働く世代の新たな課題「介護と仕事の両立」 ケアプランを味方にするには
イラスト/河原ちょっと
公的な介護サービスを利用する際に欠かせない「ケアプラン」。けれど、どのようなことが記されているのか、どんな目的があるのか、案外、知られていないのではないでしょうか。ケアタウン総合研究所代表で、ケアプラン評論家の高室成幸(しげゆき)さんが、「幸せケアプラン」づくりを指南します。
ケアプランはご本人の「暮らし(人生)を支えるプラン」ですが、介護を担う家族を支える要素もしっかりと位置づけられています。
実は、ここ数年、「家族介護者支援」がケアマネジャーの業務として強調されるようになっています。それが近頃、みなさんも耳にされる「仕事と介護の両立支援」というものです。
20年ほど前のことです。親の介護が始まると、多くの人が「介護離職」を選んだものでした。仕事との両立はとても体力的にもムリ。経済的にきびしくとも「目が離せない」からと、退職を選ぶのは仕方ないという風潮もありました。
実は、ここ10年近くで「退職せずに両立しましょう」という流れが強くなってきています。その背景にはただでさえ様々な産業で人手不足であること。さらに「ミドルクラスのベテラン層の退職」が企業の経営や企業価値に影響することが明らかになってきたからです。
それに加えて「介護専業」になってしまうと経済的にも厳しくなり、その上精神的に追い詰められてストレス過多になることがわかってきたことも影響しています。
さらに、仕事と介護を両立してがんばっている人の体験談やノウハウがネットの記事や出版物で認知され広がってきたこともあります。もちろん、それぞれに事情は異なります。「親が認知症で目を離せない」「医療的管理が必要で片時も離れられない」といったことから「介護専業」を選ばれている家族もいます。そうした方の中には、介護は1~2年だろうと予想していたら5年以上続いているケースもあります。
親の介護の形には大きく分けて二つあります。
親の自宅に同居して介護する「同居介護」。
親の自宅に通って介護する「近距離・近隣・遠距離介護」。通称「通い介護」と呼ばれます。
いずれも頼りにしたいのはケアマネジャーのみなさんです。
そして介護サービス事業者の方々。
家族介護の実情をしっかりと受けとめてもらい、いっしょにチームとして介護(ケア)を担ってもらう(分担してもらう)には、家族からの発信がとても大切です。
では、何をどのように伝えればよいか、その勘所をお話しします。
「家族の意向」はケアプランの肝
ケアプラン1表の上段に「利用者・家族の生活への意向」という欄があります。この連載ではこれまではご本人の自分らしさを「どのように書いてもらうか」、その考え方と伝え方を書いてきました。
今回は家族の困りごとや思い・願い、先々の不安と期待などをリアルに書いてもらうためにはどうすればよいか、です。
要は、ケアマネさんにこの欄に「何を書いてもらえるか」。「話したこととは違う」と思う内容が書いてあれば、それはズレが生まれていることになります。ズレは誤解を生み、ミスや事故、それに苦情・クレームに発展することにもなりかねません。
では何をケアマネジャーさんに伝えればよいでしょう。けっこう悩みますよね。
まずはここをチェックしましょう。
今回も具体例をあげてお伝えしますね。
「困りごと」をどう伝えるか
困りごとや悩みをケアマネさんたちは質問してくれます。なかなか本音で話せないことも受けとめてもらえるので、つい困りごとのオンパレードになってしまう人も。でも伝え方が抽象的になりがちなのも、ここです。
× 「母のオムツ交換がつらくて仕方ありません」
〇 「母のオムツ交換のやり方が下手なのか、とても怒られるのでつらくて仕方ありません」
解説:なにがつらいのか、具体的に伝えましょう。やり方? 怒られること? 深夜で眠い時だから? 正確に伝えないと「みなさんそうおっしゃいます」と軽くスルーの言葉で終わってしまいかねません。
「心配なこと」をどう伝えるか
介護にかかわる心配ごとにはキリがありません。介護サービスはどこまで使えるのか。本人が嫌がったらどうしたらいいか。この先どのように悪くなっていくのか。あと何年介護が続くのか、どれだけお金がかかるのか。そして自分の体力がいつまで持つのか…。とりわけ認知症の症状が進むと本人とのやりとりも繰り返しが多くなり、介護する家族にとってはストレスがたまりがちになります。
そんな時こそケアマネさんに「心配ごと」を話すだけでなく、どうしたらよいかについて「相談ごと」として持ちかけましょう。
