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幸せケアプラン

ケアプランの「その人らしさ」=他人目線? 大切なのは「自分らしさ」

「・・・ということは『自宅でゆっくり暮らしたい』」「・・・ということは『地域の人とふれあいたい』」

公的な介護サービスを利用する際に欠かせない「ケアプラン」。けれど、どのようなことが記されているのか、どんな目的があるのか、案外、知られていないのではないでしょうか。ケアタウン総合研究所代表で、ケアプラン評論家の高室成幸(しげゆき)さんが、「幸せケアプラン」づくりを指南します。
今回は「その人らしさ」と「自分らしさ」の違いについて考えてみます。

ここ数年、厚生労働省からケアマネジャーに対して「個別性あるケアプランを書くようにしましょう」と通知類で指導されることが増えています。介護保険が始まった頃から個別性重視は言われていたのですが、いまもなお強調されるのは、残念ながらそうなってはいないから、です。
「個別性が見えないプラン」のことを「似たり寄ったりプラン」「顔なしプラン」と揶揄(やゆ)することもあります。どんなものがあるのでしょう。

「いつまでの自宅でゆっくりと暮らしたい」
「以前のように社会参加を行い、地域の人たちとふれあいながら日々を過ごしたい」

いかがでしょう?
だれにでも当てはまる(使い回しできる)表現だと思いませんか?

みなさんのなかには不思議だと思われた方がいると思います。
「あれだけ父から熱心にこれまでの暮らしや仕事のこと、一日の暮らしの流れ、これから望む暮らしのことなどを聴き取っていたし、私も伝えた。でも、どうしてこの程度しか書かれないの?」と…。
残念ながら、この表記には個別性はコレっぽっちもありませんね。


さて、どうしてこうなっちゃうんだろう?と疑問を抱き散々考え抜きました。そして10年前に一つの原因がわかったのです(ちょっと大げさですかね)。
それは次のフレーズです。
「その人らしさ」
これです。この「その人らしさ」というフレーズのおかげで「個別性は大事だ」と言いながら「顔の見えないケアプラン」が横行しているんです。どういうこと?と疑問を抱かれる方も多いでしょう。

「こちらの方がワクワクする色は何でしょうか?」「青」「赤」「黒」「緑」「黒」「ピンク」「青」「茶色」『オレンジ色なんだけど・・・私ってどう思われているのかしら・・・』

「その人らしさ」…。
このフレーズはとても相手を思いやった配慮ある言葉だと思います。私も嫌いではありません。
しかし「その人らしさ」を決めているのは誰でしょう?
そうです!本人ではなくケアする側なんですね。ケアする側がその人の生育歴や仕事歴、性格などから一方的に「その人らしさ」を決めつけていることが多いんです。

このことに気付いてもらうために、私はケアマネジャーや介護職を対象とした研修会で次のようなワークショップを行っています。
前列に座っている、あるケアマネさんに立ってもらいます。
「これからその人らしさ当てっこゲームをします。この方は要介護3とします。この方がワクワクする色を当ててください。よーくイメージして下さいね」
1分後…。
「では私がいくつかの色を言います。手を挙げてくださいね。赤、青、黄色、オレンジ、緑、ピンク、紫、白、黒、茶色…」
みなさん、それぞれに手が挙がります。みんなバラバラです。全員上げ終わったら、次に本人に答えを質問します。
「ご本人として、何色ですか?」
「オレンジです!」(みんなからおおっという声が上がります)
「なんとオレンジですか! その色は5人でしたね。でもピンクが10人、青が8人、茶色が3人…。オレンジ以外の色の服を着せられたら?」
「ピンクはギリで大丈夫です。青は嫌いです。茶色は絶対、ダメですね(笑)」
ここで私は研修会の参加者に伝えます。
「どうでしょう? その人らしさって決めつけだと思いませんか。『お似合いですよ』もほぼ決めつけです。その人らしさって言葉で気分良くなっていませんか?」


つまり「その人らしさ」は“他人目線”だということ。ケア側はそうとはわからず、「『その人らしさ』というサポーティブ(支援的な)な言い回しで満足していることが起こっていませんか?」「やさしい声で決めつけていませんか?」と問いかけると会場はシーンとします。

「その人らしさ」は本人にとっては「本人らしさ」。もっともわかりやすいのは「自分らしさ・わたしらしさ」なんです。
外から判断した「その人らしさ」と「本人らしさ」とは違うのです。このことを私は、ここ10年間、いろんな場所で発信してきました。

しかし残念ながらケアプランはまだまだ。「その人らしさ」目線でのワンパターンな表記ばかりです。実はケアマネジャー向けのケアプラン文例集なるものがあり、そのままを引き写し・まねっこも横行しています。
これは個別性を軽視する資質というより、ケアプランを書く(アウトプット)というトレーニングを受ける機会がないことに起因しているためです。
ご本人の「自分らしさ」を大切にするなら、先の「似たり寄ったりプラン」「顔なしプラン」のケアプランも次のように変わります。

「30代で立て直した築50年になる自宅で、83歳になる妻ゆり子と庭いじりや犬のゴンすけといっしょに毎日をおだやかに暮らしたい」
「5年前のように青山町内会の夏祭りや朝市に参加して、近所の○○さんたちとお茶っこ話をして日々を楽しく過ごしたい」

その人の「自分らしさ」に詳しいのは一緒に暮らす家族だけではありません。きょうだいや友人、仕事仲間、なじみのお店の方たちです。そしてなにより「自分らしさ・私らしさ」を知っているのは当のご本人です。認知症の高齢者ならなおさら。認知症ケアの大きなポイントでもあります。

ぜひともケアマネのみなさんに「本人らしさと心地よさ」を具体的にエピソードで伝えてください。
そしてケアプランに表記されているか、確認をしていただければと思います。

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