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運動不足と認知症の関係とは?運動が認知症予防になるメカニズムや効果的な運動の種類・頻度

【運動不足】認知症のリスク因子を知る(国際アルツハイマー病協会/Alzheimer's Disease International)
【運動不足】認知症のリスク因子を知る(国際アルツハイマー病協会)

国際アルツハイマー病協会の2023年の標語は”Never too early, never too late”(「早すぎるということもなければ、遅すぎるということもない」)です。

認知症への向き合い方として、早ければ早いほどよいものもあれば、遅くても対策をすれば諦めることはないというものもあります。

そのためには、まず認知症のリスク因子について知ることが重要であり、多くは日々の生活習慣に関連するものでもあります。12あるリスク因子の中から、その分野に詳しい有識者に認知症との関連や、できる対策について伺います。

第4回目は運動不足です。近年認知症の予防方法について、さまざまな研究が実施されていますが、その中でも古くから効果が認められているのが、運動です。なぜ運動が認知症の予防になるのか、どのような運動が効果的なのか。長年にわたって認知症の臨床、研究に携わってきたメモリークリニックお茶の水理事長・院長の朝田隆医師に解説してもらいました。

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運動が認知症予防に効果的であるということは、集団を対象としたさまざまな疫学調査によって証明されていて、現在運動は確立された予防法の1つとなっています。

ではなぜ、運動が認知症予防に効果的なのでしょうか。1つの理由として考えられているのが、脳内の神経栄養因子(BDNF)というタンパク質の分泌量が運動によって増えるということです。神経栄養因子は、神経細胞の発生や成長、修復に作用します。アルツハイマー型認知症は脳の神経細胞が壊れて死んでいくことで引き起こされるので、運動によって神経栄養因子の分泌量を増やし、新たな神経細胞ができるということは、認知症の予防につながるというわけです。実際にアルツハイマー型認知症の人は、神経栄養因子が減少しているという報告もあります。

運動が認知症予防に効果的であるということは、逆に言えば、運動不足は認知症のリスクになるということが、容易に想定できます。根拠の1つとして有名なのは、高齢者の「セデンタリ-・ライフスタイル(座って過ごす時間が長い生活習慣)」が生活習慣病や認知機能の低下と関連するという研究です。セデンタリ―・ライフスタイルは人との交流がない、活動範囲が狭いといったことも含まれるので、運動不足と同義ではありませんが、深く関連することは間違いありません。

椅子に腰かけるひと、Getty Images
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イギリスの権威ある医学誌『Lancet』では、高齢期(65歳以上)の運動不足は、認知症のリスク因子の1つとしています。運動不足は、ほかのリスク因子である高血圧、糖尿病、肥満の原因の1つでもあります。つまり運動不足が、ほかのリスク因子となる生活習慣病なども引き起こし、認知症を発症しやすくなるということもいえます。

認知症予防に効果的な3つの運動

では、認知症を予防するにはどのような運動が効果的なのでしょうか。明らかになっているのは、次の3つです。

・有酸素運動
有酸素運動といえばウォーキングですが、ただ歩くだけでは効果は期待できません。大事なのはスピードで、目安としてはウォーキングしながら会話するのが難しいくらいの“早歩き”です。ただし、このスピードではすぐに疲れてしまうので、間に“ゆっくり歩き”をはさみ、呼吸を整えます。早歩きがトータルで10分程度、ウォーキング全体で30分程度を2日に1回くらいの頻度で続けましょう。

ジョギングする夫婦、Getty Images
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運動と認知症の関係についてはこちらも
「歩いて改善 運動と認知症の関係を専門家が徹底解説 歩き方のコツ」

・レジスタンス運動
筋力と筋肉量をアップする筋トレのことで、腹筋やスクワットなどが代表的です。日常生活の中で無理なくとり入れるのであれば、階段の上り下りがおすすめです。筋トレになるのは主に上りのときですが、下りのときも骨に刺激が加わるので、骨粗しょう症予防になります。

階段を降りるひとたち、Getty Images
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・バランス運動
バランス感覚を鍛える運動として、片足立ちを左右それぞれ30秒ずつおこないます。テレビを見ながらなど、生活の中でこまめに取り入れやすいので、毎日おこなうのが理想です。

