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過剰飲酒と認知症の関係 リスクを高める飲酒量やアルコール性認知症の初期症状とは

【過剰飲酒】認知症のリスク因子を知る(国際アルツハイマー病協会/Alzheimer's Disease International)
【過剰飲酒】認知症のリスク因子を知る(国際アルツハイマー病協会)

国際アルツハイマー病協会の2023年の標語は”Never too early, never too late”(「早すぎるということもなければ、遅すぎるということもない」)です。

認知症への向き合い方として、早ければ早いほどよいものもあれば、遅くても対策をすれば諦めることはないというものもあります。

そのためには、まず認知症のリスク因子について知ることが重要であり、多くは日々の生活習慣に関連するものでもあります。12あるリスク因子の中から、その分野に詳しい有識者に認知症との関連や、できる対策について伺います。

第3回目は過剰飲酒です。さまざまな疫学調査から大量の飲酒は認知症の危険を高めることがわかってきました。一方で少量の飲酒であれば認知症の原因にならないだけではなく、予防になるといった報告もあります。飲酒と認知症の関連や適切な飲酒量、減酒の対策などについて、アルコール依存症を専門とする久里浜医療センター副院長の木村充医師に解説してもらいました。

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イギリスの権威ある医学誌『Lancet』では、中年期(45歳~65歳)の過度な飲酒は、認知症のリスク因子の1つとしています。また、過去に5年以上のアルコール乱用、または大量飲酒の経験がある高齢の男性は、そうではない男性と比べて認知症の危険は4.6倍という報告もあります。一方で、少量の飲酒は認知症のリスクにはならない、さらには認知症のリスクを減らすといった研究報告もあります。ただし、少量の飲酒が認知症のリスクを減らすというデータは調査対象者に偏りがあるといった指摘もあり、最近の研究では否定されています。

ではどの程度の量であれば、認知症のリスクを上げないのかという点ですが、厚生労働省では、1日あたりの平均純アルコール摂取量が男性40g(2合)以上、女性20g(1合)以上だと生活習慣病のリスクを高めるとしています。500ml缶のビール1缶が純アルコール換算で20gなので、男性は2缶、女性は1缶に相当します。認知症についても1日の平均がこれ以上になると、リスクが上がると考えていいでしょう。男性と女性で違いがあるのは、一般的に女性のほうがアルコールの分解速度が遅く、アルコールによる影響を受けやすいと考えられているためです。

厚生労働省「習慣を変える、未来に備える あなたが決める、お酒のたしなみ方(男性編)」を参考に編集部が作成【純アルコール20g(1合)とは】日本酒・度数:15%、量:180ml/ビール・度数:5%、量:500 ml/ワイン・度数:14%、量:約180ml/焼酎・度数:25%、量:約110ml/ウイスキー・度数:43%、量:60ml/缶チューハイ・度数:5%、量:約500ml・度数:7%、量:約350ml(イラスト/Getty Images)
厚生労働省「習慣を変える、未来に備える あなたが決める、お酒のたしなみ方(男性編)」を参考に編集部が作成(イラスト/Getty Images)

ただし、この数値が当てはまるのは中年期までです。高齢になると、肝臓でアルコールを分解する能力が低下していきます。また、体内の水分量の割合が減る分、若い世代の人と同じ量のアルコールを摂取しても血中濃度が高くなりやすいのです。酔いやすく、ふらついて転倒するといったリスクも高くなります。つまり高齢者はさらに少量を意識する必要があるのです。

多量の飲酒によって脳の萎縮が進む

なぜ過剰飲酒が認知症のリスクを高めるのかということについては、飲酒量が増えることで脳が萎縮することが一因と考えられています。過剰飲酒が原因となる認知症の中に「ウェルニッケ・コルサコフ症候群」があります。過剰飲酒によってアルコールを分解するために使われるビタミンB1が不足し、ビタミンB1を投与して回復しても認知症のような症状がみられる状態を指します。初期症状の特徴としては、最近のことを覚えられず、記憶の穴を埋めようとして作り話をするといったことがあります。通常の認知症と違って、比較的若い世代にも多いのですが、脳の画像を見ると実年齢以上に萎縮が進んでいる傾向があります。ただし、若い世代の人は、飲酒を完全にやめることができれば症状が回復するだけではなく、画像上も元に戻るケースがあります。

脳とアルコールの関係については、こちらもご参照ください。
脳が萎縮するアルコール性認知症 症状や回復の可能性を専門医が解説

また、脳梗塞は血管性認知症の原因になりますが、お酒を多量に飲む人は飲まない人に比べて、多発性の脳梗塞を起こしやすいというデータもあります。

多量の飲酒は、認知症のリスクとなる糖尿病や高血圧、運動不足、喫煙、社会的孤立、抑うつ、頭部外傷とも関わります。うつ状態で精神を落ち着かせるために飲酒をする、飲酒をするとうつを悪化させるという悪循環を引き起こします。また飲酒によってふらついて転倒し、CT検査をすると脳出血を起こしていたということは珍しくありません。

