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シェアハウス、3世代同居……高齢期の住まい 今から考える備え・後編

シェアハウスの場所候補として思い描いている長野県の松本で、大久保さんが好きな場所のひとつ松本民芸館の2階の窓から撮ったもの(大久保さん提供)
シェアハウスの場所候補として思い描いている長野県の松本で、大久保さんが好きな場所のひとつ松本民芸館の2階の窓から撮ったもの(大久保さん提供)

高齢期の住まいを考える際には、「誰と暮らすのか」も重要なポイントとなります。なかまぁる編集部が行った「高齢期の住まいに関するアンケート」回答者インタビューの後編は、新しい住まい方の一つである、気の合う仲間と暮らす「シェアハウス」や、昔ながらの3世代同居について考えます。また、高齢者の住まい選びに詳しいシニアの暮らし研究所代表・岡本弘子さんに準備を進めていく際に重要なポイントを聞きました。(前編はこちら

将来を語り合える仲間たちと 元気なうちからシェアハウス計画

東京都杉並区在住の大久保智美さん(48)=仮名=は仕事関係の勉強会で出会った気の合う仲間10人くらいと、シェアハウスで暮らそうという計画を立てています。「仲間は独身や結婚していても子供がいない人ばかりで私も未婚。将来、親を見送って、いろいろな制約もなくなった後はたぶんひとり暮らしになる。同じような将来の悩みや希望を持ち、共通の趣味や関心事でつながっているこのご縁はずっと続いていくだろうから、年を取ってからも一緒に楽しくやっていけたらいいねと話しているんです」という大久保さん。

具体的に物件を検討するような段階ではないものの、共同の広いキッチンやリビングがあり、プライベートな寝室は小さくて荷物は必要最低限、仕事やひとりの時間も大切にしながら、余暇には仲間と外出したりおいしいものを囲んだり…とイメージを膨らませています。「場所は東京からは少し離れて、都心へのアクセスもさほど苦労がなく、直接地域のおいしい産物が手に入るようなところ。たとえば以前旅行で訪れた城下町、長野県の松本などは憧れです。私は個人事業主で定年がないので、高齢になっても少しの収入をキープしながら暮らしていくのが理想です」。

課題はまずお金。でもこれは、かかる費用をしっかり算出し、自分の収入や資産と折り合いをつけながらすべきことをするだけ。もっと問題になりそうなのは思い描く理想の裏にある現実だと大久保さんはいいます。「以前、テレビ番組で高齢の女性ばかりのシェアハウスを取材していたのを見たのですが、不安だから一緒に、互いに看取りをと暮らしをシェアしたものの、やはり他人同士。小さな不一致が出てきて理想通りにはいかない実態が取り上げられていました。今の私がイメージするのと高齢になってから住むシェアハウスは違うのだと思う。ただこのあたりのことも仲間とはよく話すのです。一緒に暮らす難しさは一緒にいない今でもこれだけ想像できるのだから、相当しんどいはず。それでも乗り越えたいよねとも話しています」。

4年前に実父が亡くなり、今は実母(76)が実家でひとり暮らし。これから母親の終(つい)のすみかを考えるところです。大久保さんと同年代の友人たちからも老親の施設探しや見学の話を聞くようになったといいます。「母は動けるうちは自宅にいたいといいますが、動けなくなってから施設を検討して移るとしたら、その先で人間関係を一から作るのが大変そう。それを考えても私のシェアハウス計画は60代には実現していたい。元気なときからシェアする生活になじんで、一緒に老い衰えていくのがいいと思っています」。

自分も経験した3世代同居を 自宅で実現したいけれど……

玄関スロープ。道路から玄関まで10段ほどの階段を上る。手すりがあるものの高齢になってからの生活を考えると難点のひとつ(石倉さん提供)
玄関スロープ。道路から玄関まで10段ほどの階段を上る。手すりがあるものの高齢になってからの生活を考えると難点のひとつ(石倉さん提供)

横浜市に住む石倉良子さん(59)=仮名=は現在、同じ北海道出身の夫(67)と次女(28)の3人暮らし。夫の転勤で京都にいる長女(30)も結婚当初は夫とともにこの家に同居し、5人のにぎやかな住まいでした。「私が子どもの頃は祖父母が曽祖父母の家に暮らし、私の両親も祖父母と一緒に住んで老いてからの面倒を見ていました。そんな風景を見て育ったので、娘たちのどちらかが自分の家族と一緒にここに住んで、子どもが生まれて…というのがこの家で実現できるといいなと思っています」という石倉さん。

自宅は10年前、北海道にいた実母が亡くなり、ひとりになった実父を呼び寄せるタイミングで購入した一戸建て。物件を探したとき80を過ぎた父親の暮らしを考えて、今の家の室内に手すりや足元灯がすでに設置してあったことが決め手になったといいます。さらに室内段差をなくすリフォームも行いました。「母を亡くした喪失感からか、父は二つ返事で横浜に来てくれて家族に囲まれた生活を喜んでくれていたのですが、しばらくすると北海道を恋しがる言葉も聞かれるようになりました。なじみのない街に来てちょっと寂しかったのかな。昔は『子や孫が親の家に同居』だったけれど、今はこうして親の方が子供の生活圏に行くことになるんですね」と感慨深げに語ってくれました。

