慣れない地で勝手に外出し、迷子の母 されど助けを求めぬプライドとは
いつかはやってくると思いつつ、ついつい先送りしてしまう親の介護の準備。関西在住のイラストレーター&ライターのあま子さんもそんな一人。これまで一人暮らしを続けていた母が、2022年正月早々に転倒。骨折→入院という経緯で認知症を発症。姉と兄による“介護押しつけバトル”を経て、いったん母は首都圏に住む兄一家のところで暮らすことになりました。今回は、見知らぬ地で始まった母のひとり歩き(徘徊)とデイサービス通いのお話です。
母と兄一家との同居生活がスタートして数週間が経った頃の話です。
それまでに、母が勝手に外出してしまうことが数度あり、1度は警察に保護されたこともありました。そのたび兄から「ボケて徘徊する」と怒りのLINEが私のところへきました。電話で母に聞くと「美容院を探していた」「薬局に行きたかった」など、それなりの目的があるようです。認知症に関する本にも、“認知症の人が歩き回るのは、私たちが外出するのと同じように目的がある”と書かれていました。
母の場合、地元の関西で暮らしていたときには出かけて迷ったことはありませんでした。それゆえ、首都圏という見知らぬ地で暮らすようになっても、土地勘もないのに、自分を過信して出かけてしまうのでしょうか。
母によれば、道がわからなくなっても「ボケ老人にはみられたくない」とのこと。そのため、疲れていても、人目があると平気なふりしてどんどん歩いていったようです。迷子になったお年寄りがびっくりするほど遠方で保護される理由の一端が分かった気がします。
兄は家に鍵をかけたり、玄関に「外出禁止」の貼り紙をしたりしたようですが、効果はイマイチ。「ムリヤリ閉じ込めてもストレスがたまるだけと本に書いていたよ。買い物とか散歩とか一緒に出かけるといいらしい」と、私から兄に提案しましたが、スルーされました。文句は言ってくるけど、こちらの話は聞かんのよね…。
ともあれ、運よく大ごとになっていないだけで、ひとりの外歩きは、転倒や事故のリスクが高く、家族の心労も大きい。日中、母を一人にするのが不安ということで、デイサービスを利用することになりました。
はじめてのデイサービス 母の反応は?
デイサービスの介護保険法上の正式名称は「通所介護」。要介護1~5の介護認定を受けた人が受けられる日帰りの公的介護サービスで、送迎、食事、入浴、機能訓練、レクリエーションなどの提供があります。
母が関西で暮らしていたころ、ケアマネジャーさんに何度かデイサービスをすすめられたことがありました。そのたび母は「お年寄りばっかりのところに行くのはイヤ」と断り、私も無理強いはしませんでした。しかし、今回は母に拒否権はありません。初めての見学から数日後には、デイサービス通いが始まりました。
母に電話で様子を聞くと、どうやら「学校に通っている」と思っているらしい。レクリエーションには参加せず見ているだけ。社交性があまりない上に、関東と関西の言葉の違いも壁になり、おしゃべりの輪にも入らないそう。本を読んだりテレビを見たりして過ごしているらしい。スタッフの方に散歩に連れていってもらえるらしく、それはうれしいとのことでした。
「デイに行ってみたら、意外に楽しかった!」的な感想を母が言ってくれるのでは…と思ったのですが、最初からそううまくはいきませんでした。それでも、デイサービスに行くことで頭や体の刺激になり、生活にも張りができるのではないかと期待しています。関西に戻るまで、今の心身の状態をキープしてほしいというのが私の切なる願い。がんばってお母ちゃん!
【感想&後日談】
約1年が過ぎて、関西で暮らしている母はデイサービスを利用していませんが、たまに「また学校に行きたいな」と言うことがあります。なんやかんや言いつつも、楽しかったようです。
デイサービスなどの通所介護サービスには、母の通っていたような「一般型」だけでなく、「認知症対応型」や「通所リハビリテーション(通所リハ)」「療養型」などがあります。一般型でも、サービス内容は施設によってさまざま。近年、多様化が進んでいます。珍しいところでは、将棋や楽器演奏などができる「趣味型」や、買い物やレジャーなどに取り組める「外出型」、ネイルやメイクのできる「美容型」などと呼ばれるものもあるようです。デイサービスへ行くことを嫌がる親の話をよく聞きますが、調べてみると、希望に合ったデイが見つかるかもしれません。
おまけ
母の経験などをもとにデイサービスの内容を簡単に説明すると…。
デイサービスでしてもらえるサービス
・送迎
自宅から施設まで車で送迎してくれます。車椅子でも乗り降りのできるリフト車もあります。
・食事提供
昼食やおやつの提供があります。夕食の提供や、持ち帰り用のお弁当がある施設も。メニューは高齢者が食べやすいように工夫されています。
・入浴介助
大浴場や個室で、介護スタッフに介助してもらいながら入浴できます。介護度の高い人向けの機械浴がある施設もあります。
・機能訓練
日常生活で必要な動作の維持や改善が目的で、ラジオ体操や口腔(こうくう)体操など体を動かすものや、脳トレなどいろいろな訓練があります。
・レクリエーション
折り紙、ぬり絵、カラオケ、習字や体操などのレクリエーションを行います。楽しみと機能訓練を兼ねており、施設ごとの特色が出やすい部分です。
1日の大まかな流れ
8:30 お迎え
9:30 健康チェック
10:00 入浴・レクリエーション・機能訓練など
12:00 昼食・休憩
13:30 レクリエーション
15:00 おやつ
16:00 送迎