果が一つの参考になると思います」と説明しています。
非専門的な周辺業務を通じたアクティブシニアの就労について考察
調査は、「NPO法人りぷりんと・ネットワーク」に加盟している首都圏の絵本読み聞かせボランティア団体の会員で、60歳以上のボランティア会員374人を対象に、2019年10~11月に自記式アンケート調査として実施されました。最終的に有効回答を得た295人のデータについて分析がなされました。
この団体の会員は、絵本の読み聞かせ活動を通じて定期的に保育園や幼稚園、介護施設を訪問していて、保育施設や高齢者施設へ一定の理解があり、継続的なボランティア活動によって地域福祉に貢献しています。さらに、先行研究から心身の健康状態が高い集団であることが報告されていて、就労するのに十分な健康状態を有しているとみられるため、この団体の60歳以上のボランティア会員を対象にした調査が実施されました。
回答者の約90%が女性で、平均年齢は73.7±5.9歳でした。介護補助として就労意向を持っている高齢者の割合は24.4%で、保育補助として就労意向を持っている高齢者の割合は36.3%でした。これらのうち、20.3%は介護補助と保育補助の両方に対して就労意向がある人たちでした。
生涯学習活動、高齢者同士の交流活動をしている団体へのアプローチが効果的
介護補助への就労意向を示した人の特性は、「就労意向がある群」の方が「就労意向がない群」に比べて、高齢者同士の交流活動(27.8%)と生涯学習活動(59.7%)が有意に多くみられました。
一方、保育補助への就労意向を示した人の特性は、「就労意向がある群」の方が「就労意向がない群」に比べて日常的に子どもや若い人と関わっている人(78.6%)、趣味・特技の活動に参加している人(35.5%)が有意に多くみられました。
また、介護補助、保育補助ともに、就労意向は年齢や性別、学歴、資格の有無には関連していないことも明らかになりました。
ボランティア活動を通じて高齢者の理解が進み、近隣の介護施設で働くことのハードルが下がる
この調査は、日常的に対人的ボランティアを行っている地域の高齢者を対象に実施されたものですが、4人に1人が介護補助として、3人に1人が保育補助として、就労意向を持っていることが分かりました。相良研究員は「活動性が高く、ボランティア活動を通じてすでに地域の保育施設や介護施設とのつながりを持っている高齢者は、即戦力になりやすいと考えられます」と分析しています。
人生100年時代といわれる中で、学び直しやリカレント教育が注目されています。この調査では生涯学習活動という用語が用いられていますが、相良研究員は「地域内の公民館や図書館などで行われている活動に参加することで、地域の高齢者への理解が進み、介護施設で働くことへの心理的ハードルが低くなった人たちが、介護補助として働くことに関心を示した可能性があります」と考察しています。また、新しいことを学ぶ姿勢があり、新しい刺激を求めている人たちともいえるそうです。具体的には「介護補助や保育補助として就労をしてもらうアクティブシニアを増やす啓発活動をする際には、日常的に対人的なボランティア活動をしている人や生涯学習活動をしているグループや団体に対して優先的にアプローチをすると、より効果的と思われます」と指摘しています。
*この記事は、東京都健康長寿医療センター研究所の藤原佳典副所長、相良友哉研究員への取材及び「日本公衆衛生雑誌」に掲載された論文「介護補助・保育補助人材として就労意向を持つ高齢者の特性」(https://doi.org/10.11236/jph.21-119)を参考に作成されています。