テレビを見ながら片足立ちをするひと、Getty Images
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以上の3つの運動にデュアルタスクを追加するとより効果的です。デュアルタスクとは、2つ以上のことを同時におこなうことで、例えばウォーキングしながら計算するといったことです。誰かと一緒にウォーキングするときには、しりとりをしながら歩くと楽しめます。特におすすめは「ツーバックしりとり」で、「リス」→「スイカ」→「カメ」と続けたら、「2つ前の言葉は何だった?」と質問して戻りながら続けていきます。

「リス」「スイカ」「カメ」「2つ前の言葉は何だった?」「スイカ」/ウォーキングをしながら「ツーバックしりとり」する夫婦(写真・イラスト/Getty Images)
ウォーキングをしながら「ツーバックしりとり」(写真・イラスト/Getty Images)

すでに認知症を発症している人の場合、運動が症状を軽くしたり、進行をゆるやかにしたりするのかといった効果については明らかになっていません。運動をする意義が特に大きいのはMCI(軽度認知障害)の人です。予防に努めることで認知機能が改善したり、認知症への進行を防いだりすることが期待できます。

運動を長続きさせるためのポイント4つ

運動に取り組むにあたって大事なことは、継続することです。そのために意識したい4つのポイントを紹介します。

・いきなり全力ですべてをやろうとしない

音楽を聴きながら、軽く走るひと、Getty Images
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徐々に頻度を増やしていく、天気が悪い日は無理をしない、ウォーキングであれば徐々にスピードを上げていくことなどを意識しましょう。継続するためにも無理は禁物です。

・運動を実施できたら「褒める」こと
家族、友人、デイサービスのスタッフなど、1回達成できたら周囲の人が「今日もやれましたね」と褒めることが大事です。自分を褒めるのは難しいですが、達成感を得やすくするためには、カレンダーや手帳に実施した運動を記録することがおすすめです。また、運動を習慣にすると、ウエストが締まった、胸囲が大きくなったなど、体のサイズに変化が出てきます。それは、70代でも起こります。運動の成果を実感できると続ける励みになるので、サイズを測定して記録しておくのも1つの方法です。

・誰かと一緒に取り組む
友人など、誰かと切磋琢磨しながら取り組めると、自分だけがサボるわけにはいかないと自戒になるので、効果的です。

仲間とストレッチする人たち、Getty Images
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運動は健康上さまざまなメリットがあることが明らかになっているにも関わらず、運動不足は世界的な問題となっています。日本人の場合、成人の3人に1人が運動不足と言われています。年齢とともに動くのがおっくうになってきますし、暑さや寒さといった環境の変化にも弱くなります。しかし「人間は足から衰える」と言われ、足腰が衰えると外出する機会が減り、転倒すれば寝たきりになるリスクも高くなります。足腰が衰えないようにするためには、努力して筋力などを維持しなければなりません。

運動不足は認知症のリスクの1つですが、ほかのさまざまなリスクとも関わります。リスクをなくすための運動は何歳から始めても早すぎるということはありません。現役の世代であれば、1つ手前の駅で降りて歩く、エスカレーターではなく階段を使うなど、生活スタイルの中にとり入れやすいと思います。もちろん70代以上で運動を始めても遅くはありません。高齢者は運動を介して人と交流できると、認知症予防の観点からもさらに効果的です。運動習慣は思い立ったそのときから始めればいいのであり、早すぎることも遅すぎることもないのです。

運動不足と認知症の関連について解説してくれたのは……

朝田隆・東京医科歯科大学客員教授、メモリークリニックお茶の水理事長・院長
朝田隆(あさだ・たかし)
東京医科歯科大学客員教授、メモリークリニックお茶の水理事長・院長
1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科精神科、山梨医科大学精神神経科、国立精神神経センター武蔵野病院精神科、筑波大学精神医学教授などを経て、2014年東京医科歯科大学医学部附属病院特任教授、15年筑波大学名誉教授。同年、メモリークリニックお茶の水を開業し、認知症の早期診断法と予防の研究に携わる。20年から東京医科歯科大学客員教授。日本精神神経学会精神科専門医、精神保健指定医、日本老年精神医学会専門医、日本老年医学会指導医。

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