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認知症が一気に進む原因とは?入院の影響は?進行スピードの違いや対策を紹介

認知症・一気に進む原因(イラスト/Getty Images)
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認知症の進行は一人ひとり異なりますが、一般的には急激に悪化するものではなく、ゆるやかなスピードで症状が進んでいきます。しかし、周囲から見て一気に進んだように感じることもあります。認知症の症状が一気に進む原因や対策、進行の予防について物忘れクリニックで30年以上認知症の診療にあたってきた松本一生医師に解説していただきます。

認知症の症状は一気に進む場合がある

認知症の症状が一気に進んだ場合、次のような原因が隠れている可能性があります。

  • 新たな脳や体の病気が発症
  • 脳への刺激不足
  • 環境の変化

そのままにしておくと、さらに進行する可能性があるので、まずは原因を探ることが大切です。

新たに脳や体の病気が発症

認知症は脳が変化することで発症する病気です。すでに認知症の人も脳に新たな変化が起きていることで、症状が一気に進むことがあります。このため、一気に進んだように見える場合、まずは体の中で変化が起きていないかどうか、受診してチェックしてもらうことが大事です。

ソファで横になるひと、Getty Images
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認知症を一気に進ませる脳の変化として、代表的なのが脳梗塞などの脳血管障害です。脳梗塞になると麻痺が起きたり、ろれつが回らなくなったりすることがありますが、細い血管が詰まる小さな脳梗塞の場合、「無症候性脳梗塞」と呼ばれ、症状がないことが多くあります。サインとしては怒りっぽくなる、側頭部の血管が詰まった場合は、何をするにもおっくうに感じるといった変化が見られることがあります。

脳への刺激不足

入院や施設への入居によって認知症が一気に進むのは、よく見られるケースです。その理由の1つが脳への刺激不足です。他人とのコミュニケーションが減ったり、家事などやることが減ったりすることで脳への刺激がなくなり、症状が一気に進みます。たとえ自宅で過ごしていても、認知症と診断されたとたんに家族が先回りして何でもやってあげるなど、本人の役割を奪ってしまうと脳への刺激はなくなります。とはいえ、認知症になるとできないことが増えるのも事実です。進行予防のためだからと何でも自分でやらせようとした結果、何度も失敗を繰り返して自信を失い、症状が進行していくというケースもあるのです。つまり、ほどよい刺激というのがポイントです。

食器棚に手を伸ばすひと、Getty Images
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環境の変化

環境の急激な変化も認知症が一気に進む原因となります。入院や施設への入居がきっかけになることもありますが、在宅でも身近な人が亡くなったり、家族と同居するために引っ越したりといった環境の変化があると、認知症が一気に進むことがあります。

4大認知症の進行スピード

進行速度や進み方は、認知症の原因となる病気によっても異なります。4大認知症と呼ばれる「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」について解説します。いずれの場合も進行のスピードは、人によって大きく異なります。

2013年厚生労働科学研究「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」研究班が発表した、「認知症の基礎疾患の内訳」をもとに編集部が作成/【認知症の原因となる病気の比率】アルツハイマー型認知症 67.6%、脳血管性認知症 19.5%、レビー小体型認知症 4.3%、前頭側頭型認知症 1.0%、その他 7.6%
2013年厚生労働科学研究「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」研究班が発表した、「認知症の基礎疾患の内訳」をもとに編集部が作成
【認知症の原因別進行速度のイメージ】あくまで大まかなイメージであり、実際の進行速度と度合いには個人差があります/前頭側頭型認知症とアルツハイマー型認知症は穏やかに進行。脳血管性認知症は、脳梗塞を起こすたびに認知症が一気に進むように見える傾向にある。レビー小体型認知症は、日によって波があり、一気に進行したように見えても、翌日には元に戻っている可能性もあります。
あくまで大まかなイメージであり、実際の進行速度と度合いには個人差があります

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞の外側にアミロイドβというたんぱく質が蓄積することから始まるとされています。アミロイドβの蓄積は、認知症を発症する20年前から始まっていると考えられ、発症後も症状はゆっくりと進行していくのが特徴です。

※アルツハイマー型認知症については、以下の記事をご参照ください
どんな症状?アルツハイマー型認知症 MCIとの違いや薬、検査法を名医が解説

血管性認知症

血管性認知症の原因は、脳梗塞など脳血管の病気です。特に小さな脳梗塞は無症状のまま再発をくり返しやすいという特徴があり、脳梗塞を起こすたびに認知症が一気に進むように見える傾向があります。正確には症状が一気に進むというよりも、言葉がスムーズに出ていたのに、出にくくなるなど脳梗塞が起きた場所によって、症状に変化が出現している状態です。

※血管性認知症については、以下の記事をご参照ください
「血管性認知症」は脳出血などが原因!可能な治療・予防法を徹底解説

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、脳の神経細胞に「レビー小体」というたんぱく質のかたまりができることが原因となり、発症します。自律神経の症状が出やすいことから、気圧や気温などの影響を受けやすく、例えば雨が降ると調子が悪いなど、日によって症状に波があります。このため一気に進行したように見えても、翌日にはもとに戻るような「症状に浮き沈みがある(浮動する)可能性もあります。

※レビー小体型認知症については、以下の記事をご参照ください
レビー小体型認知症を専門医が解説 原因や前兆、なりやすい人など

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉と側頭葉の神経細胞が変性することによって、行動異常や精神症状、言語障害が出る病気です。アルツハイマー型認知症と同様に、比較的ゆっくりと進行していきます。

