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のめり込む その情熱は 仕事と同じ?大人の趣味と脳の関係 後編

写真を撮るひと、Getty Images

なかまぁる編集部が実施した「趣味に関するアンケート」の回答者へのインタビュー後編です。趣味の内容はそれぞれですが、長年取り組んできた仕事の存在の大きさ、仕事に傾ける情熱に似たものを感じられるお話でした。記事の後半では、男性ホルモンのテストステロン研究や男性のアンチエイジングの第一人者で順天堂大学大学院医学研究科教授の堀江重郎先生に「中高年男性にとっての趣味の重要性」について聞きました。
※前編から読む

仕事が趣味 できる限り生涯現役を貫きたい!

兵庫県在住の袴田浩之さん(仮名、68)は、東京に住んでいた中学、高校時代は学校帰りに映画館に通い、年間200本近くの映画を見ていたそう。

「旧作が中心の新宿名画座(当時)で、2、3本立てが学生は200円。好きなミュージカルからアクション、恋愛ものまでえり好みせず、上映するものを夢中で見た感じですね」という袴田さん。

ジュリー・アンドリュース主演『サウンド・オブ・ミュージック』、オードリー・ヘプバーンとユル・ブリンナーの『王様と私』も、映画館の大スクリーンで。画面の迫力はもちろん、映画館ならではの押し寄せるような感動は、家の大型テレビではかなわないといいます。今も映画熱は変わらず、回数は減ったものの気になる映画は時間を割いて映画館に足を運んでいます。

 学生時代から集めている映画パンフレット。高校生当時は1冊50円くらいだったとか。(袴田さん提供)
学生時代から集めている映画パンフレット。高校生当時は1冊50円くらいだったとか。(袴田さん提供)

それなのに「趣味は?」と問われるといちばん困るそう。「映画や音楽、読書ってみんなが好きじゃないですか? だからアンケートなどでも一応、映画、読書と答えますが、それは単に“好きなこと”じゃないかな。趣味はもっとその人独自で、飯を食うのも忘れて熱中するようなこと」。そんな袴田さんにとって趣味と呼べるものは、「今の仕事」だそう。定年後に勤め始めた第二の職場で、企業向けセミナーイベントの企画運営などを行う会社の営業事務を担当しています。

「年金受給者でもあり、ぜいたくをしなければ家内と2人なんとか暮らせます。生活のために嫌でも働かなくてはいけないというわけではなくなった。今の仕事は経験を生かしたり自分の裁量で工夫できたり、ある程度責任も担ってこなせたときの達成感はこの上ない。映画の感動とはちょっと違うかな」

袴田さんは6年前、心臓の大手術をしました。幸い今のところ生活や仕事に支障がなく、今の職場からはできるだけ長く働いてほしいといわれているそう。「プロ野球の野村克也さんが豪語していた“生涯現役”が夢です。高齢や病気の悪化で体が動かなくなれば退職も覚悟していますが、それまではできる限り頑張りたいと思っています」。

20年来、夢中だったそば打ちは突然、飽きた!

宮崎県在住の竹内清治さん(仮名、69)は、20年ほど前にそば打ちにハマりました。料理や食べることにも興味はありましたが、忙しい仕事以外のことを何かやってみようと思ったのがきっかけ。

「凝るととことん凝る方で」と笑う竹内さん。まずはそばや麺類の本をたくさん買って独学で勉強。打ち台をしつらえて、麺棒や専用の包丁、そのうち石臼まで取り寄せて、粉からひいて。将来は畑でそばを育てようかというところまで考えていたそう。

「次は次は?とどんどんのめり込みました。最初は二八そば、次は十割そば、挽ぐるみと更科粉で裏表が白黒になるように打ったオセロそばや柚子そば、そば寿司にも挑戦して。自己満足だけど本当に面白かった!」

年末には年越しそばを打って、ご近所に配るのも恒例になりました。

そば打ちにのめり込んでいた頃。道具や粉にもこだわっていた。(竹内さん提供)
そば打ちにのめり込んでいた頃。道具や粉にもこだわっていた。(竹内さん提供)

ところが今から7年ほど前、急にその情熱が冷めてしまいます。準備や後片付けが大変で、凝っていた頃はそれさえ楽しかったのが、突然、面倒になったそう。

「理由は、当時はわからなかったのですが、ちょうど検診でガンが見つかって手術のため2カ月も入院しました。休んだおかげで体も精神的にも楽になりましたが、そばへの情熱はパタリと」

以来そば打ちは、ご近所に配る年越しそばと、たまに家族のために渋々打つだけとなりました。趣味ではなく特技なのだとか。

昨年には退職をして、心待ちにしていた読書や映画鑑賞がいよいよできると思っていたところ、やはり気力がわかず、何もできない日々が続いたと言います。「仕事も大好きで楽しかったけど、離れたとたんに趣味への熱も冷めてしまった。趣味と仕事ってエネルギー源が一緒なんでしょうか」としみじみ振り返ります。

それでも最近、また好奇心がわき始めました。今度は写真撮影です。「実は昔、一時凝っていて、望遠レンズで三脚構えて、天体撮影なんかもしていたんです。これからは古戦場巡りなどをしながら撮ってみたい。つい先日も西南戦争遺跡の塹壕に行って、ここに西郷軍が……と思いをはせていたところ」と声を弾ませます。旺盛な好奇心が、竹内さんの生活を豊かにしているようです。

