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コマタエの 仕事も介護もなんとかならないかな?

ゴールは「こころの風景」 リアルな旅は難しくとも 全国各地へ思い出旅

駒村多恵さん

タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。今回は、駒村さんがかつて母親とよく訪れていた片道8時間かかる母方の田舎へ、こころの旅に出かけるお話です。

こころ旅

先日、火野正平さんのライブに伺いました。普段、ヘルパーさんに母をお願いする時間に制限があるので、夜の外出は極力控えています。しかし、正平さんは私が朗読をしているNHK-BSプレミアム「にっぽん縦断こころ旅」の旅人。番組が始まった当初、「駒村、俳優部は俺と二人や。頑張ろう!」そう言っていただいてから干支もひとまわり、その間、コロナ禍で放送が休止になった時は、先行き不安になっているであろう私を心配して「大丈夫か?」とお電話を頂戴しました。
介護サービス各所に調整をお願いし、チームこころ旅の一員として伺ったライブ。正平さんにしか出せない雰囲気と優しさが滲み出る歌と、放送にはとてものせられない昭和のモテ男トークを堪能させていただきました。

番組はこの春、13年目に突入。ご好評いただいており、自分が携わっているのに言うのもなんですが、とてもいい番組です!

「にっぽん縦断こころ旅」では月朝の朗読と共にリクエストアワーも担当しています。視聴者の皆さんから寄せられた、もう一度見たい名場面をスタジオで紹介しています
「にっぽん縦断こころ旅」では月朝の朗読と共にリクエストアワーも担当しています。視聴者の皆さんから寄せられた、もう一度見たい名場面をスタジオで紹介しています

視聴者の方にお寄せいただいたお手紙の中の「こころの風景」が旅のゴール。観光地ではなく、例えば「学校の前の坂道」など、極めてパーソナルな、その方だけの思い出が詰まった場所です。正平さんとスタッフが自転車でこころの風景を目指すのですが、旅の途中に出会う方々も魅力的だし、ご当地の食べ物も美味しそう!まあまあ平均年齢が高めになってきたチームこころ旅スタッフと正平さんのわちゃわちゃした感じ、ついニヤついてしまいます。朗読収録するためにブースの中でVTRを見ていても、つい笑ってしまって、VTR終わりですぐ読み出さなければいけないのに、切り替えるのが大変なことも。

こころ旅の朗読現場
こころ旅の朗読現場

私が担当しているのは月曜朝版。火曜から放送される一週間の旅のダイジェストと、正平さんが訪ねられなかったこころの風景を、ご家族の写真なども交えてお手紙で紹介しているのですが、月朝は、闘病生活を送っている方、あるいは闘病を支えているご家族のお手紙がとても多いです。心情に共感することが多く、初見で下読みしていると自然と涙があふれて、毎回のように途中で読めなくなってしまいます。なので、涙は下読みの段階で全部流してしまってから収録に臨みます。さじ加減は永遠の課題ですが、感情に流され過ぎると朗読としてはtoo much。お手紙の主の気持ちに寄り添いながらも、踏み込み過ぎない、入り込み過ぎないように本番では気をつけています。

私も名前を伏せてお手紙募集に応募してみようかな?と思ったこともありました。
母方の田舎が大好きで、母が元気だったころは、大型連休やお盆の時期、栗の実が落ちる頃など、時間を見つけて滞在時間が数時間でも帰るようにしていましたが、介護度が上がるにつれて、帰ることが難しくなりました。新幹線、バスを乗り継ぎ、最寄りのバス停から山道を歩くこと1時間弱。山奥なので、兵庫県なのに東京から8時間近くかかります。自転車で登りがいのある道の先です。

山で摘んだ山椒の実。葉の時期が過ぎると実を摘みます。すぐ佃煮にする時間がないときは、まずそのまま冷凍保存(左)
山で摘んだ山椒の実。葉の時期が過ぎると実を摘みます。すぐ佃煮にする時間がないときは、まずそのまま冷凍保存(左)

大型連休の時期は、母と一緒に山に入って山椒の葉を摘むのが楽しみでした。母の介護が始まってからもふたりで摘みに行っていたのですが、普段の行動がゆっくりになってきているのにもかかわらず、手が覚えていると言いますか、枝先を左手でグイッと胸元に引き寄せ、右手でパッ、パッ、パッと葉を摘む様は本当に素早く、私の5倍くらいのスピードで摘んでいく俊敏さに目を見張りました。ざるいっぱいに摘んだ山椒の葉や実は佃煮にして、我が家の冷蔵庫、冷凍庫には常にありました。物心ついたころからそれが当たり前だと思っていました。

母と二人でお花見へ。満開でした
母と二人でお花見へ。満開でした

皆さんのこころの風景はどこにありますか?
春の旅は、新芽が芽吹き、生命の息吹を感じます。季節の移ろいに命のありがたさを感じながら、今年もテレビを通して、こころの風景へ旅をするお手伝いをできればと思っています。

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