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認知症と生きるには

もの忘れ外来の受診を嫌がる親への対応法 認知症と生きるには47

「私は絶対ボケてなんかないよ! こんなところに連れてきて・・・帰る!!」『想定内、想定内』

大阪で「ものわすれクリニック」を営む松本一生さんのコラム「認知症と生きるには」(朝日新聞の医療サイト「アピタル」に掲載中)を、なかまぁるでもご紹介します。

認知症の人は、少しばかり失敗が増えたかもしれないと自分で感じていても、家族にいきなり診療所に連れてこられたり、相談もなく何か決められたりすると、とても困惑します。その人の状態が悪くて急性期の症状(たとえば、もの盗られ妄想や被害感)が強いほど、「私は何ともない」と主張する傾向が見られます。今回は、認知症ではないかと家族のことを心配している人がどのように対応したらよいか、紹介します。

新しい春がやってきました。ほかの季節よりも患者さんが増える傾向があります。私の診療所もできるだけ待ち時間を減らして少しでも多くの人に受診してもらえるようにしています。二人か三人の初診患者さんが来院する日もあります。

ここしばらくの間に、私が診察した中で最も受診に拒否的な人が何人か来院されました。共通していたのは、うちの診療所の受診を全く聞かされておらず、当日になって「ものわすれ診療所」に来たことがわかり、本人が極めて立腹して怒っていたことでした。

ある80歳代の女性は診療所に来たとたん、息子さんに対して「こんなところに親を連れてくるなんて、親子の縁を切る!」と怒りました。別の人も「もの忘れ診療所に私が連れてこられた理由がわからない」と大声で怒りをぶつけてきました。

でも、無理ありませんよね。何度か説得されて仕方なくではあっても受診をしぶしぶ受け入れて来院した人と、何も知らなかった人とでは、来院時の驚き具合も異なります。待ち時間に何となく「もの忘れ外来」の雰囲気を察知し、「私を病気扱いにして!」と怒る気持ちは当たり前です。

かつてそのような時、精神科医としての私は(今ではあり得ない話ですが)、妄想などを軽減する向精神薬を家族の了解のもとに処方していました。「隠し飲ませ」という方法で、今では人権に配慮して行うことはありません。今、私の外来では、無理に診察せずに、その時の状態を診ることができただけで、とてもラッキーなことだと考えて、帰宅していただくようにしています。なぜなら、本人が不安の塊でいるときには「こんな医者と向き合うと、どこかに入院させられてしまう」といった被害的な気持ちを持つことがあるからです。

これが精神科病院の先生の場合には帰宅後の自傷他害のことなども考えますが、私の外来では(その日の診療は)そこまでです。ただし、できるだけ当事者であるその人と、別れ際には笑顔で別れられるように。

本人の自尊心を大切に

さて、ここからが本題です。本人の不安と向き合うかのようにある自負心を損なうことなく、次の診療につなぐためには、介護家族との連携が不可欠です。受診当日にやっとの思いで来院できたのに、初めて会う医者に対して「あんた、何の権利で私を診察するの」と詰問してくる当事者の人もいて、つい、介護家族も声を荒らげてしまいます。「いい加減にしろ、おふくろ、みんながどんな思いでおふくろをこの診療所に連れてきたと思うのか」と、声を荒らげてしまった息子さんもいました。

だけど、こうして目の前で私がその人の状態像を見ることができたことが大切で、その後は家族との面接を続けながら、次にお会いするチャンスを見つけていくという、地味ですがその人や家族にとって大切な作業が続きます。

お父さんやお母さん、夫や妻を何とか当院まで連れてきたにもかかわらず、その場で大げんかになった介護家族の皆さん、あなたの努力には大きな力があるんですよ。本来なら来てくれない人のところに私が出かけて行って診察をすべきなのですから。保健所の嘱託医時代には、何週間かかけてその人の家まで行ったこともありました。今、こちらから出かけられない分、ご家族の努力で会えたことは大きな参考です。さあ、これからが勝負ですね。

いまひとつ大事にしているのは、その人に残っている力をちゃんと評価して「自尊心」を大切にすることです。認知症は決して何もかもできなくなるものではなく、家族が思っている以上にしっかりとした自尊、自負心を持つ人も多いからです。その点を評価して、「課題となることと、しっかりとできること」を本人とともに話し合えるようになれば、その後の治療関係は続きます。そこまでして来院してくれた人を、この先、画像診断や服薬までできるようにしてあげられるのか、それとも実際の臨床での力が無いかをしっかりと見てもらう義務は、私に課せられた命題なのですから。

無理な説得はやめて

ここで家族にアドバイスしていることをいくつか書きましょう。家族のもの忘れが気になり受診につなごうとする場合についてです。

  1. たとえ本人が否定して、初診日がうまくいかなくてもあきらめず、ボクと(今後に向けて)作戦を相談しましょう。
  2. 病気の症状として拒否が強いときには、無理に説得しないでください。
  3. (ボクなどその筆頭ですが)変人の医者もいます。ご本人との相性をよくするには、ある程度時間がかかります。急ぎ過ぎないでください。
  4. 時には家族内で意見が違うこともあるでしょう。その違いを超えて「家族として」何を希望するかを医療者に伝えてください。
  5. あなたがご家族のために「何とかして受診させたい」と思った気持ちが大切です。その気持ちを少しでも理解してくれる人(介護職や医療者)との出会いを諦めずに求め続けてくださいね。

次回のテーマは「かかりつけ医の先生にどう伝えるか」です。

※このコラムは2019年4月19日に、アピタルに初出掲載されました

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