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認知症と思ったら…受診のタイミングは?検査やテスト、費用などを解説

認知症を疑って医療機関を受診するのは、勇気がいるものです。どのような検査を受けるのか、医師からどのような質問をされるのか、不安に感じる人もいるでしょう。そこで、認知症の診断のために具体的にどのような検査が実施されるのか、またどのような心構えで受診すればいいのか、専門医にうかがいました。

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認知症かも?と感じたら
認知症の診断方法
認知症検査とは?
本人と家族の心構え
診断を聞くときの心構え
認知症と診断されたら
認知症の最新情報を得る方法
相談窓口一覧
認知症カフェの紹介

認知症の検査について解説してくれたのは……

新井平伊先生は、アルツクリニック東京院長、順天堂大学医学部名誉教授です。アルツハイマー病の基礎や臨床を中心とした老年精神医学が専門で、99年、順天堂大学病院に当時日本初となる若年性アルツハイマー病専門外来を開設。2018年、東京・丸の内にアルツクリニック東京を開院し、アルツハイマー病の早期発見に有効なアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を行っています
新井平伊(あらい・へいい)
アルツクリニック東京院長
1978年順天堂大学医学部卒。84年同大大学院修了。97年、同大医学部精神医学講座教授に就任、99年に日本初となる若年性アルツハイマー病専門外来を開設。2019年から現職。順天堂大学医学部名誉教授、公益財団法人認知症予防財団会長。

認知症かも?と感じたら

日常生活の中で以前とは違う何かを感じていても、年齢のせいにしたり、認知症と診断されることを怖がって受診を先延ばしにしたりしていませんか? 早期診断の重要性や適切な受診のタイミングについて、紹介します。

認知症かも、と感じたら早期診断が重要です

現在は、アルツハイマー型認知症を中心に症状を一時的に改善する認知症治療薬が増え、治療の選択肢が広がっています。早い段階で治療薬の服用を開始したほうが、症状が軽い状態を維持できますし、早期のほうが効果を得やすいというデータもあります。

また、認知症の原因となる病気の中には、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍など、治療によって治る可能性があるものもあります。こうした病気は、早期に適切な治療を受ければ治りますが、治療が遅れると効果を期待できないことがあります。

そのほか、うつ病や甲状腺機能低下症など、認知症と似たような症状が出る病気もあります。こうした病気を見逃さないためにも、早期の診断が大切なのです。

チェックリストに当てはまるなら受診を検討しよう

以前とは違う物忘れなど、認知症を疑うような症状があったら、先延ばしせずに医療機関を受診しましょう。自分でできる認知症のチェックリストの結果なども受診の目安になります。

認知症の診断方法

認知症を疑ったら、まずどこを受診すればいいのでしょうか。病院の選び方や検査にかかる費用、時間などについて紹介します。

診療科と選び方

認知症の原因となる病気なども含めて、正確に診断してもらうためには、認知症の専門医に診てもらうことをおすすめします。まずはかかりつけ医に相談し、地域の認知症専門医を紹介してもらうのが最もスムーズな流れです。

かかりつけ医がいないなど、それが難しい場合は、各都道府県に設置されている「認知症疾患医療センター」を受診するといいでしょう。地域包括支援センターの窓口でも認知症を専門としている地域の医療機関を紹介してもらえます。

認知症を診る診療科は、脳神経内科、精神科、老年科などがあります。ただし、これらの診療科のすべての医師が認知症を専門としているわけではありません。自分で医療機関を探す場合は、「物忘れ外来」「認知症専門外来」などを受診することをおすすめします。

おおよその価格、保険診療について

認知症の検査には、主に問診・診察、認知機能検査(神経心理学検査)、脳画像検査、血液検査があります。これらの検査は、すべて保険が使えます。そのため、自己負担の割合や医療機関によって検査費用の自己負担額は異なりますが、一般的には数千円~2万円程度です。

所要時間・日数について

医療機関によって異なりますが、一般的には、12時間程度で終了します。大学病院など認知機能検査や画像検査を詳しく行う施設では、それよりも長くなることがあります。すべての検査結果がそろうまでには1週間以上かかることが多いですが、その日のうちにある程度の結果を教えてもらえる場合もあります。

神経心理学検査では、認知機能のチェックをする
神経心理学検査では、認知機能のチェックをする

認知症検査とは?

