更年期の相談ができる女性医師の探し方 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~更年期編(1)】
作・渡辺千鶴、岩崎賢一、イラスト・ゆぜゆきこ
会社員のナオコさん(53)は、週末、大学生時代の友人3人と毎年恒例の温泉旅行に出かけました。宿のお食事処での夕食を終えると4人は早々に部屋に引き上げ、グラスを片手に夜中までおしゃべりに花を咲かせました。それぞれ家庭を持っていますが、2人は専業主婦で、もう1人はナオコさんと同じようにフルタイムで働いています。ここ数年、子どもの進路や親の介護とともに話題によく上ってくるようになったのが更年期の悩みです。
ホットフラッシュや集中力が低下
「いや~、他人事だと思っていたら、私たちももう50代ね。ホットフラッシュっていうの? ごはんを作っていたらバッーと汗が出てきちゃって。最近よく起こって困っているの」と専業主婦のユミさんが大きなため息をつきながら口火を切りました。
「ホント、更年期の真っただ中にいる感じがするわ。私は集中力がまったくなくなっちゃって。倍の時間を見積もっておかないと同じ量の仕事をこなせなくなっているの」とナオコさんが嘆きました。
やはりフルタイムで働いているマリさんも「それ、わかる、わかる。30代~40代前半のころに比べて踏ん張りがきかないというか……。でも、これは更年期の症状というより年のせいかもしれないわよ」と笑いました。
すると、専業主婦のセツコさんが「それが意外だけど、更年期症状の一つなのよ。女性ホルモンのエストロゲンが低下すると集中力や判断力が落ちてくるんだって。人や物の名前がパッと出てこないこともよくあるでしょう。それもエストロゲンの仕業なのよ」と教えてくれました。
参考情報
●日本産科婦人科学会HP「一般の皆様へ:産科・婦人科の病気:更年期障害」
*インターネット情報は、最新情報を各自で確認することが重要です
婦人科受診に抵抗があるときは女性医師を選ぶ
「へえー、セツコって物知りねえ」とユミさんが感心すると「婦人科の先生が教えてくれたのよ」とセツコさんは答えました。
「婦人科の先生? セツコは更年期障害で婦人科にかかっているの?」と3人は思わず声を揃えて尋ねました。
「いやいや、更年期障害で婦人科にかかっているわけじゃないの」とセツコさんは、自分の身に起こったことを話してくれました。
セツコさんは40代後半から下腹部がいつも張っているような不快感に悩まされるようになったそうです。
「最初は腸の病気を疑って消化器内科を受診したの。超音波で内臓をいろいろ調べてもらったら子宮に筋腫があることがわかってね。自覚症状が全然なかったから驚いたわよ」
「早めに気づけてよかったじゃない。それで婦人科に行ったの?」とナオコさんが尋ねると、セツコさんはうなずきました。すると、ユミさんが「婦人科ねえ……。私はどうにも内診が苦手。できれば行きたくないわ」と肩をすくめました。「それは、みんな同じよ。好んで行く人なんていないと思うわ」とマリさん。「やっぱり婦人科でかかるのなら同性の女性の医師がいいわね。でも、どうやって探せばいいのかしら」とナオコさんはつぶやきました。
医師を探す場合、近所のクチコミのほか、インターネットで「婦人科 女性医師 地域」などの関連キーワードを入力して検索する人が多いと思います。このほか、最寄りの保健所(もしくは保健センター)に尋ねるという方法もあります。医師は開業する際、保健所に「診療所開設届」を提出しなければならないので、保健所には地域の診療所に関する情報(開設者、診療科目、診療時間、人員、設備など)がいろいろ集まっています。そこで、保健師に相談してみるという方法で、アドバイスをしてもらえる可能性があるというわけです。
「なるほどねえ、自分が住んでいる地域の診療所やクリニックの情報を知りたい場合、こういう探し方もあるのね。セツコはどうしたの?」とナオコさんが尋ねると「私は消化器内科のドクターに大学病院の女性外来を紹介してもらった」という返事でした。
女性の心と体の問題に総合的に対応してくれる「女性外来」
(女性外来? なんとなく想像できるけど、どんな外来なのかしら)
そう思ったナオコさんが他の2人を見ると、ユミさんとマリさんも首をかしげています。
女性外来とは、女性医師が中心となって診療にあたる女性専用の専門外来のことで、婦人科の病気だけでなく、女性の心と体の問題に総合的に対応してくれます。日本では2001年5月に最初の女性外来が鹿児島大学病院に開設されました。以来、各地の医療機関では女性外来を設置してきました。
ただし、その診療方針や診療スタイルは医療機関によって異なり、検査・治療・その後のサポートを継続的に行っている施設もあれば、初診のみ対応し、患者の症状にあった診療科に治療を引き継ぐ施設もあります。また、数は少ないものの男性医師が診療を担当しているところもあります。費用も多くの医療機関では健康保険を使えますが、全額自己負担(自由診療)の場合もあります。女性外来を希望する際はかかりたいと考えている医療機関の診療状況をホームページなどで事前に調べ、自分のニーズと合っているかどうかを確認してから受診するのがよいでしょう。
