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認知症が心配なあなたへ

\新連載/認知症が「絶望的な病気」は誤解 専門医が向き合い方を伝授

認知症はなってからが勝負!

大阪の下町で、「ものわすれクリニック」を営む松本一生先生による新連載「認知症が心配なあなたへ」がスタートします。認知症になること、なったことに不安を抱えているあなたの心を和らげるような、認知症との向き合い方、付き合い方を伝授していきます。

コロナ禍が長らく続いていますね。高齢者が感染するとやはり重篤になることが多くなりますので、みなさんの中には「年をとるのは嫌だな~」と思っている人も多いはず。人間は年齢を重ねるといろいろなところが不調になりますが、最近の話題で見過ごすことができないのが認知症でしょう。

「認知症はいやですね。なったら終わりじゃないですか」と、よく外来診療をしていると聞くことがあります。発言の主がうちの診療所を受診した当事者(ご本人)であっても、認知症の家族を介護している家族介護者であっても、ボクは必ず次のように伝えることにしています。

「認知症はなったらおしまいといわれることが多いけれど、そうではありません。ならずにすめばそれに越したことはありませんが、もし、認知症になったとしても、それで終わりではありません。なってからが勝負です!」と。

この連載では、現役世代や高齢者になっても気が若く、まだまだ元気だと思っていたにもかかわらず、日々の生活の中で、ちょっとした異変に気付いて「え、私も認知症になるの?」と不安を感じたみなさんに、安心しても良いこと、注意しなければならないことを12回にわたってお話ししていこうと思います。

人間には2通りの人がいます。認知症にすでになった人と、まだなっていない人です。読者の中に認知症の当事者がおられることと思いますので、ボクはこのコラムを通して「認知症にはなったけれど、その後、とても経過が良かった人のこと」も積極的に書いていきたいと思います。

治すことができないのは、医療の敗北?

ボクが医者になったころ、もう30年も前のことですが、大学医学部の同窓会に参加した時、次のように言われたことを思い出します。「え? 松本さん、精神科に行って認知症専門医をするんですって? 松本さんは歯科医になったあと、さらに勉強をして医者になったのに、なぜ希望が全く持てない認知症なんかを専門にするのですか?」

何と偏見に満ちて絶望的な意見でしょうか。外科系の科目に進んだ同級生の目からすれば、メスで一刀のもとに患部を切り取ることで病気を治す外科は本当の治療である一方、認知症は悪化することが避けられないために、治すことができない=医療の敗北といった図式に見えたのでしょうか。

でも、考えてみてください。世の中には、完治することこそできないけれど、その病気と上手に付き合っていくことで、その人の人生を全うすることができると考えられる病気はたくさんあります。たとえば高血圧症があったとしても、その病気になったことで決して人生が終わったと思うわけではありません。糖尿病も全身の血管を悪くしますが、その病気になったとたんに「人生はこれで終わりだ」とは思わないはず。世にいう慢性疾患とはそういうものでしょう。

先に光りが見えないというのは誤解 早期治療で社会復帰できることも

これはボクたち精神科医がよく経験することですが、あらゆる病気の中で精神面や行動面に変調をきたす病気、例えば精神障害などに対して、世間一般は否定的なイメージを抱きがちです。けれど、「精神面の病気になったら人生は終わりだ」などと考えずに、早い段階で適切な治療を受け、その後のリハビリを続ければ、社会に復帰することができるというのが現実の姿です。

こうした精神障害などの病気と違い、認知症は時間の経過とともに悪化していくという特徴があります。このため、年をとることによる老化で能力が低下するイメージと病気の進行が重なるために、より一層、先に光が見えない病気であるとの誤解が生じやすくなるのかもしれません。

様々な人が暮らす街

長期間、悪化させることなく、地域や家族と人生を送る人も多い

でもね、ボクがこれまで30年間に診てきて、認知症の治療を始めて通院歴が10年を超える人は、担当した9800人(2022年2月時点)のうち4000人を超えています。このうち3人は、通院歴が20年以上です。認知症の症状が出始めても決して絶望することなく、認知症と付き合っていくことで20年以上の長い期間、急激な悪化をすることなく経過した人たちです。

この3人のうちの1人の方は、認知症であることを自ら知りながら、それでも近所の友人との生活をできるだけ続けて、家族とも人生を送ることができています。

だれもが認知症にはなりたくないと思うこと、それは当たり前でしょう。しかし、認知症を怖がりすぎるゆえに「なったら終わり」と考えてしまったとすると、この方は、地域や家族と過ごすことができた20年の月日を自ら放棄してしまっていたかもしれません。

認知症になればできなくなることもある一方で、できることもたくさん残ります。認知症が心配なあなたにこそ「なってからが勝負、どのような考え方をするのが良いか」ポイントをこれから伝えていこうと思います。

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