試乗で大ピンチ!母仕様のデモ機が完成 車椅子のオーダーメイド・中編
タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。嚥下障害をもつ母親。食事の工夫だけでは限界に近くなっていたため、飲み込みをアシストするために、車いすをオーダーメイドすることになったときのお話です。
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車椅子をオーダーメイド・中編
車いすをオーダーメイドすることを決めた私たち親子。装具外来で、医師、理学療法士、福祉用具製作会社の担当者と意見を出し合いました。レンタルと違って、使ってみて「やっぱりこっち」というような変更は出来ません。現在レンタルしている既製品の車いすを基本に、どのような装備を加えればよいか考えました。
嚥下の先生からの助言通り、ティルト式に加えてリクライニングが出来るというのが必須条件。そして、一番重要なのは、首を固定するためのヘッドレスト。今までは、右に傾いてヘッドレストから頭が大きくはみ出していましたが、母の頭囲と首回りを採寸し、スポンジを切り出してすっぽりはまるように作ります。
体の傾きに対しては、これまでもオーダーメイドクッションを左右の腰に入れていましたが、右への傾きが強くなったことでこれまでより高くする必要があるという意見が。背もたれと一体型にして、わきの下から腰まで支えるようにしました。逆に左方向への傾きは大きくないので、左クッションは隙間を埋めるくらいの小さめで作ることに。
車いす自体の高さも変更しました。既製の車いすに体圧分散クッションを敷くと、背の低い母にとっては少し座面が高かったのです。移乗するときにお尻を奥まで入れようとすると、しっかり持ち上げないとなりません。車いす全体の高さを数センチ下げると持ち上げる高さも少し低くなるので、ほんの数センチのことですが、介助者の腰への負担が減ります。
次に、背もたれの高さ。食事のときは、緊張を緩和することで嚥下しやすくなるため、身体と車いすの間にバスタオルを詰めて隙間を作らないようにして補正します。肩、首、足…全体に隙間を作らないことがポイントになるのですが、円背が進んだ母は、背もたれと丸まった背中の隙間が大きくなっており、そこをタオルで埋めるにも、今使っている既製の車いすだと背もたれが肩までないので、肩付近がスカスカになっていました。肩まで背もたれがあるタイプの車いすも存在しますが、今使用しているものより二回りくらい大きくなり、狭い我が家には入りません。コンパクトなのはそのままに、背もたれだけを一回り大きくしたものを発注しました。
足の補正は、ふくらはぎの後ろにクッションを入れて隙間を埋めているのですが、今使っている車いすのレッグサポートはペラペラした布で、支えるには心許ないものでした。これを硬めの素材に変更。
他には、いつも入って下さるヘルパーの皆さんが、移乗のときにフットレストとひじ掛けを外しているようなので、着脱式の機能はそのまま踏襲したい旨伝えました。
話し合ったことを踏まえて図面を引いてもらい、車いすのデモ機が出来上がったら仮合わせ。再び装具外来に担当者が集合し、みんなでチェックです。
が、コロナ禍で一時計画が中断したりして、仮合わせに至ったのは、最初の話し合いから約一年半が経った頃でした。
いよいよ完成間近の車いすとご対面。いざ座ってみると、
「あらー、随分太っちゃいましたね…」
その場にいた全員が口をあんぐり。腰回りの厚みが増して、明らかにギューギュー。無理やり椅子にお尻が押し込められています。教授も、教授の周りを囲む専門医の皆さんも理学療法士さんも福祉用具業者さんも、全員が苦笑いで困惑しています。
母は3キロ近く太っていました。
「このお年で太るなんて、お元気な証拠なんですけどね…」
理学療法士さんの慰めの言葉もむなしく響きます。母にぴったりの車いすを発注したはずが、ここにきて、「母が車いすに入らない」というピンチが訪れたのです。
後編に続く