脳梗塞で右半身麻痺 SNSからの発信で世界が広がる

大阪府在住の浅野幸伸さん(67)は、3年前に脳梗塞で右半身麻痺の後遺症を負うことになりました。利き腕交換のリハビリを行い、箸やパソコン、スマホの左手操作はマスター。目下の趣味はフェイスブックだそうです。

「外に出るのは誰かの手を借りなければなりません。家にいながら時代についていくための情報収集とアウトプットとしての日記代わりを、頭の体操を兼ねてやっています」と浅野さん。

まず投稿内容のネタ探しでネットニュースをチェックし、人に読んでもらう観点で話題を選ぶ。新聞などで裏付けも取り、自分の考えも添えて投稿文を書く。読んでもらえるよう文章は短めに、興味をひく表題や見出しもつけています。

「親しみを込めるためにも柔らかい表現にするために、文章を大阪弁に翻訳して書いています。朝一は“今日は何の日”的な話題、次は阪神タイガースなどの話題、昼は時事ネタや自分が『ちょっと問題ちゃう?』と思うこと、夜は願望も込めたグルメのネタ。仕事ではないけれど1日4~5本は投稿しようとノルマを課しています(笑)」

浅野さんが毎日、投稿するFacebook。日々のニュースをチョイスし、自分なりのコメントを関西弁で
浅野さんが毎日、投稿するFacebook。日々のニュースをチョイスし、自分なりのコメントを関西弁で

倒れたのは単身赴任先の名古屋でのこと。救急病院に運ばれた時は絶望しましたが、翌朝目覚めると朝日がよく入る病室だったので、生きられた喜びが沸き、不思議と救われたような気がしたといいます。

「第二の人生が始まったんちゃう?って。定年の65歳まであと1カ月というところでした。言ってみれば天からの二回目の寿命を授かった!と」

ほどなく新型コロナウイルスの流行が始まり、世の中は在宅勤務の時代に。それならスマホやパソコンはできるようにしておこうとリハビリに励み、友人のネットビジネスや新規事業企画を手伝うまでになったという浅野さん。もともと多趣味で、特に合唱は学生時代から続け、卒業後はOB合唱団や市民合唱団の団員としても活動していました。「歌唱の技術をどう磨くか、演奏会でどう喜んでもらうか、黒字を出す組織運営は……と結構、企業活動と似ていて。私の場合、仕事も趣味も同じなんですよね(笑)」

スポーツはできないけれど、たとえば野球観戦に夢中になる。モチベーションや戦略の立て方を見ていくとビジネスや組織作りの構想と重なり、やはり仕事と趣味の境目がなくなるといいます。

「体が動かせないから、別の喜びを見いだそうという思いが生まれました。体の不自由な人の気持ちもわかるようになって自分の世界が広がったという意味では、障害者になったことも悪くないです。楽しむことが大事。世の中って面白いなと感動することを大事にしたいと思っています」

オトコの“生涯現役”おおいに結構! 社会の役割を専門家が解説!

「何百万年もの狩猟採集時代以来、男性は“狩りに出掛けて獲物を家に持ち帰る”というのが基本的な習性です」と話すのは泌尿器科医の堀江重郎先生。外に出る、何かアクティビティを行って達成感・充実感を得る、というアクションは、男性にとってとても大事なことなのだと強調します。

堀江重郎先生
堀江重郎(ほりえ・しげお)
順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学主任教授
東京大学医学部卒。男性更年期障害など、男性ホルモンの低下に起因する疾患治療を行う「メンズヘルス外来」を立ち上げ、男性が元気にいきいきと生きるためのアンチエイジングを発信している。近著・共著に『LOH症候群』(角川新書)『男性復活!宇宙の進化と男性滅亡に抗して』(春秋社)などがある。日本抗加齢医学会理事長。日本メンズヘルス医学会理事長。

「そもそも男性ホルモンの代表格テストステロンは、意欲や冒険心、ボランティア精神、競争意識をはじめ、力強い筋力や骨格、認知力などの源です。男女ともに作られていますが、男性はテストステロン値が高い方が長生きであることがわかっていて、アンチエイジングの鍵でもあります」

そんな男性にとって目的があり評価を得られ、社会とつながる“仕事”は、想像する以上に重要だそう。そんな意味でも仕事に一応の区切りがつく定年後、趣味は重要な役割を果たしそうです。

「仕事と趣味の境界線を引く必要はありません。嘱託や非常勤でもいいのです。極端な話、無償でも仕事が続けられればそれにこしたことはない。同じように打ち込める趣味はもちろんよいですが、地域の集まりやボランティア活動で役割を持つなど、必ずしも遊びでなくてもいい。コミュニティーに参加することが大事なのです」

たとえばカルチャースクールなどで学ぶのもよいけれど、習得だけでなく発表の場があるとより意欲に火がつく。目標に向かって頑張って成果を発表。評価されたり一目置かれたりすればなおよし!

また、もう一つ大切なのは「友達」だそう。

「利害関係のない遊びを介した学生時代の友達の存在は重要です。仕事仲間の中ではなかなか現れない本来の自分が、彼らとの交流の中で見いだせます」

あえて“友達”といわなくても何となく人の輪を築くのが得意な人はいいけれど、そうでない人はある程度“大切な友達”を意識しておかないと孤独を感じ、ひいては認知症のリスクも上がると堀江先生は指摘します。

「仕事一筋で退職後、新たなコミュニティーに参加するのが心配な人は、配偶者と一緒に趣味を始めるのもおすすめです」

※前編を読む

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