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認知症の人の行方不明(3)家族が越えるべきハードルとは

街並みと青空、Getty Images

2018年に「認知症の人と家族の会」(以下「家族の会」)がおこなったアンケート調査(*)は、あまり知られていなかった「認知症の行方不明」に関する実態をあきらかにしました。
前編に引き続き、「家族の会」代表の鈴木森夫さんにアンケート結果について解説していただきつつ、行方不明を防ぐためにできる対策をうかがいました。

*「認知症の人の行方不明や徘徊、自動車運転にかかわる実態調査」
「家族の会」が2018年1〜2月、全国47支部を通じて在宅で認知症の介護をしている人で外出時のリスクを経験したことがある940人にアンケートを送付、うち549人から回答が得られたものです。

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発見までに12時間以上かかったケースは約15%

——「家族の会」のアンケートでは、行方不明の発見までにかかった時間も調べていますね。2時間がもっとも多くて21.1%。ついで1時間が18.3%、3時間が13.8%。つまり行方不明と気づいてから、5割以上が3時間以内に見つかっているということで、ちょっと安心しました。

■行方不明者 発見までの時間

「認知症の人の行方不明や徘徊、自動車運転にかかわる実態調査」(2018年)より
「認知症の人の行方不明や徘徊、自動車運転にかかわる実態調査」(2018年)より

確かにそうなのですが、逆に言えば3時間以上たっても見つからない人が半数近くにのぼるということでもあります。
このアンケートでは、9時間以内に80%が、12時間以内に85%が発見されています。24時間後で94%見つかっています。これは、かなり時間がたってから見つかる人もいるということですし、見つかっていない人も2件ありました。

——昼に出かけていった人が深夜にようやく見つかったり、翌日まで発見されなかったりするケースも少なくないということですね。しかも、全員が見つかっているわけではない。

ですから、できるだけ早く見つけることはとても大事なんです。
時間がたてばたつほど遠くに行ってしまうこともあり、なかには「どうしてこの人がこんなにも離れた場所まで行けたんだろう」と驚くようなケースもあります。
時間がたてばたつほど、見つからないとか、亡くなった状態で見つかる可能性が高まるのは事実です。

警察に捜索願を出した人は全体の約半数

——実際に、ご家族の方はどうやって探しているのですか?

行方不明時の捜索方法

「認知症の人の行方不明や徘徊、自動車運転にかかわる実態調査」(2018年)より【捜索方法(複数回答、件、割合/n=328)】親族や友人知人、近隣・町内会の人等と可能性がある場所を捜索した(297件、90.5%)、警察が捜索した(183件、55.8%)、介護従事者(ケアマネジャーやヘルパー含む)に捜索を依頼した(84件、25.6%)、市区町村の徘徊ネットワーク等を活用した(25件、7.6%)、地区町村等の自治体、消防団等が捜索協力した(25件、7.6%)、タクシーを使って捜索した(11件、3.4%)、警備会社が捜索した(2件、0.6%)、海上保安庁や自衛隊等が協力し大規模な捜索になった(0件、0.0%)、探偵を雇い捜索した(0件、0.0%)、【その他(捜索内容に関するもの)】GPSを活用した(13件)、携帯にかけて電話で場所確認した(3件)、本人から電話があった(1件)、新聞掲載した(1件)、コンビニに写真貼付依頼した(1件)
「認知症の人の行方不明や徘徊、自動車運転にかかわる実態調査」(2018年)より

アンケートでは「親族や友人知人、近隣や町内会の人」で捜索したと答えた人が90%以上でした。ただ、自由回答欄などを見ると周囲の人には頼らず、「家族だけで探した」「家族が中心で、近所の人や友だちなどにお願いした」というケースがほとんどのようです。
ただ、近所で発見されるケースは少なくありませんから、頼りになるのは「遠くの親戚より近くの他人」です。周囲の人に「うちのおばあちゃんは認知症があって、行方不明になることもある」ということを言えるかどうかは、早期発見のカギになると思います。

——行方不明になる前に伝えるのは勇気がいるかもしれませんね

はい。私たちは「お互いに迷惑をかけないように生きていきましょう」という育ち方をしていますから、なかなか難しいんです。
でも、行方不明問題というのは、家族だけでは担いきれない問題です。できるだけ早い段階で、できるだけ多くの人の力を借りることが生死をわけます。これがスムーズにできるような社会に変わっていかなくてはいけないと、私は思います。

——警察に捜索願を出している人はどのくらいいたのですか?

アンケートでは55.8%でした。「行方不明だ!」と気づいても、警察に届けているのは半数ほどだということです。
警察は「行方不明に気づいたら、躊躇なく警察に届けましょう」と言っていますし、確かにその方が見つかる可能性が高いのは事実です。でも、家族にとっては躊躇してしまう要因があるんだろうなと思います。
たとえば「行方不明だと思って警察に届けたら、家の中にいた」とか、「家のすぐ近くで見つかった」などの場合、家族は「おおごとにしてしまった」という申し訳なさがあるし、なかには「ちゃんと確認してください」と叱られてしまったという人もいます。もちろん誠実で優しい対応をされる方も多いのですが……。
警察に対する心理的な敷居の高さがなくなるような努力や工夫が、警察の側にも必要ではないかと私は思っています。

行方不明になってもいい。できるだけ早く、無事に戻ればいい

——認知症の行方不明を防ぐことで大切なことはなんだと思われますか?

「認知症の行方不明」は生死にかかわる大問題ですから、確かに「防ぐ」ことも必要なことではあります。でも、その対策が「外に出ないように家に閉じ込めてしまう」ということでは意味がありません。
大事なことは、行方不明にならないことよりも、行方不明になってもすぐに発見できること、そして無事に家族のもとに戻ることです。

——そのためにできることは?

ひとつには、「SOSネットワーク」などへの登録です。現在、ほとんどの市区町村が登録制度をつくっていますから、その登録をしてほしいと思います。
と言うのは簡単ですが、実際には認知症の診断がされていない人や、初期の人に「ネットワークへの登録をしましょう」と言っても納得しないかもしれません。
でも、おそらく一番不安なのは家族よりもご本人じゃないかと思うんですね。行方不明になってつらい思いをさせたくないというご家族に気持ちを伝え、わかってもらうことも大切ではないかと。

そして、ご近所の方にも相談できるようにする。これも簡単ではありません。
それでもなんとかハードルを越えてほしいと思うのは、「まだ見つかっていない」「亡くなってから見つかった」というご家族の方の後悔を聞いているからです。
「あのとき、目を離さなければ」とずっと自分を責めてしまう。
そうならないためにも、勇気を出して周囲に伝えておくことが大切だと思うのです。

前編から読む

鈴木森夫氏
鈴木森夫(すずき・もりお)
1952年愛知県大府市生まれ、京都市在住。1974年愛知県立大学卒業後、愛知県や石川県内の病院でソーシャルワーカーとして、また介護保険施行後はケアマネジャーとして働く。精神保健福祉士。1984年「呆け老人をかかえる家族の会」石川県支部結成に参画し、以後事務局⻑、世話人として活動に参加。2015年「認知症の人と家族の会」理事となり、2017年6月から代表理事に就任。

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