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コマタエの 仕事も介護もなんとかならないかな?

母が食事を口から食べ続けるために 車椅子をオーダーメイド・前編

駒村多恵さん

タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。嚥下障害をもつ母親の飲み込み機能をアシストするために、車椅子をオーダーメイドすることになったときのお話です。

車椅子をオーダーメイド・前編

「車椅子のオーダーメイドを考えてみるのはいかがですか?」
訪問で来てくださる嚥下リハビリテーション外来の先生方から提案を受けました。嚥下障害ではあっても、さまざまな工夫で常食に近いものを食べられていた母ですが、いくら抗っても衰えは着実に進み、食事の工夫だけでは限界が近くなっていました。それを見越して、飲み込みをアシストするためのひとつの方法として提案して下さったのです。

母の車椅子は、腰を支点に座面ごと後ろに倒れるティルト機能のあるもの。体幹がぐらついて前のめりになるのを防ぐため、座面ごと後ろに倒しておく必要があったからです。これまではそれで十分だったのですが、先生は、それに加えて、リクライニング機能があった方がよいという判断。同じ後ろに倒れる構造でもティルトとリクライニングは似て非なるもので、ティルトは座面ごと後ろに倒れますが、リクライニングの場合は背中部分を後ろに倒しても足は上がらず、座面は動きません。嚥下障害が進み、食べ物を喉へ送り込むのが難しくなると。30度くらいリクライニングすることによって、重力の助けで送り込みやすくなりますが、座面ごと倒れてしまうと90度をキープしたまま倒れるので、背中を30度倒す姿勢を作れません。たった30度ですが、この角度を作るのが大切とのことでした。

ティルト式車椅子は、背もたれを後ろに倒すと座面も後ろに傾き、背もたれだけを倒すことはできません
ティルト式車椅子は、背もたれを後ろに倒すと座面も後ろに傾き、背もたれだけを倒すことはできません

更に、首を正しい位置で固定する必要もあると言われました。母の場合は首が右に傾きやすく、車椅子のヘッドレストの位置を傾きに合わせて右にずらして使っていたのですが、それにも限界があり、ヘッドレストからはみ出ることが増えていました。食べ物を飲み込む時の姿勢の影響は大きく、総合的な判断からのオーダーメイド提案でした。

ヘッドレストは右側に寄せて固定して使っていました
ヘッドレストは右側に寄せて固定して使っていました

私は驚きました。オーダーメイドなんて、パラリンピック選手のような特別な装備が必要な人が注文するもので、競技に出ない、「疾患」の人がオーダーしてもよいものかと。また、車椅子はレンタルするものと思い込んでいたところがあったので、購入、しかもオーダーメイドとなると、金銭的な負担が大きくなるのではという不安もよぎりました。

すると、先生は「お母様は障害者手帳をお持ちで、既製の車椅子で対応が難しい場合、医師の意見書があれば車椅子を購入する際に補助を受けられるんです。おそらく該当するため、リハビリ科の先生に意見書の相談をしてみたらいかがですか?」と。
障害者総合支援法に基づいて市町村が行う補装具費支給制度(※)があって、その支給対象の補装具には、車椅子が含まれるのだそうです。

※補装具費支給制度の概要(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/yogu/aiyo.html

そんな制度があるとは!

口から食べられる期間が長くなり、母が少しでも楽に過ごせるなら嬉しいことです。が、そう思う一方で、これはつまり、客観的に誰が見ても完治する見込みがないから補助をしていただけるということ。それは、もう治らない烙印のようでもあり、有難い反面、絶望的な悲しみも湧いてきました。

色々調べてみると、この制度を利用するには、購入してから事後報告というわけにはいかず、まず自治体に申請し、その上で意見書を作成できる指定医に意見書を書いていただく必要がありました。そのため装具外来の専門医のいるリハビリ科の予約を取ったのですが、そこへコロナの波がやってきて、外出を控える状況に。世の中が落ち着くまでしばらく受診を控えていたところ、年度をまたいでしまい、また自治体に申請するところからリスタート。最初に助言いただいてから一年以上が経ってしまいました。ここから更に、見積り、写真や書類の提出、審査と、様々な段階を経て許可を得るため、実際に車椅子が家に届くまで相当な時間を要することに。その間、母の嚥下機能はどこまで保てるか。母よ、もう少し頑張っておくれ!

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