影を潜めた朗らかさ 世話好きだった母を再びイキイキさせた納涼祭
タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。介護福祉士の資格を持つ駒村さん。実習を行っていた特別養護老人ホームで納涼祭を経験したときのお話です。
夏祭り
夏になると、母が通所しているデイサービスから夏祭りのお知らせをいただきます。その日の帰宅時の連絡帳にはお祭りの様子をプリントアウトしたものが挟んであって、母が楽しんでいる姿を見て、私は嬉しくなります。行事の写真が増えていくと、介護の年数が長くなってきた証でもあり、頑張って生きてくれていることが感慨深いです。同時に、様々な企画を立ててくださる職員の皆さんに感謝。普段の業務に加えて、イベント準備は大変です。
私は、介護福祉士の資格を取るために実習を行っていた特別養護老人ホームで、納涼祭を経験しています。ボランティアの方がたくさん手伝って下さって、地域のお祭りのような賑わいでした。
実習期間中のある日、私は昼休みに、休憩室として与えられた物置部屋の奥で、隅っこの壁にもたれて仮眠していました。すると、「駒村さん!」と実習指導者に起こされました。
「あっちの部屋、使ってもらっていいですから」
移動を促され、寝ぼけながら急いで移動しようとすると
「実はいま、『人が死んでる』って通報がありまして…」
「え!? 私のことですか??」
納涼祭の準備のため、物置部屋に入ったボランティアさんが、まさか奥に人がいると思わず、しかも動かないので、通報したようなのです。いっぺんに目が覚めました。
当時の私は、朝5:20〜8:00までの生放送を担当しており、放送後の反省会に顔を出した後、ダッシュで移動し、10時からの遅番に調整してもらって約8時間の実習。放送のない日は早い時間帯で実習に参加し、終わってからロケに出ることも。仕事と慣れない実習の両立に昼頃にはクタクタ。昼休みにしっかり休んで午後の実習に備えないと、集中力が落ちてミスに繋がると思い、努めて仮眠を取るようにしていたのです。熟睡していて人の気配に全く気がつきませんでした。驚かせてしまって本当に申し訳ない…。
実習先の納涼祭はとても賑やか。輪投げやヨーヨー釣り、焼きそばの屋台が並び、お神輿も出ます。朝、利用者さんに「15時にお神輿が来ますよ」と伝えると、途端に顔がほころび、待ち遠しい様子。単調になりがちなホームの生活の中で、季節の行事の持つ意味を強く感じました。
女性の利用者さんには、職員がお部屋を回ってメイクを施します。私も、利用者さんにチークやリップを塗っていくと、手鏡の中のご本人は本当に嬉しそう。一緒にお祭りを楽しもうと来所していたご家族も大変喜ばれて、メイク中のお母様をたくさん写真に収めていました。お祭りが始まる前からみんなウキウキ。誰もが心弾む様子を見て、しみじみ良いなと感じ、もし介護福祉士に合格したら、来年はボランティアとして参加しようと誓いました。
翌年。私は介護福祉士となり、ボランティアとして納涼祭に参加することに。その際、当時まだ要介護1だった母も一緒に参加しようと思い立ちました。
母は元来世話好きで、街で困っている人を見かけると、小走りで声をかけに行くような人でした。ところが、要介護がついてからは、私と一緒じゃないと進んで出かけなくなっていて、朗らかさが影を潜めていることが気になっていたのです。母の積極性を引き出すことも兼ねて、二人一組での参加にさせてもらいました。
母は、焼きそばを運んだり、ヨーヨー釣りや輪投げでは利用者さんの手を引いて促し、上手く出来た時は歓声と拍手を送り、一緒になって喜んでいました。利用者さんも嬉しそう。みんなが幸せな空間でした。
出来ないことが増えると自信がなくなります。でも、まだまだ出来ることはあって、その人らしさを保てるようにサポートさえすれば、本人も周りも楽しいと思える時間は作れるはずです。要介護がついても前を向けることを、再確認させてもらった納涼祭でした。