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アラフィフ・ナオコさんのあるある日記

認知症の人の見守り 家族にできること 【アラフィフ・ナオコさんのあるある日記~伯母さんが認知症編(14)】

軽度の認知症の伯母ヨシエさん(83)の親族としてサポートを続けてきた姪のナオコさん(53)が、ネットサーフィンをしていると気になる記事が目に飛び込んできました。認知症の夫を家に残して妻が出かけた間に火事が起き、燃え移った隣家の住人から裁判で賠償を求められたという記事です。ナオコさんは、高裁で和解が成立した記事も読みましたが、「伯母さんが一人で部屋にいるときに火災を出してしまったら……」と自分事として考えると急に不安になりました。このようなトラブルを避けるためには、どのような対策があるのでしょうか?

判断能力が低下している人の見守り…家に閉じ込めておくわけにはいかない

「ねえねえ、あなた。伯母さんにもこういう心配はあるわよね」

ナオコさんは、リビングでくつろいでいる夫のマサオさん(56)にタブレットの画面を見せながら尋ねました。

マサオさんは記事を読み終えるとこう漏らしました。

「そうだなあ……。伯母さん、僕の前ではしっかりしていた感じだったから、これまであまり考えたこともなかったけど。家族にしてみれば足もとをすくわれるような心境だろうなあ。認知症の人が一人歩きしている途中に間違って線路に入って事故になり、鉄道会社から遺族が損害賠償を求められたっていうニュースもあったよね。うちも他人事じゃないぞ」

マサオさんため息をつきました。

「判断能力が低下している人に見守りが必要なことは家族も分かっているけど、四六時中付き添っているわけにもいかないわよね」

「そりゃ、そうだよ。家族だけで見守るのは限界があるよ。こういうトラブルをどうしても避けたいのならヘルパーさんに来てもらって交代で付き添うしか方法はないだろう。ここで介護保険を使うんだよ」

「でもね」

ナオコさんは、マサオさんの提案を遮ってこう話しました。

「以前、ケアマネジャーさんに言われたことがある。伯母様、一人暮らしが幸いしましたねって」

「それ、どういう意味だよ」

マサオさんは身を乗り出してきました。

一人暮らしをしていた伯母さんは判断能力が徐々に低下していたので、見守りも必要ということになりました。そこで、ケアプランを作成する際、ナオコさんはケアマネジャーと相談して毎日訪問介護を入れることにしたのです。そのとき、ケアマネジャーに打ち明けられたのは「家族が同居している場合、サポートをする人がいるとみなされて訪問介護を入れるのが難しい」ということでした。

「なんだよ、それ」

マサオさんはとても驚きました。

認知症の人による事故…保険商品が広がり公費で保険料負担広がる

「それでも家族が働きに出かけて昼間は1人という家庭なら何とか入れられるって。問題は老いた配偶者が介護している老老介護よ。その人が介護保険の認定を受けていなければ訪問介護を入れるのは難しいみたいよ」

「じゃ、そういう家庭はどうすればいいんだよ。自分たちで何もかも頑張って看なくちゃいけないのか!」

マサオさんは、だんだん憤ってきました。

「怒らないで聞いてよ。私も同じ質問をしたけど、そういう場合はデイサービスを活用するそうよ。ただ、デイサービスを入れる場合は本人が行きたがらないこともあるから、その人に合うデイサービスを見つけるのが大変らしいけど……。それは、うちも同じだったわよね」

不慮の事故や事件に巻き込まれないためにも認知症の人を見守ることが必要ですが、ナオコさんやマサオさんが言うように家族だけでは限界があります。ケアマネジャーとよく相談して、その家庭の状況に応じた介護保険サービスを利用し、足りない場合は介護保険外のサービスも使い、できるだけ認知症の人が一人きりにならないよう工夫することが大切です。

マサオさんが懸念していた認知症の人が鉄道事故に遭遇し、鉄道会社から遺族に高額な賠償を求められるケースですが、よく調べると状況は変わってきています。2007年12月に認知症の高齢者(当時91)が電車にはねられて亡くなり、遺族が鉄道会社から高額な損害賠償を請求された訴訟は、最高裁判決で遺族が逆転勝訴しました。介護する家族に賠償責任があるかは、生活状況などを総合的に考慮して決めるべきだとする初めての判断を示しました。そのうえで今回は、妻と長男は監督義務者にあたらず賠償責任はないと結論づけています。

参考記事

●「認知症JR事故、家族に監督義務なし 最高裁で逆転判決」

この最高裁判決後、認知症の人による事故などの保険商品が広がり、公費で保険料負担する自治体が増えていきました。

自衛の策…自宅も施設も同じようにリスクヘッジする工夫をしよう

「伯母さんがサ高住(サービス付き高齢者住宅)に入居しても、自宅にいたときと同じように介護サービスが受けられるのは安心だけど、それでも一人きりになる時間帯があるわよね。どうする?」

「サ高住には見守りサービスが必ず付いているのだろう。伯母さんを一人暮らしにさせるより安心だよ」

「でも、大勢のお年寄りが住んでいるのよ。伯母さんの行動に職員の目が行き届かないことだってあると思うし。だとしても仕方がないわよね」

ナオコさんやマサオさんの不安は尽きません。

このような場合、家族がとれる行動としては、まず、気がかりなことや不安に思っていることを施設長に伝え、しっかりと見守ってもらえるようにお願いすることです。施設側と話し合いの場を持つことによって、気がかりな行動への対策も生まれてくるでしょう。