※前頭側頭型認知症については、以下の記事をご参照ください
前頭側頭型認知症を専門医が徹底解説 家族へのアドバイスも

認知症が一気に進むのを防止する方法

認知症を発症すると、根本的に治すことはできませんが、一気に進行するのを防いだり、進行を緩やかにしたりすることはできます。認知症が一気に進むのを防ぐ方法について紹介します。

生活習慣を見直す

認知症は生活習慣病と大きく関わることが明らかになっています。糖尿病や高血圧、脂質異常症など慢性的な生活習慣病を発症しないように心がけるほか、すでに発症していても生活習慣の改善や治療によってコントロールすることが、認知症の進行を予防するうえで非常に大事です。

脳内の血液を循環させる

脳内の血流を循環させることは脳梗塞を防ぐほか、認知症を進行させないことにもつながります。脳内の血液を循環させるためには、こまめに水分を補給すること(心臓や腎臓などの病気があって水分を制限されていない場合)、1日15分程度歩くなど適度な運動をすることを心がけるといいでしょう。特に高齢者は水分を摂取しない傾向があるので習慣づけるのは難しいのですが、食事のたびにコップ1杯ずつ、さらに食間に1杯ずつくらいを目標にするといいでしょう。

人と交流する

脳への刺激不足は、認知症が一気に進む原因となります。脳に刺激を与えるために有効なのが、人との交流です。同居している家族のように気を使わなくていい相手ではなく、少し気を使うくらいの相手と交流するほうが効果的です。例えば同居している家族よりも離れて暮らす家族、または実の子どもよりも義理の子どもと話すほうが脳には刺激となります。

チェスをするひとたち、Getty Images
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デイサービスやデイケアなどでは、人と交流することができますが、知らない人との交流が苦手でほかの利用者と打ち解けられないこともあるでしょう。そうした場合でも、スタッフとのやりとりはあるはずなので、脳にとっては刺激となります。

※認知症の人とのコミュニケーションについては、以下の記事をご参照ください
認知症の人とのコミュニケーションに役立つバリデーションを徹底解説

かかりつけ医を受診する

認知症が一気に進んだ場合、最も心配なのは脳梗塞などの病気です。大学病院などの専門医は、すぐに診てもらえない可能性もあるので、まずはかかりつけ医を受診するといいでしょう。小さな脳梗塞が見つかった場合、治療が必要ないこともありますが、次の脳梗塞を予防するためにも血管の状態などを確認しておくことが大事です。

※認知症の受診や診察方法などについては、以下の記事をご参照ください
認知症と思ったら…受診のタイミングは?検査やテスト、費用などを解説

認知症が一気に進む原因に関するよくある質問

認知症が一気に進むと、家族はこのままさらに悪化していくのではないかと不安がつのるものです。認知症が一気に進む原因について、よくある質問に回答します。

入院や施設入居は認知症が一気に進む原因になる?

前述したように入院や施設入居そのものが原因になるわけではなく、それによって脳への刺激が不足し、認知症が一気に進むことがあります。つまり、入院や施設入居しても脳に刺激を与えるような過ごし方をすれば、認知症が一気に進行するのを防ぐことができます。例えば入院中もリハビリを積極的にとり入れたり、他人と交流できるように工夫したりする病院や施設であれば、症状は一気に進みにくくなります。その証拠にコロナ禍では、感染対策が最優先事項となり、リハビリや他人との交流が後回しになった結果、認知症の症状が一気に進行した人もいるのです。

認知症が一気に進んだらどうすればいい?

医師の診察を受けるひと、Getty Images
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退院後に自宅に戻ってきて、認知症が一気に進行していたら、家族としては慌てて、「今日は何月何日?」など矢継ぎ早に質問しがちです。しかし、その質問は本人を追い詰めるだけです。特に入院して認知症が進行したように見える場合、せん妄(環境の変化による一時的な意識障害)の可能性もあります。例えば3日間入院したら、3週間くらいかけて元に戻れるようにするくらいの余裕が必要です。

認知症が疑われるときはどうやって病院に連れて行けばいい?

認知症と診断されていなくても、症状が一気に進んだときは、受診を考えるタイミングかもしれません。そんなとき、どのように本人に受診を促せばいいのか、家族は悩むものです。認知症が一気に進んだ場合、実際に脳梗塞などの可能性もあるので、認知症という言葉は使わずに「体に変化が起きているかもしれないから、今後のためにも一度診てもらいましょう」「脳に変化が起きているかもしれないから、一度画像検査してもらいましょう」と言って、かかりつけ医に専門医を紹介してもらうと、本人のプライドを傷つけずに、スムーズに受診を促せるかもしれません。

※認知症の受診や診察方法などについては、以下の記事をご参照ください
認知症かも」…傷つけずに病院へ連れて行く方法 実例から専門家が解説

まとめ

認知症が一気に進むと、家族としては慌ててしまいますが、家族の混乱は本人に伝わり、さらに症状を悪化させることにもつながります。落ち着いて生活習慣の見直しやかかりつけ医への受診など、できることに取り組みましょう。

認知症の人の顔つきについて解説してくれたのは……

松本一生先生プロフィール写真
松本一生(まつもと・いっしょう)
松本診療所(ものわすれクリニック)院長
1983年大阪歯科大学卒業、90年関西医科大学卒業。91年から大阪市でカウンセリング中心の認知症診療にあたる。専門は老年精神医学、家族や支援職の心のケア。日本認知症ケア学会総務担当理事、日本老年精神医学会評議員・指導医、日本精神神経学会指導医・専門医・認知症診療医。著書に『認知症ケアのストレス対処法』(中央法規出版)など。

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