自宅の購入時、すでに設置してあった手すりや足元灯。階段の壁際にすき間なく巡らされた手すりがお気に入り。高齢の実父の日常におおいに役に立った(石倉さん提供)
自宅の購入時、すでに設置してあった手すりや足元灯。階段の壁際にすき間なく巡らされた手すりがお気に入り。高齢の実父の日常におおいに役に立った(石倉さん提供)

5年前に父親が他界。かつて父親を支えた手すりや足元灯が、今は足元が少し心配になり始めた石倉さん夫婦の助けになっているそう。「父はホームヘルパーさんもお願いしていてとてもよかったので、要介護になっても介護保険サービスや自治体の支援などを利用しながら自宅に住み続けるということもできるかなと思っています。ただ娘たちの人生のなりゆきで同居がかなうかどうかはわかりませんし、もし私か夫のどちらかひとりになったとき、この家にこだわって独居を通すのは精神的に健康なのか?とも思います。実は最近、新聞折り込みなどに入って来る近隣の高齢者住宅の広告を気にして見ています。この家を売ってそういった施設に入ることも、この地域で暮らし続ける方法のひとつかなとも思うのです」。

北海道の実家で実母が亡くなったのは浴室と脱衣所の温度差が原因だったので、浴室暖房はこだわって設置(石倉さん提供)
北海道の実家で実母が亡くなったのは浴室と脱衣所の温度差が原因だったので、浴室暖房はこだわって設置(石倉さん提供)

高齢期の住まい、理想や本音は大事 でも自分の状況を客観視する目を持って

アンケートでも多くの人が「現在暮らしている住宅」で高齢期を過ごしたいという回答でした。長年かけて培い、なじんできた地域や家での暮らしが高齢になっても続いてほしいと思うのはみんなの願いなのかもしれません。しかし身体が衰えたり病気になったりして現実には難しいことも老親の姿を見て学んでいる人も多いようでした。

有料老人ホーム・高齢者住宅の紹介センターでお客様相談室長として1万件以上の入居相談を受けてきたシニアの暮らし研究所代表の岡本弘子さんは、住まい方や住宅の種類などの選択肢を挙げることより、まず自分の状況を『自己診断』することをすすめています。「今、高齢者住宅の市場も非常に多様化していて個々の物件の内容もさまざま。たとえば有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅といった種類から考えてしまうと自分にとってよい住まいにはなかなかたどり着けないかもしれません。そして今元気な人が、これかどう衰えるかを想像したり、住み替えの時期を想定したりするのは難しい。だから考えが漠然とするのです」と岡本さん。自分の今の住まいについて以下の5つの項目を考えてみてほしいといいます。

今の住まいについて考えておくべき5つの項目

住んでいる家の形
フラットなマンションか古い戸建てか、段差や階段はどのくらいあるかなど。加齢の変化によってどの程度支障がでてくるか。
周囲の環境
駅やバス停までの距離、徒歩圏内にスーパーマーケットや銀行、いろいろな手続きができる窓口など生活に必要な拠点が揃っているか。住環境としての生活のしやすさ。
医療・介護の拠点
住んでいるエリア内の通いやすい範囲の中に複数の医療機関、介護事業拠点がどれだけ整備されているか。高齢期特有のポイント。
マンパワー
家の近くで人の手助けをどれだけ借りられるか。子供や親族をはじめ、身内以外でも助けてくれる人がいるかどうか。高齢期にはかなり重要。
お金
年金収入、預貯金・不動産などの資産がどのくらいあるか。いろいろな不都合もお金で解決できることも多いので、将来的な上限も含めて把握しておくべき。

シニアの暮らし研究所ではこれらの項目について細かく聴き取り、5段階にわけて評価することで、加齢に伴い『今の住まいでいつ頃支障が出て来るか』『リフォームや介護サービスにどのくらい費用が割けるか』『いつ頃、どんなリフォームが必要か・可能か』『どんなところに住み替えができるか』といった具体的なことが見えてくるそう。高齢期の住まいを考えるのは、実はここが出発点なのだと岡本さんはいいます。

「人生100年時代。60、65才を高齢期の出発点と考えると40年近くあります。その間にも元気な高齢期、要介護期と変化します。身体的な衰えや病気は『万一』ではなく、『そうなる』。そうなったときにどんな対処ができるか、家のハード面だけでなくマンパワー、お金などできるだけ具体的に想定しておくことが大切です」

※前編はこちら

岡本弘子
岡本弘子
シニアの暮らし研究所代表 高齢者住宅アドバイザー
18年におよぶ高齢者住宅の入居相談経験をもとに、新聞・雑誌・WEBコラム等の取材や執筆をはじめ、年200回以上の高齢者住宅セミナーで講演。「岡本弘子の入居相談室」では丁寧な対面相談で入居サポートを行う。一般社団法人日本シニア住宅相談員協会の代表理事を務め、優良なシニア住宅相談員の育成にも注力している。監修本に『これ1冊で安心!高齢者施設の費用・選び方・手続きのすべて』など。消費生活アドバイザー、消費生活専門相談員、福祉住環境コーディネーター

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