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山田悟医師がアドバイス(4) 高血糖でパフォーマンスが上がるか 日本人に多い血糖異常

日本人の三大死因(がん、心臓病、脳卒中)は、糖質過多による血糖異常から始まっているともいえる――。こう考える医師の山田悟さん(北里研究所病院副院長・糖尿病センター長、一般社団法人食・楽・健康協会理事長)に、アラフィフや50代の人たちにとってWell-Beingな食生活についてインタビューしました。2月12日には、山田さんを迎えてセミナーも開催します。そのセミナーのプロローグについて、インタビューを4回に分けて掲載します。4回目は「高血糖でパフォーマンスが上がるか 日本人に多い血糖異常」です。

実は食後高血糖の人が多い

――山田さんは、日本人に高血糖の人がかなり多いのではないかとみていますが、少し説明してもらえませんか。

山田悟さん(以下、山田さん):日本人は欧米人に比べるとインスリンの分泌が少ない、もしくは遅いのです。そのため、糖質を食べた後に食後の血糖値が結構上がります。食前の血糖値の正常値は70~110 mg/dL、食後の血糖値で70~140 mg/ dLといわれています。そもそも食後血糖値が140mg/dl以上となる方が成人の5割くらいいるという中国人のデータがあります。そして、食後高血糖を呈するようになって10年ほどして、空腹時の血糖値が異常になってきます。さらにそれから数年以内に糖尿病を発症していく流れがあるといわれています。私たちはいろいろな企業の方たちを対象にしたセミナーの際に、通常食として1食100グラム程度の糖質のもの、例えばおにぎり2個と野菜ジュースを召し上がっていただいて、1時間後に血糖を測定するということをやっています。論文化していないパーソナルデータにすぎませんが、食後高血糖の人が2人に1人ならいい方で、3人に2人の方が高血糖というセミナーも多くあります。先ほどの中国人のデータよりも日本人では血糖異常者がもっと多いかもしれないのです。ちなみに、セミナーの参加者は、食・楽・健康協会の会員企業の社員さんたちで、みなさん一流企業の40代が中心の方たちです。

血糖値が高い方がパフォーマンスは上がるという誤解

――多いですね。

山田さん:ビジネスパーソンだけではありません。2022年1月の箱根駅伝をテレビ中継で見ていると失速している選手がいました。低血糖が原因とみられますが、理論的にはたかだか20キロ程度、たかだか1時間程度のランニングでグリコーゲンは枯渇しません。なぜ低血糖が起こるかというと、インスリンが出ているからとしか考えられないのです。それは走る直前の糖質摂取で血糖値が上がっているからということになるわけです。

――なぜ、そのようなことが起こるのでしょうか。

山田さん:カーボローディングといって、試合直前に高糖質な食事を食べると、筋肉内にグリコーゲンが蓄積されて持久力が高まるという概念があります。同時に、グリコーゲンが枯渇すると低血糖になってパフォーマンスを出せなくなるとも考えられています。確かに低血糖ではパフォーマンスが出せなくなるのですが、だからといって、血糖値が高い方がパフォーマンスは上がるという誤解があるようです。食後高血糖にならない人であればカーボローディングで問題ないのですが、食後高血糖になる糖代謝能力の人が高糖質食を摂取すると、食後に血糖値が急上昇し、それを抑制するために遅れてインスリンが過剰に分泌され、そのインスリンの作用で血糖値が下がっているときに運動をしていると、さらに血糖値が下がって低血糖になってしまうと考えられています。人によっては、運動をしていなくても低血糖を起こす場合があり、反応性低血糖という病名がついています。考えてみれば、人間の体は食前で血糖値が70~110 mg/dL、食後で70~140 mg/dLの範囲ですべての細胞がうまく回るようにできています。当然、その値を超えるようなレベルで糖質を摂取すれば、パフォーマンスは低下して当たり前なのだと思います。

――「走ること=健康」と思われがちですが、アスリート的食生活の中には健康的でないことがあるということですか。

山田さん:少なくともカーボローディングというスポーツ栄養学の概念で健康になれる人はほとんど存在しないと思います。大切なことは正しい知識を自分の中にどう取り入れていくかです。好きなものは楽しみ、今日はどんな不摂生を取り入れていくのかを、自分で選択していくための知識を使うようになれるといいのです。私たちのいう不摂生は、おいしい食事を楽しく享受することです。健康のためには賢く不摂生をすることが大事なのです。

