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年齢もコロナも気にしない!趣味と脳のイイ関係 前編

陶芸をするひと、Getty Images

あなたは趣味を楽しんでいますか? 仕事や家事・育児に忙しい現役世代、新たな人生の目的を模索するリタイア世代にとって、“趣味”とはどんな存在なのでしょう。なかまぁる編集部が3月に実施した「趣味に関するアンケート」の回答者に聞きました。また「趣味は脳の健康に欠かせない」と語る杏林大学名誉教授の古賀良彦先生に、大人の趣味と脳の関係について聞きました。

学生時代の趣味が転じたボランティアの訪問演劇

埼玉県在住の高橋敦子さん(53)は6年前、親の介護を機に介護職員初任者研修資格を取得しました。現在は介護士としてデイサービスで働いています。資格研修時のレクリエーションの授業で、学生時代に夢中になっていた演劇が生かせるのではと意欲が再燃したといいます。

「芝居は大好きですが、若い頃の思い出といえば必死にチケットをさばいたり頭を下げて集客したり。でも高齢者介護の現場には『昔、歌舞伎が好きだったの』『大衆演劇を追っかけてたのよ』『もう足が悪くて行けないのが悲しい』と、芝居を熱望している人がたくさんいることに気づいたんです」と高橋さん。一念発起して、呼ばれた先に赴いて演劇などをする「訪問演劇GIFT」を発足しました。そして、SNSなどで役者のボランティアを募集したのです。

高橋さんは事前に観客となる人たちに人生の話を聞き、図書館などで地域や時代に関する裏付け取材もして20~30分ほどのオリジナル台本を執筆。職場のデイサービスほか、高齢者施設や公民館などで公演活動をしています。

「認知症でも楽しめることを念頭においています。一瞬一瞬を楽しんで、体が覚えているような台本です」

芝居の途中で観客が「懐かしいわ」とつぶやけば、ストーリーを外れて役者と観客が談笑したりもするそう。高橋さんの仕事の延長のようにも思えますが、役者も含めて全員演劇好きの素人で、完全無償のボランティア。あくまでも“趣味”なのだといいます。

全員素人のボランティアだという訪問演劇GIFT。練習にも熱が入ります(高橋さん提供)
全員素人のボランティアだという訪問演劇GIFT。練習にも熱が入ります(高橋さん提供)

学生時代は誰かと比べ、うまい役者や演出で「よい作品を」と躍起だったと振り返る高橋さん。今は素人役者がセリフを忘れ、観客が一緒に笑い転げる場にワクワクするそう。仕事や家庭では自分の役割を果たそうと頑張っても思うようにいかず、無力感に苛まれることが多いけれど、趣味の場では“素”になれる!

「うまくいかなくても不思議と『次がある』って思えちゃう。自分の解放の場ですね」

今の仲間は40~50代を中心に15人ほど。集まれば芝居や公演の話ばかり。世間話やプライベートの話題にはほとんどならないそう。日常から切り離された異世界を仲間と共有できる大切な場だそうです。

同級生との旅が人生後半の生きがいに

鳥取県在住の中川由美さん(仮名、76)は20年ほど前、県外で開催された高校の同窓会の役員になったことをきっかけに、気の合う女性5人で旅行をするようになりました。年に1回は温泉巡り。さらにそれぞれ忙しい合間を縫って、近場の日帰り旅からブームにのって韓国旅行まで、あちこちに出掛けました。

きっかけとなった同窓会の頃、中川さんは長年勤めた会社を早期退職。仕事が楽しく打ち込んでいた分、会社人生しか知らないことに不安を感じていましたが、学生時代の友達との交流がこれほど心癒やされるものかと思ったといいます。

「高校の同窓生といっても小学校から一緒の人もいて、自分が全部さらけ出せたんですよね。いいことも悪いことも(笑)」と中川さん。結婚し、子育て中は疎遠になっていても、あっという間に「ちょっと無理すれば時間取れるね」と距離が縮まったそう。小学生時代には、市街地の3分の2が燃えるような鳥取大火(昭和27年4月17日)があり、大変な被災経験を共有したことも絆になっているのかもしれません。長い人生の後半、親や夫を亡くした時にもみなお互いに自分ごとのように悲しんだと中川さんはいいます。

ガラケーで撮ったという、四季折々の庭の花(中川さん提供)
ガラケーで撮ったという、四季折々の庭の花(中川さん提供)

今、旅行を休止せざるを得ないコロナ禍で唯一、趣味といえるのはガーデニング。長らく一緒に庭造りを楽しんでいた夫を8年前に亡くし、当初はすっかり気力を失っていたそうですが、ちょうど3年前に花好きの人が隣家に引っ越して来て、すばらしく彩られた庭の花々に触発され、少しずつ再開したそう。定番のパンジーやハーブ、好きな水仙、今年初めて植えたなでしこ、これからは昨年挿し芽をして増やしたあじさいが楽しみだとか。「それでもコロナが収束したら、早く旅行を再開させたいです。もうみんな76歳。早くしないと歩けなくなっちゃうわ(笑)」

58歳から始めたピアノ 孫と娘と三世代連弾!