さらに火災が心配なら個室内にマッチやライターなどを置かない、転倒が不安なら転倒予防グッズを活用する、転落が怖いなら窓が簡単に開かないようにストッパーをつける、薬の副作用によるふらつきが転倒・転落の原因になることもあるので薬剤の管理で工夫をするといった自衛の策を講じることも必要です。これは自宅で暮らしている場合も同じです。

「そうか。こういう自衛の策を考えるときは、判断力がない小さな子どもがいると思えばいいんだ。いろいろな工夫が思い浮かぶぞ。娘たちが小さい頃は、家の中でけがをしないように気遣ったものだよな」

マサオさんはナオコさんに同意を求めました。

「お年寄りと小さな子どもはちょっと違うと思うけど、応用はできそうね」

参考情報

●一般社団法人日本転倒予防学会推奨品

家族介護…共倒れになる前に「助けて」と声をあげよう

「いろいろなサービスを利用しても自宅での介護が不安ということになれば、認知症対応型のグループホームなどの施設に預けるしかないのかしら?」

「そうだな……。同僚の田舎のおふくろさんが認知症になって一人暮らしを続けていたけど、病気が進行してケアマネジャーから施設への入所を勧められたらしいよ。だけど、おふくろさんの年金だけじゃ施設の費用を払えないから在宅サービスを続けてくれと頼んだら」

「そのまま続けてくれたの?」

「うーん、それがね。続けられるのは続けられるけど、何が起こっても仕方のない病状ですから、それは理解しておいてくださいね、とやんわり言われたらしい。それで何かあっても困るからと3人兄弟が5万円ずつ費用を出し合って、グループホームへの入所をお願いしたって聞いた。老いた親の面倒をみたくないわけじゃないけど、子どもの教育費も一番お金がかかるときだし、住宅ローンもあるし、本当に大変だよ」

ナオコさんとマサオさんは、だんだん無口になっていきました。

介護保険制度を中心に認知症の人と家族をサポートする仕組みはありますが、家族介護に依存することも多いのがこの国の現状です。また、近年はできるだけ住み慣れた場所で過ごす在宅介護が推奨されてきています。

しかし、家族だけで支えきれないと判断したときは共倒れになる前に「助けて」と声をあげましょう。そこは、どうか迷わないでください。ケアマネジャーや介護の現場で働いているホームヘルパー、デイサービス職員、訪問看護師、在宅医といった医療・介護・福祉の関係者、そして地域包括支援センター、社会福祉協議会、自治体の職員、民生委員、介護ボランティアなど地域の人も必ず手を差し延べてくれるはずです。

認知症の伯母さんには、これからも新たな問題が起こってくるでしょう。でも、ナオコさんも一人で抱え込まず、専門家の力を借りて伯母さんを見守っていこうと決めました。

認知症の話題はこれで終了します。次の話題は、更年期を取り上げます。次回の記事の公開のお知らせ等は、この連載記事を掲載している「project50s」のLINE公式アカウントで「お友だち」になると公開メッセージなどが届きます。末尾のバナーリンクから「project50s LINE公式アカウント」(@project50s)にお進みください。

ナオコさんのポイントチェック
解決策①
自宅で介護する場合、判断力の低下による不慮の事故などに巻き込まれないための工夫についてもケアマネジャーとよく相談しておくといいでしょう。できるだけ認知症の人が一人きりにならないよう必要に応じて介護保険外のサービスも組み合わせていきましょう。

解決策②
高齢者施設などに入居している場合は、気がかりなことや不安に思っていることを施設長に伝えてしっかりと見守ってもらえるようにお願いしましょう。また、火災や転倒・転落事故などを起こさないように自衛の策もきちんと講じましょう。

解決策③
家族だけで支えきれないと判断したときは共倒れになる前に「助けて」と声をあげましょう。介護保険を利用している場合はケアマネジャーに、利用していない場合は地域包括支援センター、社会福祉協議会、役所の高齢福祉課などの担当窓口にまず相談をしましょう。

おことわり

この連載は、架空の家族を設定し、身近に起こりうる医療や介護にまつわる悩みの対処法を、家族の視点を重視したストーリー風の記事にすることで、制度を読みやすく紹介したものです。

渡辺千鶴(わたなべ・ちづる)
愛媛県生まれ。医療系出版社を経て、1996年よりフリーランスの医療ライター。著書に『発症から看取りまで認知症ケアがわかる本』(洋泉社)などがあるほか、共著に『日本全国病院<実力度>ランキング』(宝島社)、『がん―命を託せる名医』(世界文化社)がある。東京大学医療政策人材養成講座1期生。総合女性誌『家庭画報』の医学ページを担当し、『長谷川父子が語る認知症の向き合い方・寄り添い方』などを企画執筆したほか、現在は『がんまるごと大百科』を連載中。
岩崎賢一(いわさき・けんいち)
埼玉県生まれ。朝日新聞社入社後、くらし編集部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部、オピニオン編集部などで主に医療や介護の政策と現場をつなぐ記事を執筆。医療系サイト『アピタル』やオピニオンサイト『論座』、バーティカルメディア『telling.』や『なかまぁる』で編集者。現在は、アラフィフから50代をメインターゲットにしたコンテンツ&セミナーをプロデュースする『project50s』を担当。シニア事業部のメディアプランナー。

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