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肥満と認知症の関係とは?高齢期の肥満や対策について紹介

【肥満】認知症のリスク因子を知る(国際アルツハイマー病協会/Alzheimer's Disease International)
【肥満】認知症のリスク因子を知る(国際アルツハイマー病協会)

国際アルツハイマー病協会の2023年の標語は”Never too early, never too late”(「早すぎるということもなければ、遅すぎるということもない」)です。

認知症への向き合い方として、早ければ早いほどよいものもあれば、遅くても対策をすれば諦めることはないというものもあります。

そのためには、まず認知症のリスク因子について知ることが重要であり、多くは日々の生活習慣に関連するものでもあります。12あるリスク因子の中から、その分野に詳しい有識者に認知症との関連や、できる対策について伺います。

第2回目は肥満です。肥満は高血圧や糖尿病など、さまざまな生活習慣病を引き起こす因子になりますが、認知症とも関わることがわかってきました。高齢者の肥満の特徴や認知症との関連、対策について高齢者の肥満に詳しい東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科 フレイル予防センター長の荒木厚医師に解説してもらいました。

食生活の欧米化や運動不足などによって、肥満の人が増加しています。年代別のBMIで見ると、

BMI(Body Mass Index)
体重と身長から算出する肥満度の国際的な指標
体重kg÷身長m÷身長m

肥満(BMI25以上)のピークは、男性で40~49歳、女性で60~69歳となっています(厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査」)。それ以上の年齢になると、肥満の人の割合は徐々に減っていきます。

肥満者(BMI25以上)の割合の年次推移/厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」を参考に編集部が作成。【男性】平成21年・30.5%、平成22年・30.4%、平成23年・30.3%、平成24年・29.1%、平成25年・28.6%、平成26年・28.7%、平成27年・29.5%、平成28年・31.3%、平成29年・30.7%、平成30年・32.2%、令和元年33.0%【女性】平成21年・20.8%、平成22年・21.1%、平成23年・21.5%、平成24年・19.4%、平成25年・20.3%、平成26年・21.3%、平成27年・19.2%、平成28年・20.6%、平成29年・21.9%、平成30年・21.9%、令和元年22.3%
厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」を参考に編集部が作成
肥満者(BMI25以上)の割合(20日以上、男女・年齢階級別)/厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」を参考に編集部が作成【男性/総数】33.0%【20〜29歳】23.1%【30〜39歳】29.4%【40〜49歳】39.7%【50〜59歳】39.2%【60〜69歳】35.4%【70歳以上】28.5%【女性/総数】22.3%【20〜29歳】8.9%【30〜39歳】15.0%【40〜49歳】16.6%【50〜59歳】20.7%【60〜69歳】28.1%【70歳以上】26.4%
厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」を参考に編集部が作成

ところが、内臓脂肪が蓄積しているかどうかの目安になる腹囲(ウエスト周囲径)のサイズでみると、加齢とともに大きくなる人が増えます。つまり、内臓脂肪は加齢にともなって増えやすくなるのです。骨格筋量が減って体脂肪量の割合が増えること、安静時のエネルギー消費量が落ちたり身体活動量が減ったりして脂肪が蓄積しやすくなることなどが考えられます。自分では気にしていなくても、実は内臓脂肪型の肥満になっているというケースもあるのです。

近年はこのように骨格筋量や筋力が落ち、体脂肪が増えた状態は「サルコペニア肥満」と呼ばれ、問題視されています。なぜなら単なる肥満と比べると、ADL(日常生活動作)が低下しやすく、転倒や骨折、心血管疾患のリスクが高まることがわかってきているからです。2022年に診断基準が定まったばかりで、治療については議論されているところですが、サルコペニア肥満の予防や治療が今後の高齢化社会の大きな課題となることは間違いありません。

転倒した高齢者、Getty Images
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中年期の肥満、高齢期の内臓脂肪型肥満、サルコペニア肥満は認知症のリスク因子の1つ

イギリスの権威ある医学誌『Lancet』では、中年期(45歳~65歳)の肥満は、認知症のリスク因子の1つとしています。一方で高齢期(66歳以上)の肥満は、認知症のリスク因子になっていません。しかし、高齢でも内臓脂肪型肥満の人は認知症のリスクが高くなるという報告もあります。また、高齢者ではサルコペニア肥満がおこりやすくなりますが、最近は、サルコペニア肥満が、認知症のリスクになるという報告も出てきています。当院のフレイル外来を受診した高齢者のデータでも、握力が低く、腹囲が大きい人は軽度認知障害(MCI)の頻度が高いことがわかっています。

腹囲を測るひと、Getty Images
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内臓脂肪型肥満があると、なぜ認知症のリスクが高まるのでしょうか。まず、内臓脂肪型肥満は動脈硬化により、何らかの血管障害を伴いやすく、脳梗塞など脳血管の病気が原因となって、血管性認知症を発症するリスクが高くなることが考えられます。また、サルコペニア肥満の人は、インスリンが効果を発揮できない状態である「インスリン抵抗性」が高いことがわかっています。脳の中でインスリンの効きが悪くなると、認知機能は低下しやすくなるのではないかと考えられています。さらにサルコペニア肥満の人は体内で炎症が起こりやすく、それが脳内にも起こると認知症を発症するのではないかという指摘もあります。

高齢期のやせや体重減少は認知症のリスクに

肥満は糖尿病や心血管疾患のリスクとなります。にも関わらず、肥満の人のほうが長生きするというデータがあり、「肥満パラドックス」と呼ばれています。認知症との関連についても、高齢期の肥満は認知症の発症を防ぐ、逆に高齢期のやせは、認知症のリスクを高めるといったデータがあります。また、体重が減少することが認知症のリスクになるとも言われます。

