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「いまから話そう、認知症」

どんな症状?アルツハイマー型認知症 MCIとの違いや薬、検査法を名医が解説

認知症のタイプとして最も多く、約6割を占めるアルツハイマー型認知症について、アルツクリニック東京の新井平伊院長に聞きました。アルツハイマー型認知症は、脳の中で記憶をつかさどる海馬から障害が進み、物忘れなど日常生活でのミスが目立つようになります
主に色づけられた部分にダメージがある

認知症のタイプとして最も多く、約6割を占めるアルツハイマー型認知症について、アルツクリニック東京の新井平伊院長に聞きました。アルツハイマー型認知症は、脳の中で記憶をつかさどる海馬から障害が進み、物忘れなど日常生活でのミスが目立つようになります。ゆっくり進行し、やがて記憶以外の認知機能も低下していきますが、「早期に治療を始めれば、その分、元気な期間を長くできます」と新井院長は話します。

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アルツハイマー型認知症とは その原因は?  
症状と進行、MCI(軽度認知障害)
検査・診断
若年性アルツハイマー型認知症
治療法・薬
予防
本人・家族へのアドバイス

アルツハイマー型認知症についてお話してくれるのは……

新井平伊先生は、アルツクリニック東京院長、順天堂大学医学部名誉教授です。アルツハイマー病の基礎や臨床を中心とした老年精神医学が専門で、99年、順天堂大学病院に当時日本初となる若年性アルツハイマー病専門外来を開設。2018年、東京・丸の内にアルツクリニック東京を開院し、アルツハイマー病の早期発見に有効なアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を行っています
新井平伊(あらい・へいい)
アルツクリニック東京院長、順天堂大学医学部名誉教授 
1953年生まれ。順天堂大学大学院修了(医学博士)。アルツハイマー病の基礎や臨床を中心とした老年精神医学が専門で、99年、順天堂大学病院に当時日本初となる若年性アルツハイマー病専門外来を開設。2018年、東京・丸の内にアルツクリニック東京を開院し、アルツハイマー病の早期発見に有効なアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を行っている。

【アルツハイマー型認知症とは その原因は?】

アミロイドβが脳神経細胞を破壊

アルツハイマー型認知症は、アルツハイマー病によって認知症のレベルまで認知機能が低下した状態のことを指します。すなわち、アルツハイマー病には「認知症まではいかないが、物忘れなどが少しずつ出てきて、健常とも言えない状態」も含まれます。残念ながらアルツハイマー病の根本的な原因は分かっていません。
脳の中には1000億個以上とも言われる神経細胞があり、互いに信号を伝え合うことで脳の働きを維持しています。アルツハイマー病では何らかの原因によって、この神経細胞の周りに「アミロイドβ」というたんぱく質が蓄積し、その量が増えるにつれ、今度は神経細胞内に「タウたんぱく」がたまっていきます。すると、神経細胞が破壊され、やがて死滅し、認知機能が低下し始めます。さらに進むと脳が萎縮し、画像検査などによってアルツハイマー型認知症と診断されます。

アミロイドβは通常の老化でも海馬などにたまる老廃物の一種です。しかし、アルツハイマー病の場合は海馬を含む側頭葉から始まり、空間や場所の認識、計算などに関わってくる頭頂葉まで、脳の広い範囲に影響を与えます。さらに、比較的遅い段階ではありますが、脳の司令塔である前頭葉にも広がります。脳は部位によって担う役割が異なるため、脳の萎縮が広がっていくとともに、記憶だけでなく、理解や判断、計算、言語など、さまざまな認知機能が低下していきます。

【症状と進行、MCI(軽度認知障害)】

物忘れなどの症状がゆっくり進行

認知症の症状は、大きく分けて中核症状と行動心理症状(BPSD)の二つがあります。
中核症状とは脳の萎縮によって生じる認知機能低下のことで、代表的なものに「どこに置いたか分からなくなる」「同じ話を何度もしてしまう」などの物忘れがあります。これは、障害が海馬に進み、新しい記憶を保持できなくなったことで起こる症状ですが、程度は生活習慣や性格などによって一人ひとり異なります。
次に行動心理症状(BPSD)とは、認知機能の低下に付随して起こる心理面や行動面の症状を指します。抑うつや不安感、怒りなど、人によってさまざまな変化があり、ほとんど現れない人もいます。

進行は非常にゆっくりで、自立した生活を送れる「軽度」の期間が5年、半介助が必要な「中等度」が5~8年、全介助の「高度」も5~8年ほどと言われています。
さらに、認知症とまではいかなくとも、認知機能の低下が認められるグレーゾーンをMCI(軽度認知障害)と言います。アルツハイマー病によるMCIの場合、その半数が5年以内にアルツハイマー型認知症になると言われていますが、この期間も含めると、20年以上という非常に長い期間を認知症とともに生きることになります。進行の程度と主な症状の目安は次の通りです=図1

