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Better Care 通信

若年性認知症の人の暮らしの場が必要 元看護師の願いをカフェに託して

介護情報季刊誌「Better Care(ベターケア)」となかまぁるのコラボレーション企画です。同誌に掲載されたえりすぐりの記事とともに、なかまぁる読者のための、雑誌には載っていない情報を加えてお届けします。野田真智子Better Care編集長からのごあいさつはこちらです。

2020年11月には、まだ、朝食を提供できていたカフェ エナジャイズにて
2020年11月には、まだ、朝食を提供できていたカフェ エナジャイズにて

本音のトーク

毎月第3火曜日の午後、大きなガラス窓の明るいカフェに、連れ立って集まってくる人たち。ご夫婦連れが目立つが、1人で参加している人もいる。その人たちに、「あ、いらっしゃい!」「こんにちは」とさわやかな声かけをしているのは、このカフェを主宰する中島珠子さん。それぞれが好きな席に陣取り、中島さんが用意してきたポットからおいしいコーヒーを注ぎ、軽いお茶菓子をつまみながら、思い思いにおしゃべりする。

「〇〇さん、こんど特養に入るんですって」「やっぱりそうなんだ」「△△さんは、入院したね」「うん、でも、もうすぐ退院らしいよ」「このごろもまだ、たくさん歩いている?」「最近は前ほどじゃない……」

近況を伝えあい、気兼ねなく困りごとの相談もする。

──この間、お散歩に出ちゃって、探してもみつからない。結局、ラーメン屋さんに入ってご飯を食べてた。誰か知らない人についていっちゃったみたい……。

──うちなんか以前、自転車で多摩ニュータウンまでいっちゃったときは、本当にまいったな。見つからないよね、そんな遠くまでいってるとは思わないから。

──最近は、GPSの位置情報で探せるようになったから安心。

──それが、子ども用の腕につけるタイプだと、位置情報が3、4秒に1回しか届かないから、その間に違う場所にいっちゃってすぐには見つけられない。

──そういう情報って、地域包括(支援センター)にいったらもらえると思うでしょ。ところがうちの近くの地域包括は、相談に行っても、ゆっくり話も聞いてくれないし、まったく役に立たない。

──相談にのってくれたのは、渋谷区じゃなくて品川区の地域包括。親切に話を聞いて、GPSの情報を教えてくれたうえにパンフレットもくれた……。

誰にも遠慮のいらない、本音の会話がつづいている。

お茶を飲みながらおしゃべり
お茶を飲みながらおしゃべり

暮らしの保健室+カフェ

中島さんは20代後半で結婚して以来、看護師の仕事をやめて、子育てや実母と夫の母の介護に明け暮れた。その間に、約30年前には若くして夫が逝った。それから、2人の母を見送った後、何か社会の役に立つことをしたいと思っていたところ、ちょうど近所の高齢者介護施設で送迎ボランティアの募集があった。応募したところ、施設側から、ドライバーではなく不足している看護師として働いてほしいと請われ、施設看護師になった。それから約10年たった2019年に、体調を壊して退職した。

その間に、高齢者や認知症に関しての学びを深め、2014年からは、公的な会場を借りて毎月1回、区の推奨するオレンジカフェ(認知症カフェ)の「たんぽぽカフェ」を開催、現在もつづけている。

「すると、近くの地域包括の方から、ご近所に2年間も引きこもっている若年性認知症の方がいるので、誘ってみてほしい、といわれたんです。ちょうど、その直前に丹野智文さんの講演を聞いたばかりで、若年性認知症の方のための居場所が必要だなと思っていたところでした。地域包括の方々の後押しもあって、結局、caféマリエを開く決心をしました」

開設は2017年。以来、公的会場を借りて毎月1回、若年性認知症の本人と介護家族のための集いを開催してきている。ところが、この新型コロナウイルス感染症の広がりで、公的な会場を借りることが難しくなった。

