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Better Care 通信

1年で要介護度5→1 コロナ禍の面会制限もなし「あいさん家」とは

暮らしの保健室あいさん家にて、ロコモテスト

介護情報季刊誌「Better Care(ベターケア)」となかまぁるのコラボレーション企画です。同誌に掲載されたえりすぐりの記事とともに、なかまぁる読者のための、雑誌には載っていない情報を加えてお届けします。野田真智子Better Care編集長からのごあいさつはこちらです。

地域の安心を支える保健室

広々とした敷地に建つ木造の家。ぬくもりのある木の柱とフローリングの広々した部屋に、たっぷりの光が入る。

日曜日の午前中。参加者7人は、軽い体操のあと、広いスペースに移動して、1) 立ち上がりテスト 2) 2ステップテスト 3)ロコモ25のテストを実施。ロコモ25は、アンケートへの記入。この結果をあわせてロコモ度を判定。今回の参加者は元気に歩いてきた人も多く、ロコモ度は1以下の人が多かった。

その後、理学療法士や作業療法士などのリハビリテーションスタッフによるロコモにならないための話を聞き、実際に体を動かしながら質問などをする。「転倒しない体をつくろう!」というこの日のイベント「暮らしの保健室あいさん家(ち)」は、昼前に終了した。

暮らしの保健室あいさん家の会場は、看護小規模多機能型居宅介護(看多機)の、まるごとケアの家あいさん家。暮らしの保健室は、地域の住民の健康や生活の相談などを受け、交流する活動。医療・介護従事者が当番制で参加する。暮らしの保健室あいさん家は、2021年12月から開始、毎月1回、一般の人にも興味をもってもらいやすいテーマで開かれている。

代表を務める横山孝子さんは、看護師でケアマネジャー。制度による訪問看護と、全国訪問ボランティアナースの会キャンナスの有償ボランティア活動を組み合わせて、地域の人の暮らしを支えている。

「介護や看護でのお付き合いは、病気や障害があるうえで始まります。でも、暮らしの保健室は、まだ元気だけれどちょっと心配のある人などにも、気軽に参加してもらえます。地域全体とつながれる良い機会だと思います」

横山さんは、本誌78号(2018年冬)にも登場。拠点病院の救急外来勤務のとき、高齢者が救急車で次々に運ばれてくる状況をみて、在宅で最期まで過ごせる体制が必要だと気づき、市内初の訪問看護事業所を立ち上げた。12年5月のことだった。

以来10年。市のさまざまな活動にも積極的に協力し、医療・介護・福祉の多様な専門職との連携にも努力、「まるごと健康で、生き生き暮らせる地域づくり」をめざしてきている。

だが、ひとり暮らしや老々介護で家庭での介護力が低下するなか、体調の急変などあっても安心して泊れる支援がなかった。訪問看護や介護の短時間サービスでは支えきれない。「通いと泊り、訪問介護に看護が加わった看多機なら支えられる」と横山さんの思いは膨らんだ。

本人の意欲に応えて

現在のあいさんの家・訪問看護ステーションあいを支えるメンバー
現在のあいさんの家・訪問看護ステーションあいを支えるメンバー

こうして19年11月、「まるごとケアの家あいさん家」として看多機がオープンした。

「暮らしの保健室も『まるごとケアの家』という名前も、ささえる※ さんからののれん分け。村上智彦先生や永森克志先生の考え方に惹かれて、北海道をお訪ねしました。」

永森さんや「ささえる」の仲間たちには、苦しいときにも支えてもらったという。

※医療法人社団ささえる医療研究所(北海道岩見沢市)。現理事長は永森克志氏。

あいさん家の利用者さんで、劇的に要介護度が改善した人がいる。松本明さん(72歳)。幼少期から股関節の病気のペルテス病だったが15年ころから下肢に力が入らなくなり、右股関節の痛みも増強、20年3月に人工関節置換術を受けた。1か月以上寝たきりで、歩行は不可能と思われていたが、6月にリハビリ病院に転院。本人がリハビリに意欲的で、その後移った病院でも熱心に取り組み、10月には退院し、あいさん家の利用が始まった。

当初の要介護度は5。立ち上がりや歩行器での歩行は見守りがあればできたが、本人の希望は、車を運転することだった。乗車動作やアクセル・ブレーキ操作などハードルは高かった。

「でも本当に松本さんの意欲は強かったです」

あいさん家には、理学療法士・作業療法士が3名もいる。松本さんの夢をかなえようと、リハビリのプログラムもさまざま工夫した。松本さんは自宅やあいさん家でたゆまずリハビリを続け、退院から1年後、要介護度は1にまで改善、念願の車の運転ができるようになった。

