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認知症が心配なあなたへ

サプリ?青魚の油?  30年の診療でわかった最も大切な予防法とは

会話をしながらみんなで散歩

大阪の下町で、「ものわすれクリニック」を営む松本一生先生によるコラム「認知症が心配なあなたへ」。認知症になること、なったことに不安を抱えているあなたの心を和らげるような、認知症との向き合い方、付き合い方を伝授していきます。今回のテーマは、多くの人が気にしていると思われる「認知症の予防」についてです。

世の中の健康ブームも手伝って認知症に対する関心が高まっています。どうすればいつまでも健康でいられるか、病気にならないかという雑誌の特集やテレビ番組は連日のようにあり、いろいろな情報を伝えています。

もし、現時点でボクがみなさんに「これだけに注意すれば、認知症の予防ができます」と言い切ることができれば、それに越したことはないのですが……。残念なことに今のボクは認知症専門医として「ぜったいにならない!」と言い切れる予防法を知りません。

そもそも予防って言われると、みなさんはどんなイメージを持つでしょうか。ある病気にあなた自身がならないようにする「個人的な予防」でしょうか。それとも、地域全体を考えれば、こういった生活をする方がその病気にならない人が多いという「集団での予防」でしょうか。ボクの印象では、今のところ認知症の予防には両者のバランスが大切だと考えています。

認知症にならないという保証を求める心

サプリメントよりも、運動や食生活の改善が大切

様々な研究結果からは、たとえばある程度の運動を続ける人が多い地域とそうではない地域を比べると、明らかに歩くことを中心にした運動を続けているほうが認知症の予防になっていると考えられます。また、脳トレーニングなどの限られたことだけではなく、広く地域の人々と接する機会が多い地域の人の方が、そうではない孤立した生活を送る人々の地域より認知症にはなりにくく、また、たとえ認知症になっても悪化を緩やかにすることができています。

しかし、多くの人は、「予防」というと、ある特定の個人が「あれとあれを守れば、絶対に認知症にはならない」という保証を求めているように思います。
もちろん、認知症はある種の慢性生活病とも言えます。そうしたことから、ボクも日々の診療では、個々人が認知症にならないように、なったとしても悪化しないようにするためには、次のような個人の老化を防ぐような努力が大切であることもお伝えします。

世の中では、背の青い魚の油は良いとか、こういったサプリメントが良いとか、様々な情報を聞いたことがあるかと思いますが、ボクは基本的には飽食を避けて、水分摂取制限がない限りは水分を取り、他人との交流を欠かさないようにすることが、認知症の予防のためには、効果があるとお話ししています。
認知症になりたくない気持ちのあまり、あれこれとサプリばかり買い求めて、その半面、自分の食生活を改善することなく運動しないようでは、決して認知症の予防にはならないからです。

最も大切なのは「他者との交流」 おびえて生活をするのはやめよう

さらには認知症の予防という観念が強迫的になってしまい、日々の生活を「とにかく認知症にだけはなりたくない」とおびえながら生活することはやめましょう。気にし過ぎの予防の概念がせっかくのあなたの人生を味気なく不安だけの生活にしてしまうこと、それこそ認知症予防のために最も避けたいことだとボクは思っています。

そして、ボクが30年間、認知症の当事者や家族に伴走する外来を続けてきた印象として、最も大切なのは「他者との交流」でした。もちろん他人と接するのが不得意な人もいますので、無理にとは言いませんが、高齢になって物忘れを心配してボクの診療所に来た人の中で、他人との交流を続けた人の方が明らかに一人でこもるような生活をする人に比べて認知症になりにくい傾向がありました。また、認知症になっていても悪化するスピードが確実に遅くなっていると実感として感じています。

今回のテーマ、認知症の予防についてボクは結論として以下のように考えています。すなわち、個人個人が日常生活を「どう生きるか」ということに注意しながら食生活や運動、そして人との交流に心がけながら過ごしている町と、そのような注意をすることなく漫然と日々を送る人々が暮らす町を比較すれば、明らかに前者の方が町全体として認知症になる人が少なくなり、もし、認知症になったとしても病気の悪化が緩やかになる。こういったイメージを頭に描きながら予防に取り組むことが大切だと思っています。

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