やせも体重減少も問題となるのは、低栄養です。認知症を発症する数年前から体重が減っていくというデータがありますが、これには食べ物の嗜好が変化して特定の食品だけを食べるなど、栄養が偏ることが原因の1つだと考えられます。

肥満と認知症の関連については遺伝子型によって異なるという研究結果も公表されています。血中コレステロールの運搬に関わる「アポリポたんぱくE」の遺伝子多型のうち、4型を親から受け継ぐと、アルツハイマー型認知症の発症リスクが高くなり、2型を受け継ぐとアルツハイマー型認知症になりにくいと言われています。BMI30以上を対象とした研究では、肥満による認知機能の低下作用は2型の人ほど顕著で、肥満による認知症発症の抑制作用は4型で顕著という結果が出ています。

肥満と認知症の関連については世界的に研究されるようになって日が浅いので、これからより明確な根拠が出てくることが期待されています。

薬物治療や手術が認知症予防になるという報告も

現在のところ、確かなこととして言えるのは、中年期の肥満は認知症のリスクになるということです。『Lancet』では、認知症のリスク因子として12の項目を挙げていますが、肥満は「高血圧」「喫煙」「抑うつ」「社会的孤立」「運動不足」「糖尿病」にも関わります。中年期の肥満を解消することは、ほかのリスク因子をなくすことにもつながるのです。

肥満だからといって、やみくもにダイエットをしても、必ずしも認知症のリスクを下げることにはなりません。肥満はBMI25以上で、さらに11の健康障害のうち、どれか1つ以上当てはまる場合に肥満症と診断され、治療の対象となります。また、内蔵脂肪型肥満(腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上、内臓脂肪面積が100㎠以上)は健康障害を合併するリスクが高いため、現在健康障害を伴っていなくても治療の対象となります。

肥満症の診断に必要な健康障害/日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」参考、①耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)②脂質異常症③高血圧④高尿酸血症・痛風⑤冠動脈疾患⑥脳梗塞・一過性脳虚血発作⑦非アルコール性脂肪性肝疾患⑧月経異常・女性不妊⑨閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群⑩運動器疾患(変形性関節症:膝関節・股関節・手指関節、変形性脊椎症)⑪肥満関連腎臓病
日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」参考

肥満症に当てはまる人は、医療機関を受診し、しっかり治療を受けることが、認知症のリスクを下げるために大事なことです。治療の基本は運動療法や食事療法ですが、肥満の背景には精神的な問題による過食が関わっていることもあります。このため、治療では精神的な問題も含めて診ていく必要があります。

これらの治療がうまくいかない場合は、薬物治療が実施されることもあります。「GLP-1受容体作動薬」は糖尿病の治療薬として使用されており、体重を減少させる効果があります。日本でもこの11月には肥満症治療薬として「ウゴービ」(ノボノルディスクファーマ社)が公的医療保険の適用対象になりました。処方の対象は「肥満症」があって高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかの病気があり、BMI35以上か、27以上で肥満に関連する健康障害が2つ以上あり、食事や運動療法でも効果が得られない患者です。今後、さらに肥満症治療における選択肢が広がることが期待されます。海外では、GLP-1受容体作動薬自体が認知症の発症を抑制するという報告もあります。また、高度肥満症の人に対する「肥満外科手術(減量手術)」も認知機能の低下を抑制するというデータが出ています。減量手術は日本では限られた病院でしか実施されていませんが、世界的には一般的な治療の1つです。

これから肥満症に使用できる薬は増えていく見通しで、BMI35以上など条件に当てはまれば手術も有効な手段となります。今後肥満の治療は、大きく変わっていくことになるでしょう。

肥満は生活習慣病をはじめとした多くの病気の出発点

日本の基準ではBMI25以上で肥満となりますが、WHO(世界保健機関)の肥満の基準はBMI30以上です。アジア人の場合、BMIが25以上でも糖尿病や心血管疾患リスクが高まるというデータがあるためです。また、日本人は内臓脂肪がつきやすいことも指摘されています。特に最近は肝臓に脂肪が蓄積した脂肪肝が増えていることも問題になっています。

医師の診察を受けるひと、Getty Images
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日本では肥満を単に「見た目が太っている」「食べ過ぎ」というイメージだけで捉えられがちですが、病気の1つと捉え、治療していくことが大事です。肥満は11の健康障害のほか、大腸がんや乳がんなど特定のがんや胃食道逆流症、気管支喘息、尿失禁、精神疾患など多くの病気と関わります。中年期の肥満を解消することは、認知症を予防するだけではなく、こうしたさまざまな病気を改善することにつながるのです。

認知症と肥満の関連について解説してくれたのは……

荒木厚・東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科 フレイル予防センター長
荒木厚(あらき・あつし)
東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科 フレイル予防センター長
1983年京都大学医学部卒業。89年同大にて医学博士取得。同年から東京都老人医療センター(現東京都健康長寿医療センター)内分泌科医員に。英国ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、米国ケース・ウェスタン・リザーブ大学の留学を経て、97年に同センターに復職。2019年より2023年9月まで副院長。現在はフレイル予防センター長、健康長寿医療研修センター長。糖尿病・代謝・内分泌内科、フレイル外来を担当している。日本老年医学会専門医・指導医・名誉会員、日本老年学会理事、日本糖尿病学会専門医・指導医・功労評議員、日本病態栄養学会専門医・指導医・評議員、日本糖尿病合併症学会評議員、日本内科学会認定総合内科専門医・指導医。

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