「明るい気持ちになる」をテーマに完成! 車椅子のオーダーメイド・後編
車椅子をオーダーメード・後編
オーダーメード車椅子の仮合わせの日。母は、待望の車椅子に窮屈そうに座っていました。医師や理学療法士さんは、コロナ禍で体重が増加したことに苦笑いしながら、母が腰かけている車椅子を一回りしてフィット具合をチェック。
「そうですねぇ。左のクッションを一旦取り外しましょうか。」
お尻とひじ掛け、背もたれの間に生まれる隙間を埋めるクッションを左右それぞれに作っていました。右側のクッションは、体が大きく右に傾くのを防ぐために必須なので、左を一旦外すことに。右のクッションも今後さらに太って入らなくなると困るので、マジックテープ方式にして取り外し可能にしました。
さらに医師から「胸ベルトをつけたほうがいいですね」という提案が。肩から胸にかけてベルトをつけることで、前に倒れるのを防ぐと同時に、脇からのベルトで、横への傾きも防げるとのこと。もし、右クッションを抜いたとしても、体幹保持の助けになります。
「あとは、これ以上太らないように…」笑みを浮かべながらの助言を受け、仮合わせは終了しました。
実は、我が家は賃貸マンション。間口が狭く、コンパクトな車椅子じゃないと部屋に入れないという事情がありました。仮合わせ前に福祉用具製作業者の方に家を見てもらったところ、理想を詰め込んだ最初の設計図で作ると、トイレに行く際、カーブを曲がり切れないことが分かったのです。そこで、後輪を小さくし、リクライニングの角度は180度を130度までに妥協。肘掛けは、便利な跳ね上げ式から引き抜くタイプに変更し、フットレストも、ワンタッチの前開きをあきらめて着脱式に。図面を何度か引き直してもらい、多少不便にはなるものの、欲しい機能は全て残しつつ、前後の長さを9cm、幅も12cm狭くすることに成功したのです。脳漿(のうしょう)を絞って作られたオーダーメードの結晶。絶対に太れません。
最後はデザイン。車椅子のパーツは黒いプラスティック部分以外、色を選ぶことが出来ました。既製の車椅子は地味な色が多いので、母の好きな明るい色を選べるのは嬉しいのですが、パイプ、肘掛け、サイドガード、座面、背もたれ、クッション…自由なだけに決められない!やり直しがきかないので仕事仲間にも相談した結果、テーマを「乗っていて明るい気持ちになるもの」に決め、パイプは、優しい黄色の卵色。サイドガードは「マスキングテープで後にカスタマイズできるように無地がいいかも」という手芸番組も担当するスタッフの助言から無地の白に。肘掛けと、座布団で大半が隠れる座面は、差し色としてビビットなピンクにしました。クッションは、これまでの車椅子で使っていた水玉模様を踏襲した上で、色をシートの紺と同系色の水色に。ヘッドレストも水玉模様で揃え、色は明るい桜色に。胸ベルトも桜色にして統一感をもたせました。
いよいよ搬入の日。病院のリハビリ科に到着した私はギョッとしました。遠くの壁際に、ひときわ目を引く派手な車椅子が鎮座しています。
担当の理学療法士さんからは「あの車椅子、どの子のかなと思ったら、お母様のでした」
はい、83歳(当時)の母が乗る車椅子です。明るい気持ちにというテーマにはのっとっていますが、胸べルトが思っていたよりずっと太く、ヘッドレストも大きく、ピンクの存在感がすごい…。想像と随分違う、メルヘンな車椅子に仕上がっていました。
ただ、座ってみると、皆さん一様に「可愛い!」。体にぴったりで良かったのですが、それを上回る見た目への反応。相談した職場の人々も、母のサービスに入って下さる皆さんも、最初は驚いたものの、「もうこれじゃないとお母様の車椅子はダメな感じがします」と。
着こなす、ならぬ、見事に乗りこなしてくれた母。流石です!
後日談につづく