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認知症の人の行方不明(1)年間1万7636人「9年連続の増加」 この数字をどう読む?

行方不明者数の発表をどう読み解くか。

2022年6月、警察庁は21年の行方不明者について発表しました。コロナ禍で行方不明者数そのものは減少しているににもかかわらず、認知症の行方不明者は年間1万7636人で、過去最大の数。この結果を私たちはどう読み取ったらいいのでしょう。

2021年の1年間で警察に届けられた行方不明者のうち、認知症やその疑いで行方不明になった人は17636人。統計が開始された12年から9年連続で前年を上回り、21年は過去最多の数を更新しました。

確かに「17千人以上の認知症の人が行方不明」という言葉はとても衝撃的です。つい「徘徊によって家に帰れない人がこんなにもいるのか……」と考えてしまいますが、まずは警察庁が発表した資料をもとに、認知症行方不明者の情報を整理します。

■行方不明者数の推移

2012年からの行方不明者数の推移。

1万7636人の7割以上が、その日のうちに発見・保護されている

「行方不明になった人が1万7千人以上いる」ということが、イコール「1万7千人以上の人が見つかっていない」という意味ではありません。これはあくまでも、行方不明の届け出の数です。この中の73.9%は届けを出した当日に見つかり、99.4%は1週間以内に見つかっています。まずは安心してください。

また、同じ人が何回も行方不明になっている可能性もあるということも知っておいてください。

行方不明者数の年齢層別推移。

2021年、22年は、行方不明者全体の数が減少している

認知症以外の理由も含む21年の行方不明者は、全体で79218人。20年の77022人に比べると微増しているものの、調査を開始した1956年以降では、20年が過去最少、その次に少ないのが21年です。その理由は不明ですが、コロナ禍の影響もあるのではとも言われています。

でも、認知症の行方不明者は増加しているのです。それはなぜでしょうか。警察庁生活安全局人身安全・少年課の金柿正志・人身安全対策室長は「我が国の高齢化が一因ではないでしょうか」と話します。

厚生労働省が示す統計では、2012年の段階で全国の認知症高齢者は462万人とされ、それが25年には700万人を超えると予測されています。認知症の母数そのものが増えているため、行方不明者も必然的に増加傾向にあると言えそうです。

認知症の行方不明者の増加数は減少している

新聞報道などでは、「認知症の行方不明者数は9年連続増加」と見出しに掲げられていますが、数字を細かくみていくと、その増加率はけっして高くなっていません。

<認知症の行方不明者の増加数>
17年から18年 → 1064人増加
18年から19年 → 552人増加
19年から20年 → 86人増加
20年から21年 → 71人増加

というように、行方不明者数の少ない20年、21年は、それ以前に比べて認知症行方不明者も増加傾向がゆるくなっていることがわかります。

「認知症の人と家族の会」の代表理事である鈴木森夫さんはこう話します。

18年や19年と比べると、あきらかに認知症の行方不明者の増加は鈍っていると感じます。認知症になる人の数が増えているなかで行方不明者の増加が鈍っているのです。その理由ははっきりわかりませんが、在宅でも施設でも感染を恐れて外出を制限しているなど、コロナ禍の影響があるのではないかと私は思っています。
増加率が下がっていることは新聞などではあまり報道されていませんが、単純に数が増えているわけではないということも伝えてほしいと思っています」

行方不明者数の所在確認までの期間。

死亡で発見される認知症行方不明者 過去5年で最少に

行方不明として届け出された認知症の人のうち、21年中に所在確認されたのは17538人。そのうち生存確認されたのは16977人で、全体の96.8%は無事に保護されています。

一方で、亡くなって見つかった人も残念ながらいます。過去の5年間の死亡発見者数は以下のような人数です。

<認知症行方不明者の死亡での発見数>
17年 → 470
18年 → 508
19年 → 460
20年 → 527
21年 → 450

認知症の行方不明者数が増えているなかで、死亡者は大きな変化はなく、21年に関していえば過去5年間で最少です。前出の鈴木さんはこう話します。

「認知症の行方不明者が増えていることは、認知症があっても、家に閉じ込めていない、外出の機会を奪っていないという意味でもあります。そして、行方不明に気づいた家族が躊躇せず警察に届けを出すようになったということ。そのこと自体は悪いことではありません。

問題なのは、行方不明になった人が家族のもとにどれだけ戻ってこられたか。死亡した状態で見つかる人、行方不明のまま発見されない人をどれだけ減らせるかが重要ではないでしょうか」

「帰ってこない!」と思ったら、迷うことなく警察に届け出を

認知症の人が行方不明になっても、無事に見つかり、自宅に戻るためにできることは何でしょうか。前述の、警察庁の金柿室長はこう話します。

「認知症や、認知症が疑われる人が行方不明になった場合、ご家族は躊躇なく警察に相談に来てほしい。近くに警察署や交番がなければ、市区町村の福祉の窓口でもいいと思います。連絡が早ければ早いほど見つかるまでの時間は短くてすみますし、安全に保護できる確率も高まります。できるだけ早く相談に来てください」

そのときには、持参すると良いものなどについても、警察庁生活安全局人身安全・少年課の中田好一理事官に伺いました。

「免許証のような顔写真ではなく、普段外出するときの服装で写されたスナップ写真が役に立ちます。着ているものが変わっている場合もあると思いますが、意外に変わらないのは『靴』ですので、足元まで入れて撮影してください。日頃から外出時にスマホなどで写真を撮るようにしておくと、いざというときに役立ちます」

また、せっかく早期に見つかっても、本人が自身の名前や住所を正確に言えず、家族と連絡を取ることに時間がかかってしまうこともあるそうです。

「事前にご本人の名前や住所、連絡先を記したものを、ポケットに入れたり、靴などに貼ったりなどしておいてもらえると、より早くご自宅に戻ることができるようになると思います」(中田理事官)

※ 行方不明特集に続きます

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