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楽しく、無理なく みんなの「欲求」大切に共存 台湾の高齢者後編

LIFE IS CREATIVE展2019の様子(撮影/片山俊樹)
LIFE IS CREATIVE展2019の様子(撮影/片山俊樹)

前編に引き続き、日本と同じく高齢化社会に歩みを進めている台湾の先進事例を、丸山僚介さんが紹介します。紹介する事例は、高齢化社会問題をクリエーティブに解決する試みを展示した、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)の企画「LIFE IS CREATIVE展2019」から抜粋しています。

事例3 やりがいに満ちる終の棲家「好好園館(はおはおえんかん)」

台湾の高齢化社会に向けた取り組みを紹介します。サービス付き高齢者住宅(サ高住)が人気の「インスタ映え」スポットに登場しました
写真提供/KIITO

好好園館(はおはおえんかん)という名前の施設は、サービス付き高齢者住宅(以下、サ高住)です。終の棲家としても選ぶことができる、しつらえの住宅ですが、完成までのプロセスとそのサービスは他とは一線を画していました。日本によくあるサ高住には到底見えないその施設の運営の核には、シニアのやりがいを創出するための取り組みが隠されていました。まずは、このサ高住の前段ともいえる「好好聚落(はおはおしゅうらく)」についてお話しします。

美しい山々の中に開かれた土地にパステルカラーのコンテナハウスが立ち並ぶレジャー施設、「好好聚落」が台中にあります。コンテナハウスにはものづくり体験のできる工房やカフェ、パン屋などの機能がインストールされており、屋外には園内で消費される野菜をつくるための農園やくつろげる公園、バーベキュー施設などが設備されています。この施設は若者ターゲットとして2016年にオープンしました。彩り鮮やかなこの施設は「インスタ映え」するスポットとして人気を博し、オープンから2018年までの2年間で30万人もの来場があったと言います。この施設がなんと、サ高住建設のための下準備だと聞き、その真意を伺うために台中へとリサーチに向かいました。

台湾で人気のレジャー施設に、介護サービス施設ができました
写真提供/KIITO

実際に訪ねてみると、この施設の運営のかなめとして、シニアスタッフが大きな役割を担っていることがわかりました。近隣のデイケア施設などに通う方々の、個々の得意分野を生かしたワークショップを企画して講師として招いたり、カフェのスタッフとして働いてもらったりすることで、来園者へのサービスを提供する側としてシニアが活躍する場が用意されているのです。シニアの雇用が創出され、彼らの新たな活躍の場を生むためのシステムが整えられていました。

そして2019年、隣接地にサ高住「好好園館」の建設が始まり、2020年春にオープンしました。このサ高住の最大のメリットは、ここに住まうシニアがおのおのの希望時間で好好聚落で働くことができ、収入を得ることが可能な仕組みです。更に、園内の休憩スペースは好好園館の居住者の庭としてくつろぐことも可能で、働くだけではない多様な使い方も想定されています。

「インスタ映え」スポットとして若者が多く訪れた台湾のレジャー施設が、高齢化社会への施策の一つとしてかかわっています
写真提供/KIITO

シニアの新たな活躍の場をつくる目的のもと、若者の集う場づくりからスタートし、その後にシニアらの住宅を設備するという特異なプロセスが功を奏し、シニアと社会との新たな接点が創出されていました。多世代交流が日常化するこの施設には、新たなシニアの暮らし方を指し示すような活気にあふれるコミュニティーが育まれていました。

事例4 家族もケアする料理キット「聊癒(りょうゆ)Fookit」

認知症の方とその家族のためにデザインされたお菓子作りキットの紹介
写真提供/KIITO

この商品は認知症患者とその家族のためにデザインされたお菓子作りキットです。

家庭内での認知症ケアは専門的な知識がない中で行われるものが多く、介護者の心理的な負担が課題視されています。この家庭内でのケアの一助となるべく考案されたのが、非薬物療法としての聊癒(りょうゆ)Fookitです。介護者と認知症患者がともにお菓子作りに取り組む中でコミュニケーションを生み出し、その中での症状の改善が目指されています。お菓子を作る行為を認知し、手順通りに進めて実行することで時間の感覚を取り戻すことなど、非薬物療法の重要な要素を組み込んだキットになっています。

認知症当事者が作りやすいようにデザインされた、台湾のお菓子キットの説明書
写真提供/KIITO

手順もイラストを多く使うなどわかりやすさを重視したデザインにしてあり、子供からシニアまでが一緒に楽しむことができる仕組みになっています。また、ラッピングまでが手順に組み込まれ、自分のためではなく「誰かのために作る」という意識を持たせることで、さらなるコミュニケーションのきっかけが生み出されます。

認知症のケアにおいての専門知識を持たない家族をサポートするだけでなく、家族間のコミュニケーションまでがデザインされていました。

認知症と台湾

どのアクションにおいても共通して、不可逆的に進行するとされる認知症に対してあらがうのではなく、ポジティブに共存していく意識を強く持っていることがヒアリングできました。
そしてそれ以上に、この課題に取り組むあらゆるステークホルダーがいかに楽しく無理なく関わることができるか、持続可能なエコシステムが確立できているかを重要としている点に台湾の事例の先進性を感じました。

台湾に比べると日本では高齢者介護や認知症ケアの現場においてのタブーが多いように思います。それらは確かに命を守るうえでは大切かもしれません。ただ、ケアを受ける側の欲求は、大小さまざまな「諦め」によって包み隠されてしまっている可能性があるのではないでしょうか。ケアする側にも、「欲求」の存在に気づいているものの、実現させてあげられない歯がゆさもあるのではないでしょうか。

この「諦め」を丁寧にすくい上げ、果敢に新たな挑戦をしていく台湾の各事例は、ケアする側もされる側もやりがいにあふれた生き方を探求し合う、これからの「あたりまえ」であるべき姿を私たちに想像させてくれました。

デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)のプロジェクト「LIFE IS CREATIVE」についてはこちら

丸山僚介さん
丸山僚介(まるやま・りょうすけ)
2014年よりデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)勤務。「+クリエイティブ」をコンセプトに社会的課題の解決を目指すさまざまな活動や、レクチャー、ワークショップ、展示などの企画運営を行なう企画事業部のチーフスタッフを務める。2019年度に開催した「LIFE IS CREATIVE 展 2019 高齢社会における、人生のつくり方。」にて台湾の先進事例のリサーチ、展示を担当した。

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この連載について

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