そのとき、たまたま現在の場所「カフェ エナジャイズ」を貸してくれる人がいた。立ち上げのころ支援してくれた地域包括の認知症支援推進員だった山田純さん。カフェ エナジャイズを会場に「暮らしの保健室※ なかの本町」を開設し、中島さんもそこを手伝うことにした。そしてcaféマリエも、その一環としてここで開くことになったのだ。

「ただ、新型コロナ対応で、カフェ エナジャイズの活動は現在、完全休止中です。暮らしの保健室なかの本町のほうは、毎週月曜~水曜の午前10~12時だけ、個別対応で相談を受けています」 

そして、第3火曜の午後は中島さんや仲間がこの場所に詰めていて、若年性認知症の本人や家族の居場所であり、交流の場にもなっている。実は、ここの住所は渋谷区ではなく中野区にある。ほんのちょっとだけ、越境だが。

※地域の健康に関する質問、生活にかかわる相談などを専門職が当番で受け、連携しているそれぞれの専門機関などにつなぐ活動

若年性認知症本人の池田玲子さん。朝食の提供が終了し、ランチをいただくところ
若年性認知症本人の池田玲子さん。朝食の提供が終了し、ランチをいただくところ

若年性認知症用の住まいを

緊急事態宣言がまだ出ていなかった2020年11月。カフェ エナジャイズでは、地域の一般の人にも向けて、朝食サービスを開いていた。1人でご飯を食べる人たちが集まってきて、ここで手軽な価格で栄養バランスのいい食事をとれるように、というものだった。ところがこの活動も、その後の新型コロナの広がりから開催できなくなり、21年3月にこの場所で開かれているのは、時間を制限した暮らしの保健室とcaféマリエの活動のみになっている。新型コロナ流行拡大を抑えるための方策が、高齢者や認知症の人の暮らしをも大きく変えていしまっているのだ。

それでも、中島さんたちマリエの仲間は、できる限りの防護態勢をとりつつ、いくつかの活動を展開してきている。みんなで都内の大きな公園に散歩にでかけたり、三浦半島に遠足にいったり……。3月中旬には、区民や、区に通勤・通学する人が、認知症を理解し、「いつ自分が認知症になっても大丈夫」「認知症になっても安心して暮らせる」と思える街づくりを目指して渋谷区が開催した「渋谷区 認知症なっても展オンライン」にも登場。中島さんや、マリエメンバーの男性介護者2人が、自分たちの思いを率直に語った。

一緒に楽しめるときに、楽しい経験を積み重ねておきたい。いつか、それもできなくなるときがくるのは、わかっているから。

都内の大きな公園に集まり、みんなでギター伴奏で合唱
都内の大きな公園に集まり、みんなでギター伴奏で合唱

デイサービスはいま、若年性認知症に対応したケアのできる事業所も増えつつあり、渋谷区でも、それを応援している。だが、若年性認知症の場合、子育て中の家庭もあったり、本人や家族が働いて収入を得なければ生活が成り立たない。高齢期の認知症発症とは大きく異なる事情を抱えている。

そして中島さんは、ある思いをもっている。

「若年性認知症は進行性の病気なので、できるだけ自宅でと思っても、いつかは施設に入らざるを得なくなるときがきます。しかし、超高齢期の方々と一緒の暮らしは難しいのです。でも、入居施設を必要とする人数が少ないため、区として対応することはできないといわれています。本当は、若年性認知症の人たちのための暮らしの場が必要なんですが」

歌を歌うといっても、80代、90代の人たちとは「懐かしい」と思うものが違う。身体の動きや反応のスピードもまったく異なる。同じ認知症として同等な扱いをされては「その人らしく」暮らすことなど、できはしない。

マリエに通ってくる仲間が、最近人数が減ってきている。施設入所が増えているのだ。ここでも新型コロナ流行の影響がみられる。

若年性認知症のための暮らしの場の建設をと声を上げる活動も徐々にしていきたい。ただ、新型コロナ自粛を余儀なくされている現在、どうしたら、本人や介護する家族のストレスを軽減し、安心して暮らせる手助けができるか。できることからしていく以外ない。

