健康寿命を延ばす効果も!閉じこもりがちだった母を元気にした思い出の場所
タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。音楽とともに過ごしてきた駒村家。声を出すことが少なくなった母を家族の思い出が詰まったカラオケボックスに連れ出したときのお話です。
声を鍛える
「ママは、声がエエねん!」
父は、よく母の声を褒めていました。
そして、「お前の声はママに似てエエんや。」
そう言って、私の声も褒めてくれました。
父は音楽が大好きで、ピアノの弾き語りが趣味。「芸事は毎日練習せなあかん」と言って、毎日欠かさず練習していました。お陰で物心つく前から私の周りには常に音楽があり、私は歌を仕込まれました。幼稚園の頃は、家にあった8トラカセットのカラオケで。小中学生になると、週末にカラオケ喫茶で。ミラーボールの下、ちょっとしたステージに上がり、お客さんの前で歌いました。歌うと褒められ、それが今の仕事の原点とも言えます。父も弾き語りで練習の成果を披露。母は人前で歌うことを恥ずかしがって、いつも聴き役。ホットウーロン茶をすすりながら、ニコニコ手を叩いていました。カラオケは毎週末の家族行事みたいなもので、家族で過ごす楽しいひと時でもありました。
父が他界してからは、私が母をカラオケボックスに連れ出すようになりました。その頃の母は、私が仕事に出かけると日中独居。家からあまり出なかったので声を出すことが格段に減っていました。また、父に加えて祖母も他界。立て続けに心の拠り所となる人を失ったことで気落ちし、何となく小さくなったようでした。物理的に声を出す機会を作った方がよいと思ったのと、家族の楽しい記憶のある場所に出かけるのは精神的に良いだろうとの、両方の思いからでした。
結果的に、この作戦は有効だったようです。
先日、私が出演しているNHKあさイチで、「舌&のどを鍛えて若返り」という特集を放送しました。コロナ以降マスク生活で声の不調を訴える人が増えた原因の一つが、しゃべる機会が減ったこと。今こそ喉を鍛えようという企画でした。
声を出さないと声帯周りの筋肉が衰え、掠れたり、声が出なくなってきます。実は、その影響は声だけにとどまらず、ペットボトルのふたが開けられない、小さな段差で躓くというような運動能力にもかかわるそうなのです。
そもそも声は、筋肉を使って声帯がピタッと閉じることによって出ます。筋肉の力でしっかり閉じられると、肺をパンパンに膨らますことが出来、体が安定し、瞬発的に大きな力を出せるそうなのです。ところが、衰えると声帯から空気が漏れ、踏ん張れず、転倒リスクも上がるというのです。
喉の筋肉は何歳からでも鍛えることができるので、衰えたとしても遅すぎることはないとのこと。おすすめなのが、歌うことでした。
私は自分自身を褒めたくなりました。あの時母を見て何となく弱ってきたと感じていたのは、あながち間違っていなかったと。そして、歌うことで母の健康寿命を延ばしていたかもしれないと。私ってエライ!
カラオケボックスでは、私と二人きりなので、母はのびのびと歌っていました。特に同世代のスター美空ひばりさんの歌は、家から小学校まで二里の山道を歩くとき、毎日のように口ずさんでいたそうで、「越後獅子」や「悲しき口笛」など、ひばりさんの初期の歌を好んで歌っていました。「ひばりちゃんの野外コンサートにおじいちゃんが連れて行ってくれたんやけどな、人がいっぱいで、ひばりちゃん、こんな小ちゃかったわ!」と、親指と人差し指の先が触れるか触れないかのジェスチャーでサイズ感を示し、祖父との思い出も教えてくれました。歌っていくうちに少しずつ声も出て、コロコロした高い声でこぶしを回し、元気を取り戻していました。
病状が進み、今はそうもいかなくなってしまいましたが、カラオケはいつの時代も私達にとって楽しい思い出。きっと、この先もずっと。歌うたびに私は幸せな気持ちになるでしょう。母譲りの声に感謝しながら。