×「自分の体力がいつまで持つか、自信ありません」
〇「自分がギックリ腰になったり、仕事の過労で倒れたりするとか、体力がいつまで持つか、自信がありません」
解説:心配ごとを話すと「どうしてそう思われるのですか?」と質問を返してくれるケアマネさんもいますが、「大変ですね」と共感的な言葉で終わってしまう人もいます。先々気になっている心配ごとを相談というカタチで質問をしましょう。
「介護サービスの要望」をどう伝えるか
介護保険制度は複雑でわかりにくく、みなさんが「自宅に来てくれるヘルパーさん(訪問介護)」「おフロに入れて楽しく一日過ごせるデイサービス」といった程度の知識で介護サービスをリクエストすると、その理由を深めることなく事業所を即行で探すケアマネさんがいます。サービスをお願いする際に「どのような介護サービスにどんな効果があるのか」、そのメリットとデメリットを尋ねるだけでなく、本人にどのようになってもらいたいのか、自分の生活をどのように送りたいのか、を相談というカタチで持ちかけましょう。
× 「デイサービス(ヘルパーさん)をお願いしたいけど、どこかありますか?(なんとかなりませんか?)」
〇 「父(母、夫、妻、きょうだい)には○○○という生活を送ってもらいたいと願っています。どのような介護サービスなら適切ですか?」
解説:介護サービス事業所はコロナ禍の影響だけでなく人材不足から倒産・閉鎖したり、対応エリアの縮小などが始まったりしています。まずはみなさんの市町村にどのような介護サービス事業所が、どこにあるのか、その特徴や強みなどをひと通り教えてもらいましょう。それから「どのサービスを利用するか、どこの事業所にするか、どの曜日にどの時間帯にするか」などをいっしょに検討しましょう。
「介護家族の事情」をどう伝えるか
ケアマネジャーに「介護家族の事情」を正確に伝えることは大切です。1回で済ませられなかったら複数回に分けましょう。随時の情報提供も大切です。口頭だけでなく文書(メール、LINE含む)も記録に残るのでよいでしょう。
伝える内容は主に7つです。
〇体力・体調:持病や疾患、障害(腰痛など)の有無、日常の体調と通院歴、服薬・治療状況、要介護度、記憶力、睡眠(不眠含む)など
〇介護力:排泄(オムツ交換含む)、食事、入浴、移動、服薬、会話(暴言、認知症含む)、幻聴・妄想・興奮時の対応などで困っていること
〇家事力:調理・掃除・洗濯、買物・お金の管理、移動手段の有無など
〇仕事:勤務場所(距離、手段、時間含む)、雇用形態(正規・非正規、就業期間)、職務(管理職含む)、業務内容、勤務時間(夜勤、3交替含む)、介護休業制度の有無と職場の理解度など
〇学業:学校・大学の場所、通学かオンラインか、就学時間、部活時間など
〇家族関係:きょうだいの人数と立場(長男・長女、嫁・婿)、関係・相性(良い、やや良い・悪い、悪い)など
〇思いと人生設計:介護する思いとともに自分の暮らし(人生、趣味・愉しみ)や子育て、家族の計画や希望など。
【体調・体力】
× 「私も持病があり、無理をしないでと娘から言われています」
〇 「私も糖尿病と腰痛の持病があり、娘から「また倒れるよ」と心配されています」
【介護力】
× 「お風呂を嫌がって入ってくれなくて困っています」
〇 「お風呂は「私は入った」「臭くなんかない」と言い張って入ろうとしません。どうやって誘えばいいか困っています」
【仕事】
× 「職場は人手不足で勤務シフトが変わって、朝の面倒がみられません」
〇 「職場は人手不足で来月から朝の勤務シフトに変わって、デイサービスの朝の送迎に立ち会えなくなりました」
解説:遠慮をして抽象的な言い回しをしがちですが、事情は「具体的」に伝えましょう。何に困っているのか、どうしたいのか、どうしてほしいのか、がポイントです。ただケアマネジャーさんがすべてに答えを持っているわけではありません。「どうするか、いっしょに考えてほしい」姿勢で相談しましょう。
家族介護者のことを「ケアラー」と呼び、働いているなら「ビジネスケアラー、ワークケアラー」、若者・子どもなら「ヤングケアラー」と呼びます。家族介護者のみなさんへの支援は人手不足が深刻化する産業界では人事マネジメント上、無視できない課題となっています。
「ながら介護」という言葉の意味は「働きながら、学びながら続ける介護」のこと。どっちかでなく「どっちも」を社会的に支えていこうという機運が生まれています。当事者として「ナマの声」を届けること、それが、みなさんが暮らす市町村の介護行政を刷新する一助となります。