「まだまだ自分は変われるんだ」という気持ちを持つべき

――山田さんやご家族は、どのような食生活をされているのですか。

山田さん:私も駅弁を食べれば血糖値が200 mg/dL以上に上がります。私たち家族はおいしいものが大好きだし、絶対食べます。それでも健康診断での血糖値は優良です。

――アラフィフや50代はまだ現役世代として働いていますが、20代や30代とは別なストレスもかかってくる年齢です。

山田さん:ときにチートデイといって、普段は節制して、1週間に1度だけ美味しい食事を享受しようという健康法を採用している方もいらっしゃるようです。でも、1週間に1度といわず、毎日、賢い食事でストレスを発散するべきなのです。タクシーの運転手さんに、3カ月間、ロカボに取り組んでもらうロカボチャレンジをしたことがあります。チャレンジの前後で体重や血糖値の変化をみるものです。やり出すとみるみる数値が下がり、お腹のお肉が減って、すごく若々しくやせていったのです。40代や50代になるとお腹が出るのはしょうがないと考えがちです。カッコ悪くなるのはしょうがないと考えてしまう人もいます。でも、アラフィフや50代でも、まだまだかっこよくなるんだ、おしゃれをしたいと考えた方がいいと思うのです。もう少し前向きに年齢を重ねていくことができるのが、ロカボだと思います。それは男性だけでなく、女性も同じです。

――まだまだ人生を楽しむ世代であるわけですね。

山田さん:内面と外面と体力面の全部が充実していくことです。「まだまだ自分は変われるんだ」という気持ちをやっぱり持つべきだと思います。しょうがないという気持ちからの意識転換です。それこそサーフィンをやってみようかとか、ダイビングをやってみようかとか、自分の中にもう一つ別の時間を持つ余裕が生まれてくると思います。そのためには健康が必要です。

続けられないのはやり方が間違っているから

――project50sをご覧のアラフィフや50代の人たちにはとても参考になると思います。

山田さん:みなさん、これまで「節制してください」といわれてきています。でも、禅寺の修行僧でもない限り、節制など続かないのです。「一時的にがんばってやせたのに、もどってしまった。あんながまんはもう二度としたくない」と思ってしまいがちです。ある種の成功体験のようでありながら、自己効力感がなくなっている失敗体験なのです。「俺、やってもダメだ。続けられない。自分はそういう人間なんだ」と思わされているのですが、それは当たり前のことです。どんなにがんばっても続けられない、それはやり方が間違っているのです。ロカボだと内臓脂肪は落ち、筋肉や骨は衰えないわけです。50代のデータはありませんが、30代と70代を比較すると、70代はたんぱく質を2倍食べないといけないとされています。つまり高齢者です。いずれ高齢者になるアラフィフの方たちはだから節制なんてやってはいけないのです。

――健康的とは何か、考えさせられます。

山田さん:薬やサプリメントにお金を使うよりも、洋服に使おうとか、趣味を増やそうとか、そういう気力につながるものにお金を使うライフスタイルの方がいいと思います。がんばっておいしいものを食べる、友だちと飲みに行く、揚げ物を食べる、キャンプで大きな肉を焼いて人より多く食べるくらいの男性になっていくような気力を持っていたほうが、本当は健康的であると思います。

◆続きはセミナーで

【終了しました】山田悟さんを講師に迎えたproject50sセミナー

○開催日:2月12日 13時~15時
○場所:朝日新聞社東京本社 本館2階 読者ホール
参加申し込み:下記のバナーをクリックし、peatixの「なかまぁる」イベントページから参加申し込みをしてください
○構成:第1部は講演、第2部は質疑応答

山田悟さん(やまだ・さとる)
北里大学北里研究所病院副院長、糖尿病センター長
一般社団法人食・楽・健康協会理事長
糖尿病患者に向き合う中、カロリー制限中心の食事療法では食べる喜びが失われている事実に直面する。その後、患者の生活の質を高められる糖質制限食に出会い、糖尿病治療に積極的に採り入れる。
2013年、食前のみならず食後の高血糖に対する社会的注意の喚起、血糖値測定の普及とその意義の啓蒙、科学的根拠に基づく最新の栄養学についての啓蒙、生活を楽しみながら健康になる社会の実現の4つの普及啓発を目的とした「食・楽・健康協会」を設立し、企業など社会実装にも取り組み始める。
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医、日本医師会認定産業医。
主な著書は『世にも美味しいゆるやかな糖質制限ダイエット』(世界文化社)、『運動をしなくても血糖値がみるみる下がる食べ方大全』(文響社)など多数。

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