図1 アルツハイマー型認知症の程度と症状の目安(軽度、中等度、高度)

アルツハイマー型認知症の進行は非常にゆっくりで、自立した生活を送れる「軽度」の期間が5年と言われています。軽度では自立生活が可能です。症状の目安は、鍋を焦がすなど家事がうまく出来ない、しまい忘れや置き忘れが目立つ、同じことを何度も話したり聞いたりする、すでに持っているものを買ってくる、などです ※「アルツハイマー病のことがわかる本」(講談社、新井平伊監修)を参考に編集部で作成
アルツハイマー型認知症の進行は非常にゆっくりで、半介助が必要な「中等度」が5~8年と言われています。中等度では半介助が必要です。症状の目安は、慣れた道なのに迷い家に帰れない、季節や気候に合わせた服選びができない、入浴を嫌がる、食事をしたことを忘れることです ※「アルツハイマー病のことがわかる本」(講談社、新井平伊監修)を参考に編集部で作成
アルツハイマー型認知症の進行は非常にゆっくりで、全介助の「高度」は5~8年ほどと言われています。中等度では半介助が必要です。症状の目安は、家族のことがわからない、会話が成立しにくくなる、運動機能が低下し日常生活が困難なことです ※「アルツハイマー病のことがわかる本」(講談社、新井平伊監修)を参考に編集部で作成
※「アルツハイマー病のことがわかる本」(講談社、新井平伊監修)を参考に編集部で作成

【検査・診断】

痛い検査はない 早期発見・早期診断でいい状態を長く

アルツハイマー型認知症の検査に痛みを伴うものはありません。
まずは問診によって「いつごろから、どんな症状があったか」などを調べます。次に神経心理検査といって、記憶や言語、計算などの認知機能がどの程度保たれているかをテストします。代表的なものに「長谷川式スケール」や「MMSE」といった検査があり、いずれも簡単な質問に答えるだけで、所要時間は5~10分程度です。
また、認知機能の低下は、例えばビタミンの欠乏や甲状腺ホルモンの異常、大量のアルコール摂取などによっても引き起こされます。そうした身体的な異常が認知機能に影響を及ぼしていないか、血液検査で調べます。
そして最後に、CTやMRIなどの画像診断で脳の萎縮の有無を確認します=図2。脳の萎縮が認められ、さらに認知機能の低下が明らかで、ほかの原因は考えにくいなどの場合、アルツハイマー型認知症と診断されます。ここまでの検査は、大体いずれの総合病院でも行っており、すべて保険適用で受けられます。

図2 MRI画像

左は萎縮がみられない脳で、右は萎縮がみられる脳のMRI画像です。アルツハイマー型認知症の検査に痛みを伴うものはありません。問診などのあとに、CTやMRIなどの画像診断で脳の萎縮の有無を確認します。脳の萎縮が認められ、さらに認知機能の低下が明らかで、ほかの原因は考えにくいなどの場合、アルツハイマー型認知症と診断されます。ここまでの検査は、大体いずれの総合病院でも行っており、すべて保険適用で受けられます
(左)萎縮がみられない脳 (右)萎縮がみられる脳 (新井平伊医師提供)

画像診断で異常が見つかるのは、脳の萎縮が始まり、認知機能の低下がある程度まで進んでからの場合が多いです。しかし、MCI(軽度認知障害)や軽度の認知症の段階で診断を受けて治療を開始すれば、進行のスピードを遅らせることができます。アルツハイマー型認知症は早期診断、早期治療が重要です。少しでも異常を感じたら医師に相談し、早めに検査を受けるようにしてください。

【若年性アルツハイマー型認知症】

進行が早く重症化 家族への負担も大

65歳未満で発症した場合は「若年性認知症」と言います。そのうち4分の1がアルツハイマー型認知症であり、血管性認知症に次いで2番目に多くなっています。
若年性の場合は遺伝的要因や生活習慣による影響が大きいと考えられていますが、基本的な症状は高齢発症のアルツハイマー型認知症と同じです。一方で、若年性のほうが進行のスピードが速かったり、発症してからの期間が長いため症状が重くなったりする傾向があります。また、仕事などで現役世代でもあるため経済的な不安が大きく、本人だけでなく家族への負担も大きいと言えます。
さらに、若年性の場合は物忘れなどの異変があっても、認知症と結び付けて考えられる傾向が少ないため、うつ病と診断されてしまうことがあります。うつ病がなかなか治らない場合には、認知症専門医や病院に相談してみてください。

