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大阪での出会い

講演会が終わり、大阪市港区関係者のみなさまと一緒に記念撮影
講演会が終わり、大阪市港区関係者のみなさまと一緒に記念撮影

こんにちは、若年性認知症当事者のさとうみきです。
今回は、昨年12月にあった大阪の講演会での出会いについてつづります。

講演会のため、ワクワクしつつも緊張感のなか、
駅弁を握りしめ新幹線へひとりで飛び乗りました。
行き先は、新大阪。
今回の講演会は、わたしにとって、とても思い入れの深いものでした。

始まりは、初夏のころだったでしょうか。
わたしが活動している「おれんじドアはちおうじ」の担当者からの連絡でした。
大阪市港区のかたからの「ぜひ、講演会をしてもらいたい」という申し出があったとのうれしい伝言でした。

わたしの活動を知って下さってのご依頼でしたが、
どこに問い合わせをすればいいのか分からなかったことから
おれんじドアはちおうじの担当部署でもある八王子市役所高齢者福祉課に思い切ってお電話で問い合わせをして下さったとのことでした。

その後、オンラインで何度か打ち合わせをし、
きめ細かいメールも何度もしてくださいました。
なので、講演会の当日、大阪でみなさんにお会いしたときには
どこか初めてではなく、久しぶりに再会したかの感覚になりました。

さて、そこに至るまでの道中です。
新大阪駅から会場までは、タクシーで伺いました。
時間には余裕がありました。
しかし、そこはさすが大阪のかたのサービス精神旺盛なこと。
親切なタクシーの運転手さんは、会場までの道のりを観光案内もしてくださいました。
そして、2025年に開催される大阪・関西万博の会場が近いということで、
「2025年にもまた来てくださいね」と声をかけてくださいました。

そんな運転手さんの言葉に、すぐに思いついたことは
2025年には65歳以上の5人に1人は認知症になると推計されています。
どんな日本の景色になっているのだろうか……。
当事者である私たちから見える日本社会の景色とは?
そんなことを想っていました。

運転手さんは目的地近くでメーターを切った後も、ちょっと急いでいた私の心の中とは裏腹に、サービス精神で会場の周りをぐるぐると回ってくださっていました。
なかなか「ここで降ります」とはとても言えずに、
内心「大丈夫かしら?」という気持ちがある中で、無事に会場に到着しました(笑)。

寒い空の下、会場の入り口では、講演会を企画してくださったみなさんが笑顔で、わたしの到着を待っていて下さっていました。
本当にみなさんの一つひとつの姿からあたたかさが伝わってきます。

会場に入ると、ご来場のみなさんもたくさん集まっていました。
今日こそはしっかりとやりたい!

そんな気持ちになった理由には、大阪を出発する前日の出来事がありました。
八王子市内の大学で急きょ、わたしのために、初めて出版した本にちなんだ〝お話会〟をさせていただく機会をいただきました。

きっとそこには何も特別なことはなく、
いつものように想っていることを伝えれば、よかったのです。
しかし伝えたい言葉が〝頭の中〟にはいっぱいあふれているのに…
言葉として口から出てこない。
頭の中も心の中も言葉があふれているのに口にすることができない。
そんな何とも言えない感覚に襲われました。

帰宅すると悔しさで涙があふれていました。
わたしにはできない…
そんな涙でした。

できなかったのは何が原因かも、自分自身ではわかっていました。
だからこそ、きちんといただいたご依頼は、しっかりと責任を持ってこなさなくてはいけないと、全力投球してしまうところもあります。

必死に語り、真面目な表情をしているわたしです
必死に語り、真面目な表情をしているわたしです

さぁ、今日はひとりだけれど、きっと大丈夫!
大阪の講演会では、そう自分の中で気持ちを奮い立たせました。
壇上に上がり、マイクを手に取りました。
忘れないようにと伝えたいことを原稿に書いておきました。
そして、スライドを使いながら、自分の言葉でみなさんに語りかけていきました。

「ご清聴ありがとうございました」
そう言って、お辞儀をしたあと、
“できた”“伝えられた気がする…”
そう感じました。
やり切ったという想いで顔を上げ、笑顔で会場を見渡すことができました。

そして、この日の講演会で何よりも印象的だったことを記させていただきます。
暗い会場の中でも、檀上の上から、一人の若い女性がわたしの言葉一つひとつを丁寧にメモをいっぱいしてくださっている姿が、よく見えました。
わたしも話をしながら、その女性に何度も何度も語りかけるかのように目を留めていたことをよく覚えています。
わたしにとって、とてもうれしく感じられる光景でした。

わたしはどこか勝手に専門職の方なのかな……。
そんな思いでいました。
しかし、会場を片付けながら、何人かのかたがわたしと話すために並んで待っていてくださっていました。
1番最後のかたになったときでした。
丁寧にメモをとっていた女性が涙を浮かべながら、わたしにそーっと語り始めました。

講演会の中でわたしは、家族がわたしに書いた〝注意書き〟の貼り紙に「圧」を感じたことを話しました。
その出来事が、彼女が同居しているおばあちゃんにしてしまったことと重なるとのことで、「わたしも……、怒らせてしまったことが」と、涙を流されていました。

20代前半の女性。
わたしの息子の年齢と同じ位の女性と思うと、思わず、
彼女の横に立って、精いっぱい〝大丈夫だよ〟の思いを込めて背中をさすりました。
これから先の生活のなかで、いま気づいたこと、その想いを大切にしていけばいい。
そうしたことを伝えながら、わたしはふと思い出し、スーツケースの中から慌てて〝ガサガサ〟と、出版したての自著を1冊取り出しました。

「何かチカラになれるか分かりませんが、良かったら!」
そして、わたしは想いを込めたメッセージを書かせていただき、
女性に自著を初めてプレゼントをさせていただきました。

このような思いをもって伝えてくださるお孫さんと祖父母の関係。
〝きっと大丈夫〟
〝あなたなら大丈夫〟
そんなエールを心の中からもたくさん送りました。
女性ともまたどこかで会えると信じて、
次に会う時は、女性の素敵な笑顔に満ちた姿を見られると信じて。

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