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独居の親が急に入院 保険証は有効期限も大丈夫?専門家がアドバイス

電話を受ける人。高齢になった親の急な入院にビックリ。どのように備えておけばよかったのでしょうか。専門家にアドバイスをいただきます

中高年世代の人にとって、いつ起こってもおかしくないことの一つが「高齢になった親の急な入院」です。きちんと備えていなければ、予定外の多額の出費になりかねないだけではなく、支払いをめぐってもめるようなことになれば、家族の不和にもつながりかねません。どのように備えておけば良いのでしょうか。架空の朝日太陽さんのエピソードをもとに考えていきます。アドバイスして下さるのは、高齢になっても安心、安全に財産管理や契約など経済活動を円滑に行える社会の実現に向けて取り組む一般社団法人「日本意思決定支援推進機構」の理事で、社会福祉士の上林里佳さんです。

【今回のエピソード】
東京で働く朝日太陽さん(50)。地方で一人暮らしをしている母の月子さん(78)が、外出先で転んで骨折し、救急車で運ばれたと連絡が入りました。急いで、駆けつけると、医療機関から、月子さんの保険証を持ってくるように言われました。けれど、実家のどこにあるか分かりません。必死に探して見つけた保険証は、有効期限が切れたものでした。新しい保険証が見つからなかったため、役所で再発行の申請をすると、次は保険料の滞納が判明。滞納金、延滞金を支払うように言われてしまいました。

備えのためのアドバイス

国民皆保険が整備されている日本では、公的医療保険によって医療費の自己負担は1~3割で済みます。しかし、それも、加入している公的医療保険の保険証があってこそです。保険証を提示しなければ、医療機関によっては、いったんは全額支払うように求められることもあります。保険証があっても、有効期限が切れていれば、再発行の申請が必要になります。月子さんのように75歳以上の人は、後期高齢者医療制度に加入していますので、役所の担当窓口に相談し、手続きをとりましょう。
保険料に滞納がある場合は注意が必要です。滞納期間の長さなどに応じて、「短期保険証」(有効期限が短い)や、「資格証明書」(医療機関でいったんは全額を支払う必要がある)が交付されることになります。通常の保険証を得るためには、滞納金や延滞金を支払わなければなりません。

親の具体的な生活をイメージすることが大切

こうしたことを防ぐためにも、日頃から「もし、親が急に入院したら、どういうことが必要になるのか」ということを、親の具体的な生活をイメージしながら考えておくことが大切です。まずは、健康保険証や通帳、印鑑をどこに置いてあるかは、確認しておきましょう。民間の生命保険に入っていれば、入院給付金などの請求も考えられますので、保険証書のある場所と内容を把握しておくとなお、安心ですね。

ただ、親にそのようなことを尋ねにくいと思われる方もいるかもしれません。「がんになったら」「認知症になったら」などは深刻な話になってしまいがちですので、今回のエピソードのように「転倒して骨折することはあり得るから」「このあいだ、近所の人がそんなことになっていたので気になって」「テレビでも見たのだけれど、心配になって」という風に、親を心配する気持ちを込めて話をもちかけてみてはいかがでしょうか。

保険証、通帳、印鑑

その際には、保険料に滞納がないかを年金通知書や通帳の履歴で確認するとともに、支払い方法が「引き落とし」か「振り込み」かも確認しておきましょう。これは、電気や水道といったライフラインの支払いに関しても重要な点となります。「振り込み」だった場合には、入院が長期に及んだ時には、代わりに支払いをしておかなければ、その間に未払いになってしまい、退院して自宅に戻った時には、ライフラインが止まっているということも考えられます。逆に、配達されている新聞や牛乳などは、入院中には止めておかなければ、不要な支払いをすることになるほか、防犯上、不用心な状況になってしまいます。

主治医とも連絡がとれる関係に

さらに、高齢になれば、一般的には、何か一つくらいは慢性的な病気があり、日ごろから通院している人が多いものです。親の主治医が誰かを知っていて、困ったときには遠慮なく連絡が取れる、また何か気になることがあれば、主治医から家族に連絡がもらえるような関係性があれば、心強いです。ほかにも、急な入院時、主治医に連絡することで、自宅近くや、主治医が連携しやすい病院を紹介してくれたり、病状を伝えてくれたりすることもあります。そうすることで、入院後の治療もスムーズに進められます。
すでに、難病に指定されているような病気(パーキンソン病や潰瘍性大腸炎など330超の病気が指定されている)で治療を受けていて、特定医療費受給者証を持っていれば、さらに医療費の減額を受けられることもあります。病気によって受けられる助成は異なりますので、医療機関に一度、相談してみると良いと思います。
何よりも大切なのは、親のいつもの暮らしをどれだけ知っているかということです。日常的に親とのコミュニケーションを積み重ねていくことが、「備え」につながります。

上林里佳さん
上林里佳(かんばやし・りか)
京都市出身。上林里佳社会福祉士事務所代表。日本意思決定支援推進機構理事。成年後見人。社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、証券外務員。元証券会社・元地域包括支援センター職員。福祉、医療、法律、金融機関に対し「認知症高齢者対応実践編」「認知症高齢者の意思決定支援」「シニア層の健康と医療」「成年後見人」「高齢者虐待対応」等の講演を行う。「認知症の人にやさしい金融ガイド~多職種連携から高齢者への対応を学ぶ」等、共著多数。

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