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「一生運転するな」遺言残した義父 親の免許返納 体験者の声・前編

免許返納を検討する夫婦。高齢ドライバーによる事故が世間を騒がせ、「返納したほうがいい」とわかってはいても、実際には踏ん切りがつかず、悩んでいる高齢者、家族は多くいます。

高齢ドライバーによる事故が世間を騒がせ、「運転免許を返納したほうがいい」とわかってはいても、そう簡単じゃないのが人の情。実は、筆者もかつて、亡父の起こした小さな事故に怒り、無下に免許を取り上げたことがありました。後から父の長い運転人生を思い、ズシリと自責の念が残りました。みなさんは、親の運転免許の返納について、どのように対応されているのでしょうか? 10月15日~11月1日になかまぁる編集部が実施した「親の運転免許返納に関するアンケート」の回答者にインタビューしました。みなさん、“あの手この手”“喜こもごも”のエピソードを参考に、免許返納問題を考えてみましょう。

優良ドライバーの父がまさか……違反をきっかけに認知症が判明

埼玉県川口市の谷田部千春さん(48)の父、幸次さん(81)はまじめで明るく社交的。車で得意先を回る仕事が生き甲斐でした。18歳で運転免許を取得して以来63年間無事故無違反、地域の交通安全活動にも長く携わっていました。そんな幸次さんが今年6月、人生初の信号無視違反を起こしたのです。
「この違反により『認知機能検査』を受けたところ、認知症のおそれがある第1分類判定。3カ月以内に自主返納か医師の診断書提出かの二択を迫られました」と千春さん。

【認知機能検査】
2009年6月から、75歳以上のドライバーは、運転免許証の更新期間満了時に行われる高齢者講習前に認知機能検査を受けることになりました。
第1分類(認知症のおそれ)
公安委員会指定の医師の診断、または主治医の診断書の提出が必要。認知症が判明した場合は聴聞などの手続きの上、運転免許取り消し、または停止となります。
第2分類(認知機能低下のおそれ)
第3分類(認知機能低下のおそれ無し)
の3つで判定されます。
2017年施行の道路交通法改正では、75歳以上のドライバーが信号無視など特定の交通違反をした場合にも臨時の認知機能検査を受けることになりました。
警察庁の「認知機能検査について」の解説はこちら。

苦渋の選択で医療機関を受診し、幸次さんはアルツハイマー型認知症と診断されました。その結果、運転を続けることは難しくなりました。

「自主返納か取り消しを待つか。無事故無違反が自慢の父ですから、娘としては取り上げられるのではなく『自分から返したよ』と胸を張ってほしかった。なかなか返納の決心がつかず、父娘ともつらい数日間でしたね。でも最後は更新期限間近の10月29日、警察署に出向いて自主返納を果たしてくれました」と千春さんは胸をなでおろしました。これで、一件落着と思いきや……。

これからの人生、どうなっちゃうんだろう……落ち込む父

『車の免許を(幸次)返納した。運転は出来ません!!』谷田部幸次さんが免許返納後、自分に言い聞かせるように書いたメモ(谷田部千春さん提供)
谷田部幸次さんが免許返納後、自分に言い聞かせるように書いたメモ(谷田部千春さん提供)

車を失うと同時に、生き甲斐だった仕事も失った幸次さんはすっかり憔悴。「返納したら終わりではなく周囲の見守りや支えが大切。そしてそれが思いのほか大変」と千春さんは強調します。
返納後1カ月目の幸次さんにも話を聞くことができました。
「40、50年来のお客さんに迷惑をかけるのがつらいですね。今の時代、私の年で運転はやめるべき……と娘ともよく相談して返納したんですが、これからの人生が不安です。新たな楽しみ? 今はまだ運転をやめたことで頭がいっぱい。こんな気持ちをどう切り替えていくか模索中です。まずは店番でもするかな?」しみじみと、でも朗らかな声でした。

三者三様の免許返納、義母のきっかけは夫の遺言

北海道で暮らす50代の女性は車が生活の足。冬の雪道は地元の人も運転を控えるほど危険。やはり高齢ドライバーにはリスクが大きく免許返納問題も切実だそう。そんな中で女性は両親と義母、まさに三者三様の免許返納問題に寄り添いました。

義母(79)は、55歳のときに突然運転免許を取りたいと言い出し、教習所で悪戦苦闘の末に取得。札幌市内でも都市部に住み、差し迫る必要もないのに挑んだ理由は「運転できないのは大人じゃないから」。ところが取得後1~2年のうちに3回も全損事故を起こしたのです。「本人が大けがをしなかったのが幸い」と祥子さん。そのうちに車の話題も運転もしなくなったそうです。けれど、免許は持ち続けていました。
その後、実は人知れず自主返納していたことが分かります。それが、14年前に義父が亡くなったときでした。「義父は会社のお抱え運転手で丁寧な運転で定評がある人でしたが、義母を見かねて遺言を残していたのです。『お前は一生運転するな』って(笑)」

車を買い「人生が3倍楽しくなった」と話していた実母が脳卒中に……

一方、70代の実母は33歳で運転免許を取得。「母が免許を取り、パートのお金を貯めて自分の車を買ったときは本当に嬉しそうでした。好みのインテリアにしたり習い事の友達を送迎してあげたり。私とは交代で運転しあいながら温泉にも行きました。『人生が3倍楽しくなった』って」

それが61歳のとき脳卒中に。四肢の麻痺は残らなかったものの行動抑制が効かなくなる脳血管性認知症を発症し、在宅で1年、老健を経て今も入院中です。
「病気になってからも『運転したい』『免許更新しなくちゃ』と言い続けているのが切ないです。母の状態は理解できるけれど、娘としてはまだ受け止められない。車は母の希望です。実はもう愛車は処分して免許も失効したのですが、認知症で時間感覚が曖昧になっているのを幸いに『まだ更新の年じゃないよ』と伝えています」

免許自主返納で“よき老人”として生きる!

女性の90代の実父はちょうど妻が病に倒れた頃、「ブレーキを踏むタイミングがわからない」「景色が変わる速さについていけない」と運転の不安を言い出しました。実父が78歳の時でした。元教員でプライドが高く、自ら運転を諦めるとは思えない実父の免許返納をどう切り出すか、思案に暮れていたときのことです。
「父の不安は、私も今50歳になってようやくわかるのですが、当時よく素直に打ち明けたなと。母の状態を見て、父なりに頑固な生き方を変えて『よき老人になろう』と思ったのかも(笑)。まもなく免許は自主返納し、その後は弟の運転で好きなところに連れて行ってもらい、満足していたようです」

*後編に続きます

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