認知症は、複数の検査を総合して診断します。主な検査である、問診・診察、神経心理学検査、脳画像検査、血液検査について説明します。

問診・診察

医師が症状や病歴について質問します。このため、受診の際には「いつ頃からどのような症状があったのか」「どのようなきっかけで症状に気づいたのか」「気づいたときから現在までの経過」などを記したメモを用意しておくといいでしょう。

そのほか診察の際には、手足のまひやふるえなどの運動障害、歩行や聴力、視力の状態を確認します。

神経心理学検査

認知機能テストのことで、「今日は何年、何月、何日、何曜日ですか?」といった、記憶力や時間や場所を正しく認識する能力などの認知機能をチェックします。多くの場合、臨床心理士が行います。日本では、「改訂長谷川式簡易知能評価スケール」や「MMSE(ミニメンタルステート検査)」といったテスト方法がよく使用されます。

脳画像検査

アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症では、多くの場合、脳の萎縮がみられます。CT検査やMRI検査では、脳の萎縮の状態を調べると同時に、脳梗塞や脳出血の有無などを調べます。

大学病院などでは、脳の血流を調べる「脳血流SPECT検査」が実施されることもあります。また、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症を鑑別するために、「MIBG心筋シンチグラフィ」検査が行われることもあります。

全額自己負担になりますが、アルツハイマー病の原因と考えられている「アミロイドβ」の脳内の蓄積を調べる「アミロイドPET」という検査もあります。この検査では、認知症のリスクを知ることができます。

血液検査

貧血の有無や肝機能、腎機能を確認するほか、甲状腺ホルモン値、ビタミンB12、葉酸の値なども調べ、全身の病気の有無を確認します。

本人と家族の心構え

家族が異変に気づき、一度、医療機関で診てもらうことをすすめた場合、本人が受診を拒否するケースがあります。どのように対応すればスムーズに受診を促せるか、本人の自尊心を傷つけないためにはどうすればいいのかを紹介します。

傷つけないためには

まずは本人の気持ちを理解することが必要です。MCI(軽度認知障害)や初期の認知症の段階であれば、本人でもこれまでと違う変化を感じているはずです。わかっていながら認めたくないというのは、人間の正常な心理です。その気持ちを理解したうえで、受診をすすめることが本人の自尊心を傷つけないためのポイントです。

本人が拒否したとき

本人が納得して受診してもらうのが、その後の検査や治療をスムーズに行ううえで、理想的です。まずは「いつまでも元気でいてほしいから、早めに受診してほしい」という家族の思いを素直に伝えてほしいと思います。夫婦よりも子どもから親へ伝えてもらうほうが、うまくいきやすいようです。

2つ目の方法は、かかりつけ医から受診をすすめてもらう方法です。客観的な事実をふまえたうえで、受診を促されれば、断りづらいのではないでしょうか。

3つ目は、夫婦で一緒に検査を受ける方法です。もしくは、例えば夫に認知症の疑いがあったら、妻の検査の付き添いという形で受診してもらい、医師から「ご主人も一緒に調べてはいかがですか?」と伝えてもらう方法です。

場合により脳の萎縮や血流を調べる検査もある
場合により脳の萎縮や血流を調べる検査もある

診断を聞くときの心構え

検査を受けてから、診断を聞くまでの期間、不安に感じるものです。診断を聞く際の心構えについて紹介します。

家族と一緒に

現在は、本人に告知するのが一般的です。診断を聞く際は、本人と家族が同席することをおすすめします。医師がどのように説明したのか、それを聞く本人の様子はどうだったのかといったことがわからないと、診断後に本人の気持ちにそぐわないような声がけや対応をしてしまうかもしれないからです。

本人と暮らしている家族は、本人の変化を鋭敏に感じとっているものです。「おそらく認知症だろう」と感じていると、診断を聞くのは家族にとってもこわいことかもしれません。病気によって一時的に症状が出ているだけの場合もありますし、脳画像などを見せてもらいながら、症状の原因をしっかり聞くことが大切です。

