めざせ!脱“レトロ昭和” こだわり強いシン高齢者には“ネオ昭和”介護へ
イラスト・河原ちょっと
公的な介護サービスを利用する際に欠かせない「ケアプラン」。けれど、どのようなことが記されているのか、どんな目的があるのか、案外、知られていないのではないでしょうか。ケアタウン総合研究所代表で、ケアプラン評論家の高室成幸(しげゆき)さんが、「幸せケアプラン」づくりを指南します。
前回は、「その人らしさ」と「自分らしさ」の違いについてお伝えしました。
今回は、これから介護を受けることになる世代が、「自分らしさ(本人らしさ)」をいかにケアプランに生かしていくか、がテーマです。
みなさんは「昭和」という文字からどのようなイメージを思い浮かべますか?
「昭和生まれ」の方ならば、「なつかしい」というより「私の少年少女時代&青春時代ど真ん中」をイメージされるかと、思います。(かくいう私=60代半ば=もど真ん中!)
実は、これまで、介護現場でもかなり「昭和」が幅を利かせてきました。
まずはレクリエーションです。
「みなさん、さぁ歌いますよ!」
と流れるほとんどの曲は童謡か、ド演歌です。
演歌といえば、「北国の春」(千昌夫)や「与作」(北島三郎)、「いっぽんどっこの唄」(水前寺清子)あたりでしょうか。歌謡曲に広げれば「四つのお願い」(ちあきなおみ)、「愛燦燦」(美空ひばり)、「三百六十五歩のマーチ」(水前寺清子)などが人気。
リハビリ体操ではなんといっても「三百六十五歩のマーチ」。「♪しあわせは、歩いてこない…」と歩かせる気満々の歌詞がピッタリとくるので人気です。
明治生まれの方が多くいらっしゃった20年以上前は、プラス「軍歌」(わが父はこっち)が人気でした。唱歌は尋常小学校で散々歌わされたので、曲が流れるだけで歌詞を口ずさめるのはほぼ当たり前。曲名といえば、「ふるさと」(♪兎追いしかの山~)や「赤い靴」(♪赤い靴 はいていた 女の子~)、「大きな古時計」(♪おおきな のっぼのふるどけい~)でしょうか。介護施設を見学するとお約束のようにレクリエーションホールの壁に模造紙で歌詞が貼られていたものです。
これらの背景にあるのが、高齢者に対する心理療法の一つの「回想法」です。昭和の時代にタイムスリップしたように、昔の写真や料理道具、仕事道具などに手で触れ、そして話し合うことで記憶が呼び戻されることが狙いです。ふだん会話の少ない人や認知症の人でも話題に入ってきやすく、心地よく、楽しくおしゃべりできるようになることを狙っています。
「思い出やモノからはじまる関係づくり」
これはこれで、とてもステキですね。
それを空間演出したのが「昭和横丁」と呼ばれるような場所です。最近も再び注目されていて、全国の商店街や商業施設で、昭和レトロをウリにした空間が人気です。
なんと15年以上前の2007年に愛知県高浜市の特別養護老人ホーム「高浜安立荘」では、施設内に昭和横丁を作っちゃいました。当時、メディアでずいぶんと紹介され、私も見学しました。
そこでは、昭和レトロ感あふれる駄菓子屋や古ぼけた看板たちに白黒テレビ。「ザ・昭和の茶の間」が再現されています。さらに黒ミシンや千歯こき(脱穀用の農機)など大正時代から昭和中期まで使われていた道具類もしっかり展示されています。
し、し、しかし…いつまでもこれでいいのでしょうか!とあえて言いたいのです、私は(妙に力が入っています)。
今(2023年時点)の後期高齢者の多くは大正から昭和の戦前のお生まれ。そういう方々には、そりゃ、昭和レトロがフィットするでしょう。
では、今から10年~20年先の2033年~2043年になったらどうでしょうか?
現在、60代~70代前半のみなさんは、昭和横丁のノリで話題を振られて果たしてうれしいでしょうか? 北島三郎、千昌夫、ちあきなおみ、美空ひばりの歌でこころ楽しくなるのでしょうか? 「昭和レトロ感」で回想法をされたら楽しいでしょうか?
駄菓子屋話題では盛り上がれるかもしれません。
でもなぁ…。
私だったら、申し訳ないですが「No」だと答えます。
昭和レトロは、極貧から高度経済成長期へと至る昭和の時期に青年期を過ごした高齢者の生活風景です。その生活風景でずっといいわけではありません。「高齢者=昭和レトロ」というのは、介護者や支援者側が都合よく作り上げた「その人らしさ」に他ならないのではないでしょうか。
つまり、団塊の世代以降の「シン高齢者」にとってはノスタルジーではあってもココロ震わせる「楽しい話題」にはならないであろうと思うのです。
シン高齢者向けには、レトロな昭和でなく「ネオ昭和」なレクリエーションや住環境整備を準備する時が来ています。
その準備は、もういまから始めてもいい時期にきているのかもしれません。
歌なら童謡や軍歌はまずランク外。歌謡曲も加山雄三から尾崎紀世彦、森進一、新御三家(野口五郎・西城秀樹・郷ひろみ)ですね。
洋楽ならプレスリー、ビートルズ、ビリー・ジョエル、フランク・シナトラ、カーペンターズ、サイモン&ガーファンクルは基本中の基本です。
グループサウンズならスパイダーズ、ブルー・コメッツ、ザ・タイガース、ザ・テンプターズ、ザ・カーナビーツ、ザ・ゴールデン・カップスなどなどで…。
フォークソングなら岡林信康、赤い鳥、五つの赤い風船、かぐや姫、海援隊、吉田拓郎、加藤登紀子、青い三角定規、河島英五などなど。(ダメだ、書いているうちに懐かし涙がにじんできた…)。
これからは、昭和横丁よりゴーゴー喫茶(音楽系喫茶のひとつ)やジャズ喫茶、ジュークボックス、ディスコなどがピッタリくる世代の到来です。映画ポスターだって洋画(シェルブールの雨傘、男と女、街の灯)にグッと志向が移っていく世代でもあるのですから…。
ネオ昭和に育ったシン高齢者は「ジブン好みにこだわり」がある世代です。歌手のどの曲がマイベストなのか、を答えられるのがこの世代。一方的な印象で「その人らしさ」を決められるのをヨシとしない「主張(推し)のハッキリした世代」です。ケアプランにも「自分らしさ」を表記してもらいましょう。
「カラオケでなつかしい歌を歌いたい」(抽象的な表記)
→「△△会社のOB仲間と岩崎宏美‟聖母(マドンナ)たちのララバイ”をカラオケで歌いたい」(個別性のある表記)
人生はだれにとっても「一人称」です。
一人称の人生をもっと具体的に伝えて、ケアプランに反映してもらうこと。シン高齢者の介護を幸せにするための試金石はそこなのです。