更年期 つらい悩みを解消する方法 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~更年期編(2)】
作・渡辺千鶴、岩崎賢一、イラスト・ゆぜゆきこ
大学時代の友人3人と温泉旅行にやってきたナオコさん(53)は、友人のセツコさんの更年期の体験を聞いて婦人科のかかりつけ医を持つ大切さを痛感しました。でも、友人のマリさんは「とても忙しくて婦人科に定期的に通院する余裕はないわ。時間のない私でも困ったときだけ気軽に相談できる場所はないものかしら」といいます。婦人科以外に更年期の女性をサポートしてくれるところはあるのでしょうか。
更年期を家族が理解してくれない
「更年期は病気じゃないでしょう。実家の母に体の具合が悪いと愚痴をこぼしたら『誰でも通る道だから、しばらくがまんしなさい』って説教されたの。自分がつらかったときのことを覚えていないことに腹が立ったわ」とユミさんが不満げにいいました。
「母親だけじゃないわよ。うちの夫も最悪。家事をするのに疲れて昼寝をしていたら『昼間からいいご身分だな』って嫌味をいうし。自分だって休みの日は疲れが取れないといってゴロゴロしているくせに」とセツコさんも相槌を打ちました。
「せっちゃんの夫は関心を示してくれるだけいいわよ。うちの場合はね、私が忙しくてキッーとなることが多くて、子どもにもつい当たっちゃうことがあるの。そうしたら、夫は“触らぬ神に祟りなし”とばかりに、そそくさと自分の部屋に消えちゃうの」とマリさんはそう打ち明けると肩を落としました。
「うーん、その対応もつらいわね。そりゃ、家族にしてみればヒステリックになられるのは迷惑なことだけど、イライラだって女性ホルモンの仕業だからね。気持ちのコントロールがきかないときもあるわよ」とセツコさんがマリさんをなぐさめました。
こんなやりとりを聞きながら、ナオコさんは持つべきものは何でも打ち明け合える同年代の友だちだと思いました。そして、更年期の女性がつらいのは体の不調だけでなく、自分ではどうしようもない状況を周りに理解してもらえないことだとも感じました。
更年期のこと、身近や親しい人には話したくない
日本世代間交流学会会長の草野篤子さん(白梅学園大学名誉教授)の研究グループが2006年に実施した「更年期症状と家族関係」のアンケート調査によると、妻の更年期症状を緩和させるのに「夫婦の会話」「夫との仲が良好」「病院受診を勧めた」という状況に有意差が見られ、更年期の妻に対する夫の理解や気遣いが有効であることが明らかになりました。また、夫だけでなく、更年期の母親の気分転換に付き合うなど、子どもが支えることも同様の効果が見られました。
こうした家族の支援を受け、この時期をうまく乗り切るためには、当事者となる女性が自分自身の更年期の症状をまず受け止め、家族に打ち明けて理解を求めることが必要だと草野さんたちは示唆しています。
「でもね、身近や親しい人には話したくないという人もいるみたいよ。うちの職場にもそういうタイプの女性が一人いるもの」とマリさん。
「私はナオちゃんがいうように同年代の友だちに共感してもらえると、つらいのは自分だけじゃないことが分かって、ずいぶん気持ちが楽になる。どうして話したくないのかしら」とユミさんが尋ねました。
「彼女によると、自分ができなくなったことを生き生きと続けている友人を見ると、余計に落ち込んでしまうらしいの」とマリさんは理由を教えてくれました。
「その気持ち、なんとなくわかるわ。自分だけが置いていかれるような寂しい気分になる。かといって、何かに取り組む気力はちっともわいてこないしね」とセツコさんはつぶやきました。
「でも、誰かに話して気持ちが楽になるのは大切なことね。こんな場合はどうすればいいのかしら」とナオコさんはみんなに問いかけました。
相談窓口を利用してアドバイスを受ける
国では、保健師などの医療スタッフが女性の健康や妊娠・出産に関する相談を受けたりアドバイスを行ったりする「性と健康の相談センター」事業を実施しています。都道府県、政令指定都市、中核市では保健所を中心に相談窓口を設置しています。例えば、東京都では「女性のための健康ホットライン」と呼ばれる専用ダイヤルを設け、平日10時~16時まで電話相談を受け付けています。また、メール相談もしています。この相談事業は東京都から委託を受けた事業者が実施しており、相談への対応は看護師などの専門職が行っています。
一方、公益社団法人「女性の健康とメノポーズ協会」でも、毎週火曜と木曜と土曜の週3回、電話相談を受け付けています。この電話相談では、同法人が認定する「女性の健康相談対話士」の資格を持つ相談員が相談者の話を傾聴し、一緒に対策を考えることを心がけているそうです。さらに、科学的根拠にもとづいた医療、運動、食事、ライフスタイルなどの情報を必要に応じて提供しています。
いずれにしても、相談する場合、事前に自分が聞きたいことのほか、更年期の経過や状況などをメモにまとめておくことをお勧めします。この作業をすることで、自分でも更年期の症状について整理することができ、相談する際に的確にアドバイスを受けることができます。