「認知症ではない」と診断されると、安心すると同時に日常生活での本人の異変を感じている家族は、自分の感覚と診断にギャップを感じることもあるかもしれません。認知機能テストでは、本人が普段以上の力を発揮して、満点をとれてしまうということもあります。ただし、それを含めての診断であり、がんばればできる状態ということは、余力がある段階ともいえるのです。

どうしても診断に納得がいかなければ、認知症を専門に診ている医療機関でセカンドオピニオンを聞くことをおすすめします。

事前に相談先を確保しておく

いざ、認知症と診断されると途方に暮れてしまうかもしれません。そうならないためにも、事前にどのような相談先があるのか、確認しておくといいでしょう(→下部、相談窓口一覧)。受診した医療機関でも相談先を紹介してくれるはずです。

認知症と診断されたら

認知症と診断されても、初期の場合は明日から介護が必要になるというものでもありません。将来への備えは、長い期間の中で考えていけばいいことです。まずは、本人も家族も病気を受け入れ、今を大事にすることを意識してほしいと思います。家族としては、症状が出るのは病気のせいであり、本人のせいではないということを理解することが大事です。

また、本人を支えるのは家族だけではありません。認知症は、初期の段階では医療従事者、介護が必要になった段階ではケアマネジャーや介護福祉士なども加わって、チームで支えていく病気です。家族がこうしたことを知って安心できると、本人の安心感にもつながるのではないでしょうか。

では、診断されて明日からできることは、何でしょうか。できるだけ進行をゆるやかにするために、今の生活習慣を見直すことです。「バランスのとれた食事を意識する」「適度な運動をする」「人と積極的に関わる」「高血圧や糖尿病などの生活習慣病を予防、管理する」といった認知症予防のための生活習慣は、発症したあとも大事なことです。

認知症になったからといって、人生終わりではありません。旅行にだって行けますし、趣味を楽しむこともできます。今を充実させることを意識してほしいと思います。

認知症の最新情報を得る方法

超高齢化社会において、認知症は切り離せないテーマです。現在のところ、使用できる根本的な治療薬はなく、100%予防できる方法はありません。このため、世界でさまざまな研究が進み、日々最新情報が更新されています。こうした情報は、インターネットなどで簡単に得ることができますが、なかには科学的根拠が明らかになっていない情報もあります。情報を発信しているのが、認知症を専門としている医師であるいうことが、信頼性を見極めるうえでの目安になります。

相談窓口一覧

【地域包括支援センター】

高齢者やその家族を支援するため、各市区町村に設置されている総合相談窓口。医療機関や介護サービスの紹介、介護予防に関する支援、要介護認定の申請サポートなどを行っています。市区町村に問い合わせると、近くの地域包括支援センターを教えてもらえます。

【認知症疾患医療センター」

各都道府県に設置されている認知症疾患医療センターでは、認知症に関する専門知識がある精神保健福祉士などが、医療相談に応じています。

 【若年性認知症コールセンター、若年性認知症支援コーディネーター】

若年性認知症には、高齢発症とは異なる特有の悩みがあります。各都道府県では、若年性認知症の人やその家族からの相談窓口「若年性認知症コールセンター」を設置し、若年性認知症支援コーディネーターを配置しています。

【認知症の患者会・家族会】

認知症当事者が集まる患者会や認知症の人を介護している人が集まる家族会も、貴重な相談の場です。公益社団法人「認知症の人と家族の会」は全国に支部があり、電話相談にも応じています。ほかにも各地域にはさまざまな患者会や家族会があり、お住まいの市区町村や地域包括支援センターで紹介してもらうことができます。

認知症カフェの紹介

認知症の人やその家族が、地域の人や専門職と情報を共有し、お互いを理解するために開催されている認知症カフェ。介護サービス施設・事業者、地域包括支援センター、市区町村などが運営していて、誰でも気軽に参加できるのが特徴です。情報交換や専門職への相談、認知症予防のための活動など、カフェによってさまざまな活動を行っています。全国で開催されている認知症カフェは当サイトで検索することができます。

※ 認知症カフェの検索はこちら「認知症カフェ検索

※ 病院に連れて行く方法や相談先に関する記事はこちらにも「家族の視点

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