夫の更年期 夫婦で考える乗り越え方 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~更年期編(3)】
作・渡辺千鶴、岩崎賢一、イラスト・ゆぜゆきこ
ナオコさん(53)ら同級生4人での温泉旅行での更年期談議は尽きません。ユミさんが「夫にほてりや動悸など更年期のような症状がみられるの」といったことから、話題は男性の更年期のことに移っていきました。ナオコさんにとって初めて耳にする言葉です。まだまだ働き盛りといえる男性たちは、更年期をどう乗り越えていけばいいのでしょうか。
テストステロンの低下が男性の更年期障害に影響
「男性の更年期について調べてみましょう」
ナオコさんは、そういうとスマートフォンで検索を始めました。すると、画面いっぱいに、いろいろな情報がでてきました。
「男性にも更年期ってあるのね。知らなかったわ」
4人はスマートフォンの画面をのぞき込み、口々に驚きの声を上げました。
近年、男性にも女性と同じように更年期があることが分かってきました。日本泌尿器科学会と日本メンズヘルス医学会は、男性更年期障害について「加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)」と定義し、その診療の手引きを作成しています。LOH症候群は、男性ホルモンのテストステロンが低下することによって起こります。通常、男性ホルモンは加齢とともに緩やかに減少していきますが、40代~50代で急速に減ってくるとLOH症候群が出現すると考えられています。その原因は、ストレスや環境の変化といわれていますが、はっきり分かっていません。
テストステロンが減少すると、ほてり、のぼせ、多汗、めまい、動悸、息切れ、頭痛、肩こり、筋肉痛、関節痛、手足のこわばり、排尿障害、不眠などのさまざまな身体症状が現れます。また、気力の低下、意欲の減退、イライラなどの精神症状も起こりやすく、しばしばうつと間違われることがあります。さらにED(勃起不全)、性欲減退などの性機能症状がみられることも特徴の1つです。
「なるほど。女性の体はエストロゲンに、男性の体はテストステロンに支配されているということね」。インターネット記事の解説を読みながらナオコさんは感心しました。
LOH症候群は重症化する前に適切な治療が大切
ユミさんは「夫も男性更年期障害の疑いがあるってことかしら」と不安になってきました。
「ユミ、本人の自覚症状だけじゃ断定できないわよ。ほら、ここにも“血液検査で、血液中のテストステロンの濃度を測定することが客観的な指標になると考えられています”って書いてあるもの」とマリさんが冷静に話しました。
LOH症候群は、女性の更年期障害とは異なり、更年期を過ぎても回復しないとされています。そのため、重症化する前に医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。LOH症候群の診療の手引きの中には、海外でも使用されている「AMSスコア(男性更年期障害質問票)」と呼ばれる自覚症状からLOH症候群をスクリーニングできるチェックシートが掲載されていますので、そういったものも活用して早めに気づきたいものです。
「このチェックシートは受診の目安になるからいいわね。旅行から帰ったら、さっそく夫とやってみるわ」とユミさんはインターネットで検索した情報をスマホでスクショしました。
男性の更年期障害は「泌尿器科」、最近は「男性更年期外来」も
「ところで、LOH症候群の場合、何科を受診すればいいのかしら」とマリさん。
「泌尿器科になるみたいよ」とネット記事を見ながらナオコさんが答えると「女性の更年期障害のように“女性外来”とか“更年期外来”とか専門に診療してくれる外来はないのかしら。男性の更年期障害も重くなると大変そうだし」とセツコさんがいいました。
「男性更年期外来なんて聞いたことがないわよ。でも、試しにスマホで検索してみようか」とナオコさんが調べてみると、大学病院、総合病院、診療所と実にさまざまな医療機関が専門外来を開設し、男性の更年期障害に対応してくれていることが分かりました。
「へえー、この病院はメンズヘルス外来ですって。英語やカタカナの表記にすると、若々しくておしゃれな感じになるわね」
「そのネーミングなら、世のおじさま方も受診しやすくていいんじゃないの」
「そうね。男性だって更年期障害といわれると、きっと落ち込むはずだもの」
ナオコさんたちはいろいろな医療機関のホームページを閲覧していきました。
「LOH症候群の治療も女性の更年期障害と同じようにホルモン補充療法や漢方薬の服用が主体になるのね」とセツコさんがいいました。すると、マリさんが「ホルモン補充療法を受けるのなら薬の副作用やがんのリスクも心配。やっぱり治療に慣れている医師にかかったほうが安心ね」と言い、ほかの3人もうなずきました。
夫婦で過ごす50代、お互いの更年期を理解することが大切
「夫にはまだまだ元気に働いてもらわなくちゃいけないから、日常生活で気をつけてあげられることはないかしら」とユミさん。「そりゃ、妻としては毎日の食事でしょう」とセツコさんがすかさずアドバイスしました。
「ほらほら、ここに男性ホルモンに効果のある食材のことが書いてある」とナオコさんが大学病院の男性更年期外来で診療している医師が監修している記事を見つけてきました。「インターネットには、いろいろな情報があふれているけど、医師や管理栄養士が監修しているものなら信頼できるでしょう」とナオコさん。4人が記事を読み進めていくと、食事のほかに十分な睡眠、適度な運動(筋トレ)、休養(リラックス)も大切であること、また妻や家族が男性更年期の症状に共感し支えることが欠かせないとも書かれていました。
「結局、夫に対しても女性の更年期障害とほぼ同じ対応をすればいいってことか」とユミさんは合点がいったようでした。マリさんもセツコさんも「種類は違うけど、どっちもホルモンの減少が原因だからね」と納得している様子でした。
「考えてみれば当たり前のことだけど、男性にとっても更年期の症状は、夫婦がお互いにいたわり合って、老年期を迎える準備をしなさいということね」とナオコさんはつぶやきました。
それを聞いた友人たちは「ナオちゃんのそういうのんきなところが好きだわ~」と笑いました。子育てのゴールも見えてきて、これからは夫と過ごす時間が確実に増えてきます。それぞれにもう一度、夫婦関係を見つめ直すことが大切だと感じたのでした。
次の日曜日、ナオコさんはマサオさんと一緒にどこかに出かけ、ゆっくり話をしてみようと思いました。
- ナオコさんのポイントチェック
- 解決策①
うつとも間違われやすい男性の更年期障害(LOH症候群)は、重症化する前に医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。自覚症状からLOH症候群のスクリーニングもできる「AMSスコア(男性更年期障害質問票)」などを活用して早めに気づくようにしましょう。
解決策②
男性更年期障害(LOH症候群)の診療を行っているのは泌尿器科です。各地では「男性更年期外来」や「メンズヘルス外来」など専門外来を設置する医療機関も増えています。NPO法人性差医療情報ネットワークや日本メンズヘルス医学会のホームページでは、男性外来を開設する医療機関を都道府県単位で検索できます。
解決策③
男性の更年期障害への対応は基本的に女性と同じです。老年期に向けてソフトランディングできるように、日々の食事、睡眠、運動、休養に気をつけましょう。家族が男性更年期の症状に共感し、支えていくことも上手に乗り切るためには不可欠です。
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*更年期編は今回で終了します。次回は生活習慣病の一つ、糖尿病編です。次回の記事の公開のお知らせ等は、この連載記事を掲載している「project50s」のLINE公式アカウントで「お友だち」になると公開メッセージなどが届きます。末尾のバナーリンクから「project50s LINE公式アカウント」(@project50s)にお進みください。
おことわり
この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。
- 渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
- 愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
- 岩崎賢一(いわさき・けんいち)
- 埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。