更年期の症状がつらいときはがまんしないで治療
「閉経をはさんだ前後10年が更年期といわれるけど、いったい私の更年期はいつまで続くのかしら」とユミさんがため息まじりにつぶやきました。すると、セツコさんがこんなことを言いました。
「女性ホルモン量を測ってみればいいのよ。閉経の時期も読めるらしいわよ」
「えっ、どこで検査できるの? どうやって測るの?」
3人は思わず身を乗り出しました。
女性ホルモン量の主な検査には、エストロゲン(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)、ゴナドトロピン(卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン)、プロラクチンなどがあります。このうち更年期に関係するホルモンはエストロゲンとゴナドトロピンです。これらのホルモン量から卵巣機能の状態と更年期や閉経の状況が推測できます。更年期障害の治療を行っている大学病院や総合病院の産婦人科、婦人科クリニックなどで検査が受けられます。
「私の知り合いは更年期の症状があまりにもひどくて受診した婦人科クリニックでエストロゲンの量を調べたらしいの。そしたら、エストロゲンの量がずいぶん減っていてホルモン補充療法を受けたそうよ」とセツコさん。
「ホルモン補充療法って足りなくなったエストロゲンの量をホルモン剤で補充する治療法でしょう? それで、どうなったの?」
「つらい症状が和らいだのですって!」
「えっー、本当? やっぱり更年期の症状がつらいときはがまんしないで治療を受けたほうがいいのかなあ」とナオコさんたちは口々に言い合いました。
「でも、ホルモン補充療法は乳がんや子宮体がんになるリスクもあるっていうじゃない? 治療を受けるのなら専門医にかかりたいわ。更年期障害の専門医っているのかしら」とマリさんがみんなに聞きました。
日本女性医学学会では「女性ヘルスケア専門医」として、更年期障害の治療などに詳しい医師を養成しています。同学会のホームページでは全国の専門医を検索することができます。また、同学会では日本産科婦人科学会と共同で『ホルモン補充療法ガイドライン』を作成しています。ホルモン補充療法を行う際は、このガイドラインにもとづいた治療を受けると安心です。
老年期を健康に過ごしていくためにも更年期のケアは大切
「更年期にきちんと向き合って体と心のケアをしておかないと、その後に訪れる老年期を健康に過ごせないともいわれているのよ」とセツコさん。それを聞いてナオコさんは「更年期は老年期の入口ってことか。そう考えると、女性の一生の中でも、この時期はいい加減に過ごしちゃいけないのね」とあらためて感じました。
「10年もある長い期間だもの、いろいろなサポートを積極的に利用して老年期に軟着陸できるよう、いい更年期を過ごそう」と4人は誓い合いました。
「ところでね、うちの主人が最近、顔がほてるし動悸がするって言うのよ。私の症状によく似ているから、あなたも更年期じゃないのってからかってやったわ」とユミさんが笑いながら言いました。「でも、男性の更年期障害って聞いたことあるわ」とマリさん。それを聞いてナオコさんとセツコさんは「男性の更年期?」と顔を見合わせました。
温泉宿の夜は深々とふけていきますが、ナオコさんたちの更年期談義は止まらなくなってきました。
- ナオコさんのポイントチェック
- 解決策①
更年期の症状を緩和させるために、夫の理解や気遣い、子どもの支えが有効であることが明らかになっています。更年期世代の女性は、自分の症状をまず受け止め、家族に打ち明けて理解を求めることが大切です。
解決策②
誰かに話すことで気持ちは楽になりますが、周りの人に更年期の悩みを話したくないときには、電話相談やメール相談を利用する方法もあります。都道府県や政令指定市や中核市では保健所を中心に電話相談窓口を設置し更年期の相談も受け付けています。また、民間の「女性の健康とメノポーズ協会」でも女性の健康相談のトレーニングを受けた相談員が対応しています。
解決策③
更年期の症状がつらくなり、日常生活に支障を来たす場合はがまんしないで女性医学の専門家に相談をしましょう。日本女性医学学会では「女性ヘルスケア専門医」を養成しており、同学会のホームページでは全国の専門医を検索することができます。
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おことわり
この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。
- 渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
- 愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
- 岩崎賢一(いわさき・けんいち)
- 埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。