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生き様が表れる「人生のしまい方」 話し合う過程は、家族の集大成

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実家にある大量の衣類の整理も始めた(平野さん提供)

親のこと、どのくらい知っていますか? 資産、保険、終の棲家……親が老いて支えが必要になった時のために知っておかなければならないのに、聞き出す多少の気まずさも否めません。どう聞き出すか、どうコミュニケーションをとるか、「実親の重要な情報に関するアンケート」回答者へのインタビュー後編です。介護の現場で多くの家族を見てきた、特別養護老人ホーム サンシャインつくば施設長の坂本雅子さんにもアドバイスをいただきました。
※前編はこちら

父の終活を後押し「孫に仕事を残さないで」

東京都八王子市在住の平野麻衣さん(58)は、近くに住む実父母の終活を手伝っている真っ最中。それには先に見送った義父母のことが大いに参考になっているといいます。
「義父は不動産業を営んでいたのですが、ワンマンな人で資産や保険のことに家族を一切関わらせなかったんです。しかも夫の兄弟はあまり仲がよくありませんでした。義父が亡くなった時は、銀行の通帳や保険証券などを探すところから始め、遺産相続が本当に大変でした」
その後、ひとり暮らしになった義母は認知症が進み、郵便物、書類の処理もままならなくなったものの、家の中の片付けを拒絶。雑然とした玄関で転倒したことがきっかけで長く入院し、亡くなったそうです。半世紀分の荷物がぎっしり詰まった家を処分して土地を売却するまでに、片付け作業の苦労はもちろん、数百万円もの費用がかかったといいます。

少しずつ始めた実家の片付け。父が最後まで渋ったピアノはクレーンで搬出した(平野さん提供)
少しずつ始めた実家の片付け。父が最後まで渋ったピアノはクレーンで搬出した(平野さん提供)

「義父母の最期を見送って、人生の終わりにどんなことがあるか、どんな手伝いができるか、学ばせてもらいました。心の準備もできた」としみじみ語る平野さん。実父(87)、実母(79)は2人とも元気ですが、4年ほど前から終活を開始したそうです。
「私は両親とは仲がよいので終活の話もざっくばらんにできました。ちょうど我が家の建て替えでしばらく実家に同居させてもらう機会があったので、じっくり話せたんです。まずは預貯金や保険の話から。特に保険はひとつひとつ内容を一緒に確認しながら『これ80才以上に必要?』『お父さんは自転車に乗るからケガの保障はキープ』などと検討。保険プランナーにメール相談もしました」

「終の棲家は自宅」という両親の意向を聞き、年を取っても安全に暮らせるようリフォームも始めたそうです。義母の転倒事故が教訓だといいます。
「リフォームのための片付けや不用品の処分は曜日を決めて通い、小まめに進めていますが、どうも父の腰が重かったのです。特に私が子どもの頃に買ってもらったピアノは頑として処分を許しません。
そこで“説得にはストーリーが必要”とかいうビジネス術を応用して、『この業者は引き取ってから修理して海外に寄付をしている。大事に引き継がれるんだよ』と説得(笑)。それに『私ももうすぐ60歳。今、片付けないと息子の代にやらせることになる』と言ったのはかなり効いたよう」と平野さん。やはり孫には迷惑をかけたくないようですね。

家族会議で預貯金を一本化。見事な母の終活

「母は私が子どもの頃から、人の終末期のことを食卓を囲んで普通に話してくれていました」と話すのは栃木県在住の市川薫さん(51)。
父親は40年前に死別。母・敏恵さん(80)は30代から60代まで家政婦をしながら兄2人(55歳と53歳)、弟(49)の計4人きょうだいを育て、今は茨城県でひとり暮らしをしています。
「母は脳梗塞や認知症の人の在宅療養をずっとお世話して、介護や延命治療のこと、遺産相続のことなどで揉める家族の生々しい姿を見てきました。まさに『家政婦は見た』です(笑)。自分は絶対に家族を困らせたくないと思っていたようです」
そして「人工呼吸器などの延命治療は不要」と、家族よりも先に伝えていたのは長年通っている主治医。実は、看護師である市川さんの元・勤め先の医師でもあります。ここを受診するたび「延命不要のことをカルテに書いておいてください」と言っているそう。

