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コマタエの 仕事も介護もなんとかならないかな?

車椅子の母と楽しむ温泉旅行 あの手この手 みなさんの厚意

駒村多恵さん

タレント、アナウンサーとして活躍する“コマタエ”こと駒村多恵さんが、要介護5の実母との2人暮らしをつづります。ポジティブで明るいその考え方が、本人は無意識であるところに暮らしのヒントがあるようです。
温泉に入りたいけれど車椅子。そんな時は? さて、どんな工夫をしたのでしょう。

温泉に行こう

全国旅行支援が再開されました。周りから支援割を使って出かけたというお話を聞くと、母が元気だったら嬉々として予約していただろうなと羨ましく思います。
我が家は車椅子になってからも温泉に出かけていました。母の状態で、あれこれどうすれば可能性があるか、色々とプランを練ること自体も私は好きでした。これまでを振り返ってみます。

まずバリアフリーで、シャワーチェアを借りられるのは大前提。あとは、どうやって浴槽に入るか、です。
トライしたのは、浴槽の端にお尻をのせられるくらいのスペースがある温泉。一旦、そこにお尻をのせてから、手すりを握った状態で両足を上げ、浴槽の縁を跨いで入りました。この頃はまだ体幹の崩れがそれほどでもなく、手すりを握る力もあったので、問題なく湯船につかることができました。

次に行ったのは、シートベルトをしてシャワーチェアごと湯船に入る貸し切り風呂。湯船の底が下り坂になっていて奥に降りていくほど深くなり、肩まで浸かれる……はずだったのですが、いざ深いところへ向かうとシートベルトが甘かったのか、坂の途中で母がプカプカ浮いてきて抑え込むのが大変。思ったより深かったので私も濡れてしまったうえ、戻るときは上り坂になるので重いのなんの。失敗した事例です。

これを踏まえて、温泉選びがより慎重になりました。バリアフリーをうたう温泉宿のホームページを開き、浴槽の写真を見比べます。

浴槽の中に1段の段差があって、そこに腰掛ければちょうど胸までお湯につかれる高さでは?と思うお風呂を見つけました。
ただ、浴槽の縁の幅が狭いので作戦を練る必要がありました——浴槽用の椅子を段差部分に沈めれば縁と同じ高さになり、お尻をのせるスペースが広くとれるだろう。そして母には、手すりを握って浴槽を背にして腰かけてもらい、私が母の両足を抱えつつ浴槽に入ることで体の向きを180度変える。母を正面から支えながら椅子を外せば、浴槽内の段差に腰をかけられる——というもの。

ホテルから事前に送ってもらい、入浴プランを考える際に活用した写真と浴槽データ
ホテルから事前に送ってもらい、入浴プランを考える際に活用した写真と浴槽データ

事前に旅館に問い合わせてお風呂場の写真や浴槽の設計図を送ってもらい、段差の高さと幅を確認し、ちょうど段差を埋められる椅子を見つけ、持ち込みの許可を得て実現しました。事前のやり取りを丁寧にしてくれるホテルは信頼できると思っています。
ところがこの時、入浴した途端に地震がおきてしまい、しかも目の前が海だったので、せっかく入ったのですが万一のことを考えて早めに湯船から出ることにしました。これが心残りで……。

持ち込みの許可を得た浴槽用の椅子。縁と高さを合わせることでお尻を置くスペースを広くします。湯船から上がった時のために、滑り止めマットも敷いて使いました
持ち込みの許可を得た浴槽用の椅子。縁と高さを合わせることでお尻を置くスペースを広くします。湯船から上がった時のために、滑り止めマットも敷いて使いました

またゆっくり温泉に入ってほしいと思い、次に探したのが「リフト浴」ができるお風呂。ひとくちに要介護5と言っても、体は数年前よりさらに弱っており、普通の浴槽での入浴はもう難しくなっていました。
バリアフリーの宿は格段に増えているのですが、リフト浴ができる宿はまだ多くありません。そんななか、リフト浴に加えてリクライニングベッドも導入しているという宿を見つけました。ホームページで動画を見ると、入浴ボードを使っての入浴。1人での介助は難しいと判断し、ヘルパーさんに来てもらうよう発注しました。

リフト浴ができる数少ないお宿。脱衣場も広々です
リフト浴ができる数少ないお宿。脱衣場も広々です

すると、「母の介護経験があるから」と、ご厚意でおかみさんの妹さんが手伝ってくださることになりました。母を支える役、ボードを動かす役と役割分担し、心強くもあり、安全に介助できました。
母も湯船に浸かった途端、
「あ~」
思わず声が出て、妹さんと私、2人で顔を見合わせて笑ってしまいました。とても気持ちよさそうで、来た甲斐があったと心から思う幸せな時間でした。

おいしく、母向けでもあった「養老寄せ」。作り方を知りたいというリクエストに応えてくださいました
おいしく、母向けでもあった「養老寄せ」。作り方を知りたいというリクエストに応えてくださいました

チェックアウトの際、「こちら、おかみからです」とメモを渡されました。夕食に出た「養老寄せ」が、美味しいうえに母の食事形態にちょうど良かったので、「どうやって作っているんですか?」と聞いた、そのレシピを書いてくださったのです。

旅の良さを実感させてくれたのは「浅間温泉ホテル玉の湯」さんでした!
旅の良さを実感させてくれた「浅間温泉ホテル玉之湯」さんの前で

設備はもちろん人にも優しく、車椅子だからと旅をあきらめなくても良いんだと改めて思わせてくれる宿に出会い、やっぱり旅はいいなとしみじみ思い、帰路につきました。

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