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幸せケアプラン

\新連載/介護生活をもっとポジティブに! 幸せケアプランの作り方

幸せケアプラン「居宅サービス計画書」

公的な介護サービスを利用する際に欠かせない「ケアプラン」。けれど、どのようなことが記されているのか、どんな目的があるのか、案外、知らないのではないでしょうか。ケアタウン総合研究所代表で、ケアプラン評論家の高室成幸(しげゆき)さんが、「幸せケアプラン」づくりを指南します。

みなさんは、介護現場で「なに」をもとに介護サービスが提供されているか、想像されたことはありますか?正直、この質問自体に違和感を抱かれる方も多いでしょう。

では質問を変えますね。
介護サービスには訪問介護やデイサービス(通所介護)、ショートステイ(短期入所生活介護)、福祉用具の利用などいろんな種類があります。施設ならば介護職員(介護スタッフ)たちによる食事介助や排泄(はいせつ)介助、入浴介助などがあります。
どの介護サービスも単独ではなくケアチームで動いて行いますが、その大元となっている「モノ」はなんだと思われますか?

「マニュアル」と回答された方は60点です。マニュアルは手順書です。どの人に対しても入浴介護ならば、「まず衣服を脱がせる」などの手順が細かく書かれています。
ここには個別性はコレっぽっちもありません。

では、その「モノ」とは何でしょう?
ピンとくる方はかなり介護保険のことを調べられている方ですね。

答えは「ケアプラン」です。
正式には、在宅の場合は「居宅サービス計画書」と言います。施設ならば「施設サービス計画書」となります。利用者や家族が目にするのは「第1、2、3表」でしょう。

ケアプランに書かれていることとは

このケアプランにはなにが書かれているでしょうか?
単純に「どのような介護をするのか」が書かれていると、一般的には思われているかもしれません。もちろんそのような欄はあります。

でも、驚くことに「どのような生活をしたいのか」というご本人の意向を書く欄があるんです。そして、ご家族が配偶者や親にどのような生活をしてもらいたいのか、といった家族の意向を表記する欄まであるんです。
びっくりしませんか?

「居宅サービス計画書」の第1表の例。要介護状態区分、要介護1、要介護2、要介護3、要介護4、要介護5。利用者及び家族の生活に対する意向を踏まえた課題分析の結果。介護認定審査会の意見及びサービスの種類の指定。総合的な援助の方針
「居宅サービス計画書」の第1表の例

さらに、利用者ご本人とご家族の意向を踏まえて、ではどのような支援ができるのかを担当のケアマネジャーが分析した結果を表記する欄まであるのです。

つまり、一方的なケアの提供を受けるだけではないんですよね。利用者とご家族の「意向」(望む生活)を文字化して「表記するコーナー」があるわけなんです。表記された文字は、訪問介護、通所介護、短期入所生活介護や福祉用具の利用といった具体的な介護サービスに変換され、「個別介護計画書」に記載されます。

このような流れでケアチームにご本人やご家族の意向が共有されることになります。
スゴイと思われませんか?みなさんの意向がケアチームの動きに反映されるわけですから、ね。

本人や家族の意向は反映されていますか?

でもここからが問題なのです。
その意向欄があるのはケアプラン第1表ですが、その文章は、利用者ご本人の意向やご家族の意向、つまり、ご自分たちの「声」を正確に反映した内容になっているでしょうか?

ご本人やご家族の意向の記入例。本人及び家族の生活への意向を踏まえた課題分析の結果「本人:病気の影響で出来ない事もあるが、サービスを利用しながら夫と2人自宅で生活し続けたい。今の状態をなるべく維持して、少しでも自分のことを自分でできるようになれればうれしい。家族:私も体調が悪くできない事も多い。サービスを利用し、在宅生活を継続したい。課題分析の結果:上記のご本人及び家族の意向を踏まえ、在宅での生活を継続するためには、転倒や転落による事故の危険性を回避する必要がある。運動機能の向上を図りできることを増やすとともに、安全に生活できる環境整備を行っていく。
ご本人やご家族の意向の記入例

ご本人の意向で「よくある記載例」です。
「家族に迷惑をかけて申し訳ない」
「○○ができなくて情けない。早くお迎えがきてほしい」
「気分の落ち込みがあり、なにごとにもやる気が起きない」

ご家族の意向で「よくある記載例」です。
「いつまでも元気で自宅で暮らしてほしい」
「日中は仕事があり、デイサービスに週3回は行ってもらわないと困る」
「服薬管理をしっかり行い、体調悪化を予防し日々を過ごしてほしい」

どうでしょう?
これって「意向」だと思われますか?
どうみても、ご本人のおわびの言葉や後悔や悩みの言葉ではありませんか?
ご家族の言葉は、抽象的な願いや要望になっていませんか?

こんな言葉のオンパレードでは、なかなか介護現場もポジティブになれません。困りごとや悩みごとのフォローに意識が向いてしまい、ご本人やご家族が数カ月後~1年後になっていたい「望む生活」を読み取ることはできません。

これからはじまる連載「幸せケアプラン」では、ご本人やご家族のポジティブな思いをどうやったらケアプランに反映させることができるか。どのような幸せケアプランがあるのか。どのように工夫すれば幸せケアプランになるのか、をみなさんにお伝えしていきたいと思っています。

納得できないならば、書き直しも可能

意向=望む生活「うーん、わかりにくいなぁ・・・」「あれ?言ったこととちがうわ・・・」「書き直しも可能ですよ(素直な反応ですね〜)」

医師は患者からの申し出があった場合に診断書の交付を断ることはできません。一方、患者が自分の都合や意見を述べたり、加筆・修正を求めたりすることはできないこととされています(医師法第19条第2項)。

しかしケアプランは違います。
ケアマネジャーが作成するケアプランはあくまで「原案」。意向欄に書かれている表記が「自分が話した内容とちがう」「書いてある内容がわかりにくい」「意図した内容でない」なら、その旨を申し入れ、書き直してもらうことも可能なのです。

ついつい“形通り”になりがちなケアプランをみなさんの「幸せ」を可能にするケアプランにするにはどうすればいいか。
その知恵と工夫をお伝えしていきたいと思います。

なお、「なかまぁる」は認知症の専門サイトですが、この連載は認知症の人のケアプランに限定していません。ただ認知症の場合こそ、ご本人の意向や好き嫌い&本人が望む(であろう)暮らしを具体的かつ個別的に表記していくことが大切であると思っていただける連載になるように心がけます。ご期待ください。

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