本人すらわからない怒りの原因 それでも「ごめんね」と寄り添う介護職員
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
「山田さん、今日はゴミ箱を蹴ってるよ」
介護施設に通う、山田さんは
不意に怒りを爆発させる。
介護職員も利用者も
最初は根気よく、話を聞いていた。
でも毎回、怒りの理由はよくわからず、
今はだれもが、遠巻きに眺めるだけ。
——ひとりの介護職員をのぞいては。
「ああ、ごめんごめん山田さん」と
その介護職員はとんでくる。
ごめんね、悪かったね、つらかったね。
まわりの皆も、山田さんさえ、
その職員がなにを理由に
謝っているのかわからない。
でも、山田さんはいつも、
職員のその姿に、落ち着きを取り戻していく。
もしかしたら、山田さん自身も
怒りの理由をはっきりとは、
わからないのかもしれない。
でも、山田さんにはわかる。
この介護職員が、
自分の気持ちを心から
汲もうとしてくれていることを。
この介護職員は、どんな理由で
山田さんに謝っていたのか?
『わかってあげられなくて』ごめんね。
——そんな理由だったのではないでしょうか。
今回取り上げたこの職員のモデルは、
私の知人の男女に1名ずつ、いらっしゃいます。
ちなみにそのうちのお一人は、実際に
「理由がわからなくて、ごめんなさい」と
利用者さんに伝えていました。
大切なのはお二人とも
「なんで自分は、理由を察してあげられないのか」と
心底悔いていたことだと思います。
『相手の怒りやストレスの原因を、
観察・傾聴し、共に解決策を探していくこと』
頭では、介護職はかくあるべき、とわかっていても
理想どおりにいかないことの方が多いのが、
介護職員の現状ではないでしょうか。
ひとりのご利用者が、イライラや怒りを行動で表すと、
その険悪な空気が一斉にフロアに広がります。
そしてそのざわめきが、他のご利用者さんの気持ちをも揺らし始めます。
あっちもこっちも。
その対応を、ひとりふたりの職員がうけおうのです。
その必死の対応が、失敗し続ける時。
介護職員は自信を失い、
「その人を問題行動のある人と見放して、対応をあきらめる」
という行動に出てしまうのは、想像にかたくありません。
介護職員だって、人間。
うまくできない時も、わからないこともある。
それでも、基本は
人と人の関わりなのだと、
ご自身の繊細な感情を揺らしながら、
職務にあたる介護職員がいます。
山田さんへの「ごめんね」に
そんな介護職員たちの、踏ん張りを思うのです。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》