玄関の前でカギの束を手に右往左往 落ち込む私を救った息子のひと工夫
《介護福祉士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
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帰宅して、かばんをさぐり、
ようやく家のカギを見つけたのに。
あれ?カギがカギ穴に入らない。
入ってもうまく回せず、解錠できない。
そんなことを玄関前でごちゃごちゃとしていたら、
中からドアが開き、ほっとした。
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今日は息子がいたからよかったけれど、
最近、玄関でこんなことばかり。
きっと認知症が進んだんだわ。
家族に迷惑をかけたら大変。
ひとりで外に行くのは控えよう。
そんな私とカギの束を交互に見て、息子は言った。
「母さんあきらめるのは、まだまだ早いよ」
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なくさないようにと、各所のカギも
キーホルダーもつけていた、カギの束。
「今は、こうする方が大事」と
息子は、家のカギと鈴だけにした。
カギの束から、1本を探す手間が省けたら、
自分で玄関を開けられることが増えた。
息子とふたり、私は微調整をしながら行ったり来たり。
日々を暮らしてゆく。
認知症がある人が、生活でつまずかれた時、
「それをすれば、解決。もう安心」という万能な方法は、
なかなかないもんだなと思います。
なぜなら、認知症の症状はさまざまで、
どこにストレスを感じて、動作を難しくしているのかは、人それぞれだからです。
例えば、今回のように「いくつかの物の中から、ひとつを探す」という動作が、
どれだけご本人の負担になっているかを、周りは思っている以上に察しづらいもの。
あるいは、ご本人も「前はできていたから」とそのつまずきに気づきづらく、
問題解決を難しくさせているかもしれません。
だからできればご本人と、その傍らにいる人が、
問題には関係ないような日常のなかで、つまずきにつながるかもしれない原因を、
共に探してゆければと思うのです。
外出できなくなっている人が、
靴を変えたり、
違う順路を使ったり、
カギを首から下げるタイプにしたら、
それまでと同じように外出ができるようになった、というのは、
今まで私の周りであった話です。
ただ、その微調整は、ひとりではなかなか難しく、
ご家族や訪問介護ヘルパーなど、ご本人の近くにいる人が提案し、改善した経緯がありました。
そして、その微調整は、まさに、
トライ&エラーの繰り返しでした。
ですから余計に、頑張るご本人のそばで励ましあい、
見守る人の必要性を実感しています。
各地には認知症があっても、年齢を重ねながら、ご自身のペースで過ごされている方々がいらっしゃいます。
その方々のそばにはきっと、このマイペースを支える、
「隣の人」の存在があるのだろうと思います。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
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