「とりあえず、みんなで定期的に公園を散歩する会を開く? お散歩の途中で使える公共のトイレマップづくりでもする?」

caféマリエに集いながら、なんとか暮らしを維持していく人たちの日常は、こんなふうにつづいている。

café マリエ──若年性認知症本人と家族の会
日時:毎月第3火曜日 午後1時~5時
場所:カフェ エナジャイズ(東京都中野区本町2-5-6)
連絡先:090-7236-7462(中島珠子さん)

その後のcaféマリエ
取材後、東京には再度、まん延防止等重点措置と緊急事態宣言が切れ目なく発令されつづけ、人々が自由に集まる機会は、奪われてきました。

そんななか、caféマリエも、掲載記事のような「暮らしの保健室 なかの本町」でのリアルな開催はできなくなったのです。ところで、主宰者の中島珠子さんはcaféマリエ同様に、もう一つ「たんぽぽカフェ」も主宰しています。地域で定期的に開催するようになって、たんぽぽカフェは8年目、caféマリエは4年目の渋谷区オレンジカフェです。

中島さんは、双方のカフェの仲間に相談をしたうえで、毎月第2土曜日に開催している「たんぽぽカフェ」にcaféマリエの仲間も合流して参加することとし、合同カフェが開催されることになりました。

最初の合同カフェは7月10日に開催され、その折の様子を、中島さんはこう話してくれました。

「若年性認知症のご本人も一緒なので、少し心配していましたが、とてもスムーズでした。 受け入れ側のたんぽぽカフェのお仲間も温かかったので、caféマリエのご本人・ご家族も居心地がよかったと思います。

『もしあなたが、認知症と診断されたら?』をテーマに、皆さんに自分事として考えていただきましたが、多くの参加者は、若年性認知症本人の話をメモを取りながら熱心に聞いて『いろいろ学ぶことができてよかった』と述べています。本人、家族のほうも、とくにこだわりもなく普通にされていたことが、とてもよかったですし、認知症への理解が少し広まったかなぁと、うれしくなりました」

当日の参加者は、カフェの一般のお客さま、地域包括支援センター職員、認知症支援推進員、看護師、民生委員、ボランティアスタッフを含む18人。参加者の話し合いのほかに、包括センター長のお話「認知症は、特別な病気ではない」や、ボランティアスタッフによる寸劇「街で認知症の人に声かけするときは?」などがあり、さらにお客さまのなかから、診断直後の認知症のカミングアウトがあり、助け合いの街をつくっていこうと心をひとつにできた中身の濃いオレンジカフェとなった、と感じたそうです。

緊急事態宣言は、オリンピックの閉会式のある8月8日に解除される予定ですが、中島さんは8月も、合同カフェのかたちで14日に開催する予定だとのことです。

※2021年7月当時の記事です

東京都渋谷区の介護環境

福祉の概況
・渋谷区は、わが国でもっとも有名な若者文化の中心地として知られる。2015年、世田谷区とともに、全国初の同性パートナーシップ証明制度をスタートさせ話題になった。渋谷駅前のスクランブル交差点は、海外映画のロケ地になったことなどをきっかけに「世界で最も有名な交差点」に
・渋谷区の総人口は230,203人(2021年3月1日現在)、高齢化率は18.9%(2019年3月末日現在)
・要支援・要介護認定者数は、9,146人。要支援1=1,726人、要支援2=1,701人、要介護1=1,558人、要介護2=1,202人、要介護3=1,050人、要介護4=1,034人、要介護5=875人(2020年4月末日現在)

主な相談窓口(地域包括支援センター)
豊沢・新橋           TEL:03-3440-1671
パール             TEL:03-5458-4814
ひがし健康プラザ        TEL:03-5468-5901
大向              TEL:03-5465-0520
富ヶ谷・上原          TEL:03-3467-2371
西原              TEL:03-3372-1038
つばめの里・本町東       TEL:03-5334-9977
笹幡              TEL:03-5365-1611
千駄ヶ谷・北参道        TEL:03-3475-1461
ケアコミュニティ・原宿の丘   TEL:03-3423-2112
総合ケアコミュニティ・せせらぎ TEL:03-5790-0881

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