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認知症の人の行方不明(2)「家族の会」全国アンケートで見えた実態と対策

電車のホームを歩く人、Getty Images

2021年の1年間で、警察に届けられた認知症の行方不明者は1万7637人。その数は調査が始まってから9年連続で増加しています。 でも、この数字だけでは「どんな人が行方不明になったの?」「どうやって探したの?」など、細かい部分は見えてきません。 そこで今回は、2018年に「認知症の人と家族の会」(以下、家族の会)がおこなったアンケート調査(*)をもとに、「家族の会」代表の鈴木森夫さんに認知症の人の行方不明の実態についておうかがいしました。

*「認知症の人の行方不明や徘徊、自動車運転にかかわる実態調査」 「家族の会」が2018年1〜2月、全国47支部を通じて在宅で認知症の介護をしている人で外出時のリスクを経験したことがある940人にアンケートを送付、うち549人から回答が得られたものです。

【まずは関連記事】認知症の人の行方不明(1)年間1万7636人「9年連続の増加」 この数字をどう読む?

「10回以上行方不明になっている人が、全体の2割近くに

——なぜ「家族の会」では、認知症の行方不明に関する大規模アンケートを実施したのですか?

アンケートをとろうと考えたのは、認知症行方不明者の増加が話題になり始めた時期でした。
その背景の一つに、2007年に認知症の男性(当時91歳)が列車にはねられて死亡した事故がありました。JR東海が男性の家族に損害賠償を求め、一審、二審では「家族に監督責任がある」という判決が出ていました。ところが16年の最高裁判決では「家族に監督責任はない」と判決が覆され、大きな話題になったのです。
この一連の報道の中で、「認知症の人の“徘徊”」がマスコミでも取り上げられるようになり、行方不明の問題もクローズアップされました。

そこで「認知症の行方不明者が増えている」というだけでなく、行方不明になるのはどんな人なのか、どうやって探しているのか、行方不明になった認知症の人を探すネットワーク制度に登録している人はどのくらいいるのか……。具体的な姿を知る手がかりになればと考えました。

——印象的だったのは、同じ人が何回も行方不明になっていることです。1回だけという人は2割程度しかいなくて、10回を超える人も18.3%にものぼっていました。

「認知症の人の行方不明や徘徊、自動車運転にかかわる実態調査」(2018年)より【行方不明の回数(件、割合、累積割合)】1回(70件、21.3%、21.3%)、2回(69件、21.0%、42.4%)、3回(51件、15.5%、57.9%)、4回(27件、8.2%、66.2%)、5回(36件、11.0%、77.2%)、6回(10件、3.0%、80.2%)、7回(3件、0.9%、81.1%)、8回(2件、0.6%、81.7%)、10回(12件、3.7%、85.4%)、12回(1件、0.3%、85.7%)、15回(1件、0.3%、86.0%)、20回(4件、1.2%、87.2%)、21回(1件、0.3%、87.5%)、30回(2件、0.6%、88.1%)、覚えていないほどたくさん(39件、11.9%、100.0%)、集計(328件)
「認知症の人の行方不明や徘徊、自動車運転にかかわる実態調査」(2018年)より

そうですね。「覚えていないほどたくさん」という人も約12%と、けっして少数ではありません。

認知症にはさまざまな認知機能の障害があるので、すべての人が行方不明になってしまうわけではないけれど、行方不明になりやすい人もいるんだろうなと思います。
家を出ていかないようにと対策を打つご家族もいて、「手の届かない場所に鍵をつけた」「鍵を二重三重にした」「ドアチャイムをつけて、出ていくことに気づけるようにした」などと工夫しているのですが、「それでも鍵をはずして出ていってしまうんです」という声も聞きます。
本人が「外に出たい」と思えば、どんな困難をも乗り越えてしまうということです。

行方不明者の約3割は、認知症と診断されていない

——初めて行方不明になる時期が「認知症の診断前」というケースが多いことにも驚きました

■行方不明があった時期の要介護と、行方不明の予測

「認知症の人の行方不明や徘徊、自動車運転にかかわる実態調査」(2018年)より【始まったころの段階(介護度、件数、割合)】未認定(118件、30.2%)、要介護1(106件、27.1%)、要介護2(113件、28.9%)、要介護3(46件、11.8%)、要介護4(7件、1.8%)、要介護5(1件、0.3%)、集計(391件)【終息したころの段階】未認定(0件、0.0%)、要介護1(13件、6.2%)、要介護2(59件、28.1%)、要介護3(95件、45.2%)、要介護4(28件、13.3%)、要介護5(15件、7.1%)、集計(210件)【行方不明の予測】全く予測できなかった27.4%、あまりできなかった17.1%、少しは予測できた38.9%、予測できた16.6%
「認知症の人の行方不明や徘徊、自動車運転にかかわる実態調査」(2018年)より

そうですね。認知症と診断されていない時期に行方不明になった人が3割もいるというのは、私たちにとっても驚きでした。
要介護1の人も合わせると約57%。行方不明になるのは、認知症の初期の人が多いことがわかります。確かにそのくらいの人はまだ足腰も丈夫なので、自分から外に出ることもでき、長い距離を歩ける体力もあるのでしょう。
そして介護度が進むにつれて身体機能も低下してきて、一人で外出することも難しくなるのだと思われます。

——行方不明になれるというのは、体が「元気」という意味でもあるのですね。そうは言っても、認知症と診断されていない段階だと「まさか行方不明になるなんて!」とご家族もご本人も驚いたことでしょう。

おっしゃる通りです。昨日までは普通に買い物に行って、普通に帰ってきていたのに、突然帰ってこなくなるのですから、「まさか」という感じですよね。
警察に届けるかどうかも迷いますし、捜索願を出すにしても「本人の写真の準備もしていなかった」という声も多くありました。

——行方不明になったことがなくても、万が一に備えて準備が必要ということですか?

たとえば全国の自治体では、「SOSネットワーク」「認知症見守りネット」などの名称で、行方不明になったときに迅速に捜索できるような事前登録制度を設けています。
しかし、今回のアンケートで聞いたところ「登録制度を利用した」と答えた人は19.8%にとどまり、「利用しなかった」は51.2%、「制度を知らない」は29%もいました。

一度も行方不明になった経験がない人に「行方不明になったときに備えて登録しよう」というのは難しいかもしれません。それでも、高齢になって認知機能が落ちてくれば行方不明になることもありうるということを、多くの人に理解してほしいのです。
そのうえで、高齢者の方ご自身やご家族の方が「万が一、行方不明になったらどう動くか」という対策を打っておく必要があると思います。

後編に続きます

鈴木森夫氏
鈴木森夫(すずき・もりお)
1952年愛知県大府市生まれ、京都市在住。1974年愛知県立大学卒業後、愛知県や石川県内の病院でソーシャルワーカーとして、また介護保険施行後はケアマネジャーとして働く。精神保健福祉士。1984年「呆け老人をかかえる家族の会」石川県支部結成に参画し、以後事務局⻑、世話人として活動に参加。2015年「認知症の人と家族の会」理事となり、2017年6月から代表理事に就任。

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