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アンガーマネジメントから始まるケア

認知症の在宅介護 要介護度が上がってきたら家族はどうする?【アンガーマネジメントから始まるケア(17)】

認知症の在宅介護で、当事者の認知症が進行し、要介護度が上がってきたとき、家族が抱いてしまう怒りの感情をどう収めたらいいのか、不安になる人もいるでしょう。介護職への講義歴も豊富な横浜市立大学医学部看護学科講師の田辺有理子さんと一緒に考えてみましょう。(なかまぁる編集部)

症状による行動と分かっていても心揺さぶられる家族

要介護度の高い人を介護していると、心身の負担がかかります。思い通りに進まずいらだつこともあるのではないでしょうか。

怒りは、理想や期待と、そうならない現実とのギャップによって生じます。認知症が進むと、会話が通じなくなり、快か不快かといった原始的な反応で介助に抵抗したり、手加減なく暴力的な行動が出たりと、介護する人の感情が逆なでされることがあります。「相手は認知症なのだから仕方のないこと」と頭では理解していても、簡単に自分の感情をコントロールできるものではありません。分かってはいても、もしかしたら私の思いを分かってくれるのではないか、今日はスムーズに介助に応じてくれるのではないか、と期待します。現実にはそうした期待が裏切られるのです。

介護する相手が思い通りに動いてくれることは多くありません。うまくいかないと分かっていても期待しているのです。それが自分を苦しめるのなら、期待しないほうがよいと思ってもできないのです。私はその感覚を持っていて良いと考えています。相手に期待をしなくなれば、怒りがわくこともないかもしれません。しかし、介護において相手への期待がなくなるということは、人ではないといわれているような気がしてしまうからです。

認知症が進行してコミュニケーションが取れなくなったようにみえる人でも、接する人や周囲の様子を感じ取っています。しかし、それをうまく表現できず、混乱してしまうこともあります。介護する人は、混乱によって生じる言動に傷つきます。それが認知症の症状による行動だと頭では理解していても、介護する人も心が揺さぶられるのは当然のことです。

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忍耐を強いると自分を追い詰めてしまう

アンガーマネジメントは、怒らないようになるためのトレーニングと思っていたら、それは誤解です。

怒りの感情をなくすことはできません。怒りに任せて相手に手をあげたり暴言を吐いたりしてよいということではなく、必要に応じて怒りを上手に表現していくことは必要です。しかし、怒ってはいけないと考えると忍耐を強いることになり、かえって自分を追い詰めます。

怒りの背後には、さまざまな感情が隠れています。不安、孤独、焦り、恐怖、嫌悪などの感情が怒りとして表れます。疲労やストレスの蓄積も怒りに関連しています。例えば、排泄の失敗があったとします。同じ場面でも穏やかに対応できる日もあるのに、自分の体調が悪い日や忙しいときだと、普段よりもイライラしてしまうことはありませんか。

介護度が高くなると、介護する人に負荷がかかります。体力が続かない、献身的に介護しているのに暴言や拒否などがあれば報われないと感じ精神力も尽きてしまいます。自分がイライラしやすい、怒ってばかりというときには、こうしたマイナスな感情や状態に気づいて、自分をケアしていくことが大切です。

介護に不安なことがあれば専門家に相談してみる、疲労が蓄積していると感じたら介護サービスを活用して自分が休める時間を作ることも検討してください。介護サービスの利用は、法事や自分の受診などだけでなく、お友だちと会ったり、一人でカフェに行ったり、自身をリフレッシュするための時間にあてることもできます。今、目の前の出来事に怒りが生じたとして、それに対応するだけでなく、自分の心身の状態を整えることで解決できる場合もあります。

応戦ではなく安心感を与えよう

認知症に伴う症状として、怒りっぽくなることがあります。この怒りにも背後にはさまざまな感情が潜んでいます。

これまでできていたことができないことへのいらだちや焦り、自信の喪失、思い出せないことへの混乱、人や場所が分からない中にいる恐怖、自分が自分でなくなっていくことへの不安などがあります。本来の自分のイメージと、思うようにできない現実との間で苦しみ、それが怒りとなっていると捉えることもできます。

相手が「私はこれからどうなってしまうのかしら」と不安を吐露したら、「私がついているから大丈夫よ」と優しく声をかけて寄り添うでしょう。反対に怒りで責め立てられたら優しくなれないのも無理はありません。そこで、介護者が少しだけ気持ちに余裕を持つことができると、相手の怒りの背後にあるマイナス感情を察することができるのではないでしょうか。

怒りを向けられたときに、応戦するのではなく、本人の気持ちに思いを巡らせ、安心感を与えられるよう、声かけを工夫してみましょう。

次回は、「一人で介護しているあなたへ」として、みなさんへのアドバイスとメッセージをお送りします。

【終了しました】田辺有理子さんを講師に招き、セミナーを開催します

なかまぁる編集部では、アラフィフや50代のLIFE SHIFT世代を対象にした「project50s」を始めました。コンテンツ&セミナーを基本とし、みなさんに満足度の高い情報をお届けします。

12月25日(日)には、田辺有理子さんを講師に招き、午前中は一般向け、午後は介護者向けの有料セミナーを開きます(申し込みは別)。詳しくは下記のバナーをクリックしてください。

◆午前セッション(https://project50s1seminar.peatix.com)

◆午後セッション(https://project50s2seminar.peatix.com)

田辺有理子(たなべ ゆりこ)
横浜市立大学医学部看護学科講師
精神看護専門看護師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会アンガーマネジメントファシリテーター(R)
看護師として大学病院勤務を経て、2006年より大学教員として看護教育に携わり、2013年より現職。医療・介護・福祉分野を中心に、介護ストレス、虐待防止などに関して、アンガーマネジメントやメンタルヘルスなどの研修、情報発信を行っている。
単著「イライラとうまく付き合う介護職になる! アンガーマネジメントのすすめ」(中央法規出版,2016)、「イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる 介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法」(第一法規,2017)、「ナースのためのアンガーマネジメント 怒りに支配されない自分をつくる7つの視点」(メヂカルフレンド社,2018)、「怒った人に振り回されない自分をつくる ナースのためのアンガーマネジメント2」(メヂカルフレンド社,2022)、共著「精神に病をもつ人の看取り:その人らしさを支える手がかり」(精神看護出版,2021)、雑誌「介護人財」(日総研出版)で2021年5月から「ゆりこ先生のちょっとこころを軽くする話」を連載中。

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