神奈川県在住の小山智子さん(仮名、73)の趣味はピアノ。元は、まだ小さかった子どもたちに習わせていたもの。時が経ち、誰も弾かなくなったピアノを眺めては「弾いてみたい」と思っていたそう。なかなか実現できずにいた58歳の時に両目とも白内障の手術を受け、医師から「生まれ変わったのだから何か始めるといいですよ」と言われて思い立ちました。ヤマハの音楽教室に通い始めた直後には義母の介護が始まりましたが、夫が「母さんは看ているから、お前、行ってこい」と、背中を押してくれたそう。

「先生が『子どものように指の練習からでは時間がかかるので最初から曲やります』とおっしゃって。譜面を見ながらでは弾けず、一音一音たどって頭で覚えるので最初はお念仏みたい(笑)。だけど、だんだん曲らしく聞こえてくるとうれしくて」と語る小山さん。最初に弾いたのは当時、はやっていた『千の風になって』。その後、発表会にも参加するようになり、そんな小山さんを応援する娘や孫との連弾も実現。最近の発表会ではCDを聴いて魅了されたラヴェル作曲の『水の戯れ』に挑戦しました。難しくて絶対に無理だと思う曲も、発表会があるとなると不思議と力が湧き、覚えられるのだといいます。

義母を見送った後は実母の介護で仙台まで通うことになりましたが、あきらめず、実母の家に電子ピアノを買い置いて練習を続けました。「母にも聴いてもらうことができました。『優しい曲だね』なんて言ってくれてうれしかった」と小山さん。最近は同年代の友人にもピアノを勧めているそう。「頭を使って、指も足も全部使うから“ボケ防止”には最高だよ!ってみんなに言っています(笑)」。

中高年の趣味に関して専門家が解説!

ストレスが要因となる睡眠障害やうつ病治療を専門としている古賀良彦先生に、大人の趣味と脳の関係について聞きました。

古賀良彦先生
古賀良彦(こが・よしひこ)
精神科医・医学博士。杏林大学名誉教授
うつ病、睡眠障害、統合失調症、ストレス障害の治療・研究のエキスパート。日本催眠学会名誉理事長、日本薬物脳波学会副理事長も務める。近著・監修に『自律神経を整えるwork book』『活発脳をつくる60歳からの切り紙』(主婦の友社)、『パンデミックブルーから心と体と暮らしを守る50の方法』(亜紀書房)などがある。

古賀先生によると、脳の健康を保つために「3つのR」つまり休息(Rest)、くつろぎ(Relaxation)、趣味・遊び(Recreation)を心掛けるといいそうです。休息は主に睡眠、くつろぎは緊張を緩めること、3つめはまさに今回のテーマで、Re=もう一度、create=作る、自分を再生することでもあると古賀先生は言います。

「脳はいつも様々なストレスに晒されています。ストレスがたまりすぎるのはもちろん危機ですが、一方で、脳は常に刺激を求めています。目が覚めている間は情報処理をしたいのです。そのため、刺激が少ないのも脳には危機。うつ病や認知症のリスクになります。そして、良い情報や好ましい情報でワクワクするような情動が起こると、脳は元気に活性化します。楽しめる趣味に取り組んで脳を存分に活動させることはとても有意義です」

物ごとを的確に分析し行動をするというコンピューターのような動きも脳の働きなら、好きなことに夢中になって「ああ面白い!」と高揚するのも人間らしい脳の働き。趣味は脳にとっても大切なことのようです。

「脳にとってよい趣味は、自分自身がワクワクするかどうかに注目しましょう。次にもまたやりたいと思うこと。とても簡単なことなんですよ」と古賀先生。効率や評価が基準の人などは意外に見過ごしがちな自分の“好き!”が重要なのです。

「無趣味だという人も、好きなことは必ずあるものです。学生時代にやっていたことなどを思い出して、準備や片付けが簡単で手軽なことからやってみるといいですね」

脳も全身も使う運動をはじめ、釣りのようなわかりやすい成果があるもの、自転車やカメラなど道具が介在するものなども、続けるきっかけになると話す古賀先生。コロナ禍で注目されたアナログなボードゲーム、ストレス解消効果が話題のぬり絵などもおすすめだそうです。

たとえばぬり絵も、行う前後で脳の活性化がみられる。好きな趣味を思い切り楽しむことで、脳活性はさらに期待できる(古賀先生提供)
たとえばぬり絵も、行う前後で脳の活性化がみられる。好きな趣味を思い切り楽しむことで、脳活性はさらに期待できる(古賀先生提供)

※後編につづきます

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