そんな敏江さんが10年前、子どもたちを集めて家族会議を開きました。体力の衰えを感じ、身辺整理を始めたというのです。家中の不用品を捨て、必要最低限のものだけにしました。そして銀行や郵便局、定期預金などいくつかあった口座を1つにまとめたといいます。子どもたちに自分の家計状況を共有してもらうためです。
「通帳を見れば母の総資産、引き落とし先からどこの保険に入っているか、どんな契約をしているかも一目瞭然。『この通り、財産はたくさんないから期待しないように』と言い、さらに自分の葬式代は兄名義の口座で用意していたのです。我が母ながらしっかり者、すごいと思います」

もうひとつ敏江さんの素晴らしい点は、たくさんの友達を作ったことでしょう。近所にはおかずをやり取りする人、薫さんに敏江さんの様子を電話してくれる人などに囲まれていて、独居でも安心。薫さんとの電話の話題ももっぱらご近所さんのことだとか。
「母は最期の時を病院で迎えたいと言っています。理由の一つは、いちばん近くに住む私に迷惑をかけないようにという気遣いだと思いますが、その病院には延命不要を伝えている主治医がいて、併設する老健施設でボランティアをしていたことから30年来のつきあいのスタッフもいて、母の第二の我が家のような場所なのです。見事な終活。母の生き方を手本にしたいと思っています」

親子で“人生のしまい方”を語り合い

親が老いて子供が支えるようになるのは自然の流れのようでいて、どこか気まずさもあります。「今は核家族が多く、親世代も子ども世代もお互いに独立して離れて暮らしていることがほとんど。親を支えるにあたって必要な情報を得るためにも、気遣いや工夫が大切です」と話すのは、特別養護老人ホーム サンシャインつくば施設長の坂本雅子さん。
たとえば、聞き方を間違えると「遺産狙いか」などととんでもない方向に話がこじれてしまう事例もあるそう。いきなり情報を聞き出すのではなく、家族で共有しておきたいことをていねいに伝え、しっかりと確認し合うことが大切。また「いろいろなことがあったね、あの時はお金がかかったね」と親子の歴史や思い出話の延長線として切り出しては、とアドバイスします。

老親を支えるために必要な主な情報

お金
生活費や医療費、介護費のほか、希望する老後の住まいにも関わります。預貯金や年金、住まいの価値も含めた総資産、通帳・印鑑などの保管場所の把握も必要。

保険
今はいろいろな加入方法があり、老親が知らずに無駄な保険に加入していることもあるので内容も要チェック。証書類の保管場所も確認。

住まいの希望
人生の終わりをどこで過ごしたいか。長年住んだ自宅か家族の近くの高齢者施設か。最期を迎えるのは病院でもいい? どんな介護を受けたいかにも関わってくる。

キーパーソン
きょうだいがいる場合、介護や医療の窓口を主導する人を誰にするか。介護する人とお金を管理する人が別なら、充分な意思疎通を。本人が望む介護や医療、そのためのお金があるかどうか、両面から支えることが大事。

「情報の収集というより“人生のしまい方”を一緒に考えると捉えてほしいですね」と坂本さん。
家族が親のことを決めるのではなく、親を含めた家族みんなが意見を出し合う。考えは都度変わるものでもあるので、一度きりではなく折々に話す。具体的なことだけでなく、人生をどんなふうに終わりたいかというイメージをみんなで共有する。決して何かを決定する会議ではなく、話し合える家族の土台作りこそが重要なのだと力説します。
前編の“終末期の意思”の話し合いについても、岩切理歌医師が同じように、結論を急がない話し合いの大切さを説いていました。
「こうしてよく話している家族は、介護生活も終末期も何があっても幸せ。でも親の終末が近くなってからでは、だんだん難しくなります。できるだけ早く始めましょう」

ところで家族の話し合いには言い出しっぺが必要です。親のことが心配になる子ども世代、実は筆者もそうですが、自身の老いも切実になるお年頃。親の人生のしまい方を支えながら、次は自分の番なのです。そして次世代にも伝えていく立場。ぜひ話し合いの言い出しっぺを担いましょう!

認知症の母をもつ筆者のケース

実は筆者も老親の終末期の選択に直面しています。とはいえ今すぐ生きるか死ぬかという局面ではありません。昨年末、年1回の長寿健診で徐脈性不整脈を指摘され、心臓専門クリニックで検査を受けたところ、洞不全症候群の診断。心臓機能が低下していてこの先、肺に水がたまり苦しい思いをしたり、心不全になる可能性も高いと言われました。

87才、アルツハイマー型認知症と診断されてからまもなく10年。私の近所のサービス付き高齢者向け住宅に暮らし、もの忘れなどの症状は進行していますが、週1回のデイケアや散歩、美術館巡りなど好きなことを前向きに楽しんでいます。これまでの健診ではどの項目も概ね良好、健康そのものだと思っていたのです。それでも日本女性の平均寿命に並び、確実に身体が老い衰えているという事実を突きつけられた思いでした。

進行してきた場合はペースメーカーという治療法があるとのこと。医師は「ペースメーカーという延命治療をする選択もあるし、もう高齢だから自然に任せるという選択もありますよ」と穏やかに話してくれました。ペースメーカーのことは知っています。でもそれが延命治療なのだと認識したのは初めて。もしかしてこれは終末期の選択ではないか……。

驚いたのは、私が医師“延命”という言葉にウッとひるんだ隙に、一緒に説明を聞いていた母が「ええ、やります!」と力強く即答したことです。最近は会話のバリエーションも激減してきた母が、です。もちろん医師の説明をよく理解した上の答えではないでしょう。で“自然に任せる”のは違う、自分は受け身ではなく能動的に攻めの姿勢で行くぞ! もっと生きたい!という意思表明かもしれない。芯の強いところがある母らしいとも思いました。

恥ずかしながらきっかけを作れず、今まで母と改まって終末期のことを話したことがありません。今回の診断には狼狽えるばかりで娘としての結論はすぐに出せそうになく、やってみたのが経験者の話を聞くことです。

10年来、ペースメーカーを使っている友人の夫(90)は「とても快適。元気が出る」と、趣味の絵画にも精力的。一方で、高齢の母親がペースメーカーを使い長命は得られたものの「なかなか死ねないとこぼしていたな(笑)」と複雑な思いを吐露した知人もいました。延命は本来の寿命に抗うこと。抗わない信念を通すも人生、医療技術が進んだ今を生きる者として、苦痛と生きる喜びを両方背負うのもまた人生。そして本人の意思は最重要としても、家族の人生にも大きく関わりますね。正解も不正解もない、さて母はどうするか。認知症があると意思や本心を確かめるのが難しい面もありますが、母の人生に思いを馳せ、私の気持ちも伝えながら、伴走していきたいと思っています。

※アンケートにご協力いただいた人物名は仮名です

※前編はこちら

社会福祉法人聖朋会「特別養護老人ホーム サンシャインつくば」施設長の坂本雅子さん
坂本雅子
社会福祉法人聖朋会 特別養護老人ホーム サンシャインつくば施設長
茨城県内の小中学校で教諭を務めたのち、介護・人材育成研修の講師として次世代育成に貢献。茨城県認知症介護指導者、介護支援専門員研修講師なども務める。社会福祉士、主任介護支援専門員。

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