つまりアルコールそのものが認知機能に影響を及ぼすだけではなく、さまざまな因子と関連して認知症のリスクを上げると考えられます。

多量の飲酒をしている人は、控えることで認知症を予防するだけではなく、糖尿病や高血圧といった生活習慣病を防ぐことにもつながります。

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自覚がない場合が多い。過剰飲酒の治し方

自分の飲酒量が過剰であるということは、意外と気づきにくいものです。量は増えるほど認知症のリスクは高まっていくので、まずは自分が1日にどれくらい飲んでいるのか、飲酒日記などをつくって記録し、飲酒量を把握することが大切です。ウェブ上で自分の飲酒量をチェックしたり、記録したりできるツールもあるので活用するといいでしょう。

SNAPPY 飲酒チェックツール

過剰飲酒によって問題が生じているかどうかをチェックするためには、WHO(世界保健機関)が作成した「AUDIT」(オーディット)というチェックテストも役立ちます。

AUDIT

飲酒量を把握したうえで、達成できそうな目標を立てて少しずつ減らしていくことが効果的です。

お酒の種類をアルコール度数が低いものに変えるものいいと思います。注意したいのが、アルコール度数9%くらいあるような缶チューハイです。9%のチューハイは350ml缶で純アルコール換算すると25g。女性の場合は1日平均1本飲むと、生活習慣病のリスクを高める量になります。度数が高いにも関わらず、ウイスキーなどよりも飲んでいる感覚が薄く、安価で手軽に手に入る点が過剰飲酒につながりやすく、要注意です。

高齢者の場合はやることがないと飲酒の量が増える傾向があるので、趣味や運動の時間、人と会う時間を増やすといったことが有効です。

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自分で量をコントロールできなければ、病院に設置されている減酒外来などを受診するのも1つの方法です。当院の減酒外来は飲酒量を減らしたいと思っている人であれば、誰でも対象になります。完全にやめる必要はなく、患者さんに合わせたゴールを設定します。

認知症の人で過剰飲酒がある人も同様です。本人が過剰飲酒をしているという自覚がないことが多いのですが、デイサービスを利用したり、家族など周りの人が金銭の管理をしたりといったことで、飲酒をやめることは可能です。

日本人は飲酒による悪影響を受けやすい人が多い

飲酒をすると「アセトアルデヒド」という有害物質が発生しますが、日本人はアセトアルデヒドを分解する酵素を持たない人、あるいはその働きが弱く分解するのに時間がかかる人が半分くらいいます。アセトアルデヒドと認知症の関連は明らかになっていませんが、脳の機能に影響を及ぼす可能性は否定できません。

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若い世代の人は飲酒量が減っていますが、当院ではアルコール科を受診する高齢者が増加傾向にあり、特に60代が多くなっています。人口の高齢化によるものですが、高齢者の過剰飲酒は健康寿命にも関わるので、大きな問題です。

厚生労働省「習慣を変える、未来に備える あなたが決める、お酒のたしなみ方(男性編) 解説書」を参考に編集部が作成【生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している男性の割合(1日あたりの平均純アルコール摂取量が40g以上)】最も割合が高いのは50代だが、60歳以上の年配者が増加傾向にある
厚生労働省「習慣を変える、未来に備える あなたが決める、お酒のたしなみ方(男性編) 解説書」を参考に編集部が作成

国をあげての取り組みとしては「値段を上げる」「広告を規制する」「手に入れるまでのアクセスを悪くする」という3つが有効だとされています。ただし、こうした方法は若い人には効果があっても、飲酒習慣が定着している高齢者には難しいのが現状です。

減酒外来を受診する方は、飲酒によって健康や生活に問題が生じている人、家族にすすめられた人が多いのですが、最近はご自身で飲みすぎではないかと心配して受診する方も増えている印象があります。

飲酒量を減らすことは、認知症だけではなく、さまざな生活習慣病の予防になり、健康寿命を延ばします。飲酒量が気になる人は、早めに対策することをおすすめします。

過剰飲酒と認知症の関連について解説してくれたのは……

木村充・独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター 副院長 アルコール科
木村充(きむら・みつる)
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター 副院長 アルコール科
1995年慶應義塾大学医学部卒、同院精神神経科に入局。95年から国立久里浜病院(現、久里浜医療センター)精神科、2010~2012年米国国立アルコール乱用・依存症研究所客員研究員。専門はアルコール依存症。日本精神神経学会精神科指導医・専門医。精神保健指定医。

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