【治療法・薬】

早めの治療で進行のスピードを遅らせる

認知機能の低下といった中核症状に対する薬物療法では、残っている脳神経細胞の働きを高めることで、機能の改善や維持が期待できる治療薬を用います。しかし残念ながら、現在のところ認知機能の低下を止められる治療薬はなく、薬を使わない場合と比べて、進行のスピードを遅らせることしかできません=図3

図3 治療薬に期待できること

認知症の治療薬に期待できること。アルツハイマー病の治療薬には、いま残っている神経細胞の働きを高める作用が期待できます。残っている機能が十分にあるうちに服薬を始めることが、「よい状態」を長く維持するポイントです。「アルツハイマー病のことがわかる本」(講談社、新井平伊監修)を参考に編集部で図を作成しました
「アルツハイマー病のことがわかる本」(講談社、新井平伊監修)を参考に編集部で作成

現在使用されている治療薬は、コリンエステラーゼ阻害薬のドネペジル(商品名アリセプト)、ガランタミン(商品名レミニール)、リバスチグミン(商品名リバスタッチ)、そして、NMDA受容体拮抗(きっこう)薬であるメマンチン(商品名メマリー)の4種類です。いずれも保険適用です。
軽度・中等度であれば多くの場合、コリンエステラーゼ阻害薬のうちどれか1種類を使用しますが、みぞおちの不快感や食欲低下、下痢などの副作用があるため、様子を見ながら治療を進めていきます。
高度まで進んだ場合はドネペジルを増量するか、メマンチンを使用します。メマンチンにもめまいや頭痛、便秘といった副作用があります。治療薬以外にも、ドラッグストアなどで「認知機能改善」をうたう機能性食品や特定保健用食品などが販売されていますが、はっきりとした科学的根拠はありません。今のところ確実な効果が認められているのは、国が保険診療で認めている治療薬のみだと言えるでしょう。

非薬物療法

中核症状に対しては、薬物療法だけでなく非薬物療法も行われています。昔の話をすることで眠っている記憶を呼び起こす「回想法」、日常会話に自然な形で時間や場所などを交え、認知機能を刺激する「リアリティーオリエンテーション」などがその一例です。
さらに、認知機能の低下に付随して起こる不安や抑うつなどに対する薬物療法と非薬物療法、神経細胞が破壊されていない部分の脳の機能や身体機能を維持するためのリハビリテーション、認知症によって苦しんでいる本人や家族を支えるための精神療法など、さまざまな治療があります。一人ひとりの症状や状況に合わせ、いくつかの治療法を組み合わせていくことが大切です。

【予防】

生活習慣の改善が予防につながる

アルツハイマー型認知症の根本原因は分かっていないと言いましたが、認知機能の低下につながるリスク要因は認識されています。
代表的なものとして糖尿病や高血圧、脂質異常症(高コレステロール血症など)といった生活習慣病があり、これらを放置していると、健康な人と比べて2倍近く認知症を発症しやすいことが分かっています。したがって、これらの病気をきちんと治療することが予防への第一歩です。
例えば脂質や塩分を控えた健康的な食事、週3回以上の運動習慣など、医師の指導のもとで生活改善に取り組んでください。MCI(軽度認知障害)になってからでも遅くありません。生活習慣病をしっかりと治療すれば、アルツハイマー型認知症に移行する確率が低くなることも確認されています。さらに、アルツハイマー型認知症になってからでも、糖尿病と高血圧、脂質異常症のすべてを治療した場合には、認知機能低下のスピードが遅くなるとも報告されています。

【本人・家族へのアドバイス】

適切なケアで自分らしく生きる

アルツハイマー型認知症は、何よりも早期診断、早期治療が大切です。自分自身で異変に気づいた場合は一人で悩まず、早い段階で医師に相談してください。これは、家族に異変を感じた時も同様です。また、認知症と診断されると、本人はささいなことが思い出せず落ち込んだり、周囲に迷惑をかけないよう引っ込み思案になったり、一つひとつの症状にとても苦しみます。家族はその苦しみを理解してあげてください。
認知症になっても、“人生終わり”ではありません。認知症本人の生き方や個性などを尊重し、一人ひとりに合ったケアを導き出す「パーソン・センタード・ケア」という考え方があります。特にゆっくりと進行するアルツハイマー型認知症は、長い期間にわたって付き合っていく必要があります。本人も、家族も、適切なケアを受けながら、認知症とともに自分らしく生きていっていただきたいです。

(イラスト協力/朝日新聞メディアプロダクション)

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