見えない症状 混乱だらけの外出 それでも、ヘルプカードとともに
《介護士でマンガ家の、高橋恵子さんの絵とことば。じんわり、あなたの心を温めます。》
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認知症になる前から、大好きだったギャラリーに足を運んだ。
私の症状を知る店主さんは、驚きながらも喜んでくれた。
これをかばんに付けて、やっとたどり着けた。
赤地に、白の十字とハートが描かれた、
「ヘルプマーク」

帰りの電車は、座れなかった。
ヘルプマークを付けていても、
若く元気に見える私に、
周りの人も、声をかけづらいのだろう。
行きは、このマークを見た人に
席を譲ってもらったお陰で、
ゆっくりと降車駅を確認できたけれど……
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必死の思いで、なんとか帰宅した。
途端に、床に崩れ落ちた。
全身が重く、一歩も動けない。
きっと2、3日はこの状態が続くだろう。
それでもまた、私は出かける。
ヘルプマークをお守りに。
「優先席に座っていたら、周りの人に
『なんであなたみたいな若い人が座るのか』と注意された。
だから私は誤解を生まないために、ヘルプマークを付けています」
続けてこうも言っていました。
「確かに席を譲ってもらえたら、とても助かるんです。
でも、このマークが周りへの強制になったら申し訳ない」とも。
ヘルプマークは、外からはわからない障害や症状がある人が、
周りに援助や配慮を必要としていることを、
知らせるためのマークです。
今では多くの方に周知されるようになりましたが、
マークを付ける、当事者さんのお気持ちは様々です。
それでも、ヘルプマークを付けた方々が、
席を譲られることで得られる、安心やメリットは、
周りが思っている以上のことなのです。
長い間、立っているのが難しい人はもちろん、
認知症がある人であれば、
降車駅ひとつの確認でさえ、細心の注意が必要になることもあるからです。
自分がどこに向かっているのか、
そのために今なにをすべきか、
混乱なしに、明確でいられること。
それを交通機関を使っている誰もが、
容易にできているわけではありません。
「席を譲る」
その小さな親切は、
誰かの困難だらけの外出の、
大きな支えになっているのです。
《高橋恵子さんの体験をもとにした作品ですが、個人情報への配慮から、登場人物の名前などは変えてあります。》
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