参考情報
●NPO法人性差医療情報ネットワークHP「女性外来マップ」
*インターネット情報は、最新情報を各自で確認することが重要です
複数診療科をカバーする「女性外来」
「この外来なら男性医師に話しにくいことでも相談できそう」とユミさんも興味津々です。
「それで、セツコは女性外来で、どんな治療を受けることになったの?」とナオコさんはその先の話が知りたくて尋ねました。
「私がかかっている女性外来は婦人科のほかに消化器内科や泌尿器科、乳腺外科、皮膚科があって必要に応じて臨床心理士のカウンセリングも受けられるの。私は婦人科でさらに検査を重ねてがんでないことを否定してもらったうえで子宮筋腫の治療を始めることになったのよ」とセツコさん。
子宮筋腫は女性ホルモンによって大きくなるため、セツコさんは月経を止める治療を受けたそうです。
「いきなり閉経と同じ状態になったわけだから、ホットフラッシュをはじめ、更年期障害のような症状が次々に現れてつらかったわ。おかげで筋腫は小さくなって下腹がいつも張っているような不快感はなくなったけど」
現在、セツコさんは子宮筋腫の薬物治療を終え、3カ月に1回の割合で受診し、経過観察しているそうです。
「その診察のときに更年期の相談にも乗ってもらっているのよ。困っている症状を訴えるでしょう。すると先生は、私の女性ホルモンの分泌状況から起こっている症状を説明してくれたうえで具体的なアドバイスをくれるの。体の中で起こっていることが分かると更年期の症状も受け入れやすくなったし、先生のアドバイスを参考に上手に付き合っていこうと思えるようになったわ」
このように、セツコさんは気持ちの変化を語り、主治医に教わったことをいろいろ話してくれました。
タイパ重視の時代に気軽に更年期症状を相談できるところはあるのか
「ふーん、女性の体はいかに女性ホルモンに支配されているのかがよく分かるわね。私たちもそういう説明を受けたら、いちいち悩まずにアタフタしないかも」と3人は感心しました。
「でも、何でも単純に更年期症状だと決めつけるのはキケンよ。この時期はがんをはじめ、いろいろな病気にかかりやすいときでしょう。婦人科に定期的にかかっていれば、ほかの病気と区別してもらえるし、もしものときも早期発見できる可能性が高いわ。私の場合はたまたまだったけど、更年期には何でも相談できる婦人科の医師がいると安心して、この時期を乗り越えられるように思うの」とセツコさんは話を続けました。
「私も月経不順に悩まされているから、この機会に女性外来を受診してみようかな」とナオコさんがいいました。するとマリさんが「とても忙しくて婦人科に定期的に通院する余裕はないわ。時間のない私でも困ったときだけ気軽に相談できる場所はないものかしら」「今はタイパ、タイパの時代よ」とつぶやきました。
さて、婦人科や女性外来以外に更年期の相談に乗ってもらえる場所はあるのでしょうか。
- ナオコさんのポイントチェック
- 解決策①
婦人科を専門とする女性医師を探すには、クチコミやインターネットの検索画面でキーワードを入力して探す方法のほか、最寄りの保健所(もしくは保健センター)の保健師に相談するとアドバイスをもらえるかもしれません。
解決策②
NPO法人性差医療情報ネットワークのホームページには「女性外来マップ」が掲載されており、各地の女性外来を検索することができます。医療機関によって診療方針、診療スタイル、費用などが異なるため、かかりたいと考えている医療機関の診療状況を事前に調べて自分のニーズと合っているかどうかを確認してから受診するのがいいでしょう。
解決策③
更年期は、がんをはじめ重大な病気にかかりやすい時期でもあるので、何でも単純に更年期症状だと決めつけることはやめましょう。ほかの病気と区別してもらうことが肝心です。何でも相談できる婦人科の医師がいると、重大な病気の早期発見にもつながり、安心してこの時期を乗り越えられます。
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おことわり
この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。
- 渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
- 愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
- 岩崎賢一(いわさき・けんいち)
- 埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。