専務取締役の横山則男さんは、「看多機なので、料金は利用回数に関係なく要介護度によって決まっています。ですから、うちのようにリハビリスタッフが充実している看多機なら、リハビリをしっかりやりたい人にとっては、何回でも利用できてお得な制度です」と語る。訪問看護立ち上げ時から孝子さんを支え、夫婦協力して事業を推進してきた。

あいさん家のまえで横山則男さん・孝子さん
あいさん家のまえで横山則男さん・孝子さん

看取りの支援も

新型コロナ流行下でも、家族などの面会を制限することはなかったと則男さんは語る。

「家での看取りが心配な場合は、ご家族も一緒にあいさん家にきていただいて大丈夫です」

建物の構造上、通所に使う玄関とは別の出入り口を利用して直接泊りの部屋まで行けるようになっている。そこを利用して出入りすることで安心して、最期のときを家族とともに過ごしてもらえる。

看取りが近いと思われる人や、難病、癌末期など、他では引き受けられない方々の受け皿として、病院や地域包括支援センターから声がかかることも多い。また、リハビリの依頼から始まって訪問看護利用につながる場合もある。

地域に知ってもらう活動の一環として近隣のゴミ掃除を始めた
地域に知ってもらう活動の一環として近隣のゴミ掃除を始めた

実は、この春から、看護師数人が独立する。

「新型コロナ対応で、考え方の違いが明らかになりました。地域の方が陽性になったとき、私は、要請があれば地域の看護師として対応する以外選択肢はないと考えていました。しかし、スタッフのなかで意見は分かれました。それぞれの家族の事情もあり、陽性者の対応に反対するスタッフの思いも理解できました。しかし、この考え方の違いから、私から離れていくスタッフが何人かいました。」

孝子さんの口調は苦渋に満ちている。袂を分かつ職員には、担当していた利用者さんを渡すことにした。お人よしすぎるという人もいる。それでも、孝子さんは前を向く。

「新型コロナの対応に関する考え方は、まるで踏み絵のようだと思いました。今回のことで、本当に私と志をともにできる仲間が残りました。これを転機に、会社の体制なども見直し、みんなで情報や考え方を共有しやすい仕組みにしました。つらい思いをしている利用者さんを助けたい、介護するご家族の支えになりたいという思いは、どの職種の職員も同じ。訪問や通いで最期まで在宅生活を支えながら、どうしても必要になったら、看多機にきていただく。まだまだ元気なときには、暮らしの保健室に遊びにきていただき、制度外の支援にはキャンナスを利用していただく。そうして地域全体が元気になるお手伝いをしたいです」

訪問看護ステーションあい(機能強化型Ⅱ)
在宅介護支援事業所あい
看護小規模多機能型居宅介護 まるごとケアの家あいさん家
キャンナス烏山

〒321-0632 栃木県 那須烏山市神長422-1
TEL 0287-83-8035
FAX 0287-83-8222
運営 株式会社悠愛

※「Better Care」95号(2022年4月末発行)に掲載した記事です

その後の「あいさん家」
「訪問看護ステーションあい」や、代表の横山孝子さんの活動は、「Better Care」第78号(2018年冬)で、すでにご紹介しました。そのときはまだ、看護小規模多機能型居宅介護(看多機)は構想段階。今回、その看多機「あいさん家(ち)」や「暮らしの保健室」などの多彩な活動をお伝えしたくて、95号(2022年春)でも取材、思いもかけない大きな変化に驚かされました。

本文でお伝えしたように、一部のスタッフとの苦渋の別れがあり、訪問看護ステーションあいの利用者が減少し、周囲からは心配の声も寄せられたといいます。

「訪問看護ステーションの管理者は、私が勤めることにしました。そして、これまで分けていた訪問看護部門とあいさん家の看護を、統一して看護スタッフが担当することにしました。そんな組織改編のなかで、かえって連携がスムーズになったり、組織としてのまとまりもできてきたように思います」と、横山さんはプラス思考です。

暮らしの保健室の活動も、徐々に地域に浸透を始め、月に1回の定例化で参加者も増えはじめたといいます。「6月の暮らしの保健室では、用意した資料が足りなかったほど。参加者からの質問も活発で、今後、それにこたえて活動を増やします」と明るい状況です。

もちろん、新体制は動き始めたばかり。いろいろ、難しい事態も起こると予想されますが、横山さん夫妻の熱意と、信じて共に活動するスタッフのやる気で続けられる活動を、これからも見守りたいと思います。

※2022年6月15日取材

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