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孫のひと声 わが家はこうして成功した 親の免許返納 体験者の声・後編

運転する人。気持ち良い免許返納のためには、親が長い人生の中でいかに車、運転を愛してきたかを知り、車を使わない新しい生活スタイルを応援することが大切そうです

「親の運転免許返納に関するアンケート」の回答者インタビュー後編。気持ち良く返納してもらえた事例を紹介します。交通事故被害を出さないためにも親本人の安全のためにも、車の運転はやめてほしい。でもそのためには、親が長い人生の中でいかに車、運転を愛してきたかを知り、そして車を使わない新しい生活スタイルを応援することが大切なのかもしれません。前編に引き続き、いろいろな家族の例を参考にしながら我が家の免許返納問題を考えましょう。

「じいちゃんの車にはもう乗らない!」

新潟市在住の細道奈穂子さん(58)の父・晃さん(85)は今年9月5日、免許返納をしました。今年10月30日の免許更新期日を目標に定め、晃さんが更新準備を始める前に気持ちを変えさせようと、およそ1年をかけた『運転免許返納大作戦』を敢行したそう。
「交通事故の報道など、事あるごとに『危ないよね』と声を掛けました。あまり悲惨な事故のときに畳み掛けるように言うのは逆効果だと思い地道に地道に(笑)。でもいちばん力になってくれたのは孫たち(菜穂子さんの弟の子)です。小さい頃から遊びに来るたびにじいちゃんの車で送ってもらっていたのが『もう乗らない』『危ないから運転しないほうがいいよ』と、真剣に言ってくれました。これは作戦ではなく、彼らなりに祖父を心配していたのだと思います」

リュック背負ってバスカード持って新たな門出

免許返納当日、細道晃さんは運転経歴証明書を持って記念写真を撮影!(細道菜穂子さん提供)
免許返納当日、細道晃さんは運転経歴証明書を持って記念写真を撮影!(細道菜穂子さん提供)

晃さんにも返納に至った気持ち、返納後の心境を聞いてみました。
「孫たちに『じいちゃんの車には乗らない』と言われたのはショックだったけれど、きっとみんなの代弁をしているのだろうと、返納の決定打になりましたね。それでも仕事で40年以上車に乗ってきて自分ではまだ運転できる自信があるから、やめると決めた後も何か腹立たしいやらイライラするやら落ち着かない。運転して自分の思うように動いていたことを思い出す。そんな自由を奪われた気持ちなんです」

そう吐露しながらも気持ちは前を向き始めているよう。車でしか外出したことがない父のために、奈穂子さんはバスカードと時刻表やバス停を書き込んだ地図を用意しました。
「娘が120%協力的でバスの乗り方の練習につきあってくれたり、行きたいところに車で送ってくれたり。孫たちにはリュックを買ってもらったので背負って出掛けています。テレビでやっている『初めてのおつかい』みたいですよ(笑)。自分ひとりではこうはいかなかった。これでよかったと思っています」

免許センターで歓迎されて気持ちよく返納

新潟市在住の布施真由美さん(61)の母・チヨさん(85)が免許返納をしたのは70代後半。その10年ほど前に自家用車を廃車にして以来ずっとペーパードライバー。身分証代わりにしていた運転免許証の更新のタイミングで勧めました。
「更新のたびにお金を払い、時間を取って講習を受けるより『返納すればタクシー券や身分証になる運転経歴証明書ももらえますよ』とメリットを強調したのがよかったみたい。手続きした免許センターでも高齢者の気持ちに寄り添う歓迎ぶり。『運転経歴証明書は今日のお若い顔写真のままで生涯使えますからね』って(笑)。母も大喜びでした」

一方で7年前に他界した父・信治さんの免許返納は少々苦い思い出です。70代後半の頃、心臓の病気で入院中に、真由美さんが代わって返納手続きを行いました。
「高齢と病気で運転どころではなかったのですが、返納すると父はふてくされて面会に行っても口もきいてくれなかった。ちょうど車も廃車にしたのですが、それでも父は車に乗りたがるので、馴染みの車のディーラーさんには『今、手頃な車を探しています』と言い続けてもらったほど。諦めるまでに2年はかかりましたが、私の運転であちこち連れて出掛けたとき、『よく道を知っているな』と言ってくれたのを懐かしく思い出します」

衰えたからではなく孫のためにひと肌脱いで

東京都町田市の黒柳素子さん(52)は介護職の仕事で多くの高齢者に接する中で、人のプライドを尊重する大切さを身に沁みて感じているそう。父親(81)の免許返納も「危ないからやめて」といった一方的な説得ではうまくいかないだろうと思っていたといいます。
「ちょうど息子が地方に進学することになり、父に車を譲ってほしいと頼んでみました。まずは車との距離を作ろうと思ったのです。悩んだようですが、母も後押しして承諾してくれました。自分が衰えたからではなく、孫のためにひと肌脱ぐ形にしたわけです」

車を手放した後も車の維持費とタクシー代の比較、車で食事に行くとお酒が飲めないといったデメリットを丁寧に説明し、2年近くかけて話をしていったといいます。
「車がない状態を支えるために私が頻繁に訪れて車を出したりして、免許がなくても快適で楽しく過ごせることをわかってもらい返納にこぎつけた感じ。とはいえ父も心の底では返納すべきと考え、どこかで私たちの思いにも気づいていたんじゃないかな」

「自動運転技術が進めば、高齢を理由に一律に車を手放さずにすむ時代も近いね」
と、黒柳さんは自分たちの時代の返納問題についても夫と話し合っているといいます。親の返納問題に向き合いながら、日々進歩する車の性能や制度にも注目し、近い将来の私たちの運